2014年3月30日(日)



2014年3月29日(土)日本経済新聞
初のマイナス金利 債券貸借、緩和で国債不足
(記事)

 

 


【コメント】
記事の内容は全てデタラメでしょう。

 

マイナスの金利というのは概念的にあり得ないと考えてよいと思います。
その理由は単純であり、お金を貸して相手方に利息を支払うくらいなら、はじめから貸さない方がましだから、というだけしょう。
経済合理性に従えば、利息を受け取る目的で、お金を貸すわけです。
お金を貸した側が利息を支払うでは、話があべこべでしょう。

ただ、取引先等に対する経営支援目的で無利息でお金を貸すということはあると思います。
この考えの延長線上に、追加支援を行う目的でお金を追加的に相手方に渡すということは考えられると思います。
その場合は、結果としてマイナスの金利のような状態になるとはいえるかもしれません。
決してはじめからマイナスの金利が付されているわけではありませんが、
追加的に貸し出すとなりますと、元本合計額と受け取った・支払った利息、そして返済額から、
いわゆる利回りがマイナスになることはあり得るわけです。
貸し出した全額が返済され、一定の利息を受け取ることが前提の貸出金の場合は、
利回りがマイナスである状態は結果としてマイナスの金利になった、というような言い方ができるかもしれません。


ただ、この「追加支援を行う目的でお金を追加的に相手方に渡す」場合の会計処理については、
貸出人、借入人双方について、それぞれ3通りずつ考えられるように思います。
貸出人が借入人に100円貸し出しているとします。
この貸出金には通常のプラスの利息が付されていおり、利率は5%だとしましょう。
ところが、利払い日に借入人は経営不振から利息を支払えないとします。
貸出人は経営上の理由から借入人を倒産させるわけにはいかないと判断し、借入人に対し追加的に10円お金を渡したとします。
この時、このお金の授受に関し、両者の仕訳は次の3通りが考えられると思います。

 


@貸出人から借入人への追加貸出だと見なす場合


貸出人の仕訳

(貸出金) 10円 / (現金預金) 10円


借入人の仕訳

(現金預金) 10円 / (借入金) 10円

 

注:どちらによっても、税務上益金でも損金でもない。
  企業会計上も損益には一切影響を与えない。

 


A貸出人から借入人への利息の支払いだと見なす場合(マイナスの金利と見なす場合)


貸出人の仕訳

(支払利息) 10円 / (現金預金) 10円


借入人の仕訳

(現金預金) 10円 / (受取利息) 10円

 

注:貸出人にとっては支払額は税務上損金、借入人にとっては受取額は税務上益金となる。
  企業会計上もそれぞれ、営業外費用、営業外収益となる。

 



B貸出人から借入人への寄附だと見なす場合


貸出人の仕訳

(寄附金) 10円 / (現金預金) 10円


借入人の仕訳

(現金預金) 10円 / (受取寄附金) 10円

 

注:貸出人にとっては支払額は税務上損金算入されない。
  借入人にとっては受取額は税務上益金となる。
  企業会計上もそれぞれ、営業外費用、営業外収益となる。

 


以上のような3通りの会計処理方法が考えられるかと思います。
税務上の取り扱いについてですが、非常に細かな定めが税法にあったり、経営支援目的の場合はまた別の考え方があったりと、
ケースバイケースの側面もあったりすると思いますので、厳密な細かな定めについてはここでは触れません。


当初当事者間で契約により定められていたはずの「支払われなかった利息」の取り扱いについては、考え方が難しいと思います。
貸出人としては、とりあえずこのたびの利払い日には利息は支払わなくてもよいと判断したわけですが、
「支払われなかった利息」というだけでは益金でも損金でもない、という取り扱いに税法上はなると思います。
当事者の自由意思で当初の契約内容を変更しただけだ、となると思います。


それから税法上、「マイナスの金利」というものは基本的には想定してないと思います。
ただ例えば、当事者の自由意思によって、貸出金に当初からマイナスの金利を設定した場合は、どうなるのだろうか、という気がします。
税法上支払利息そのものではないが、業務に直接、間接の関係をもっている相手方に対してなされる支出、ということであるならば、
税法上「交際費」と認められ、税法上損金算入が可能になるのかもしれません。
そう考えると、その経済合理性はともかく、結果的には税法上は間接的に「マイナスの金利」を認めている、という形になると思います。

 



また、借入人に対し追加的にお金を渡したことは、マイナスの金利(支払利息)でも寄附金でも交際費でもなく、
追加的に貸出を行ったもの、と見なすこともできると思います。
このように考えるためには、当事者の自由意思で当初の契約内容が変更されることが必要だとは思いますが。
例えば、増加した元本まで含めて返済期日にまとめて返済を受けたとします。
それはあくまで元本の返済であって、決して受取利息を受け取ったものではないわけです。
つまり、返済額全額が資本取引なのであって、その一部は損益取引(受取利息)と見なされるのはおかしいような気がします。
元本そのものがその後増加したのであって、当初の元本額より多い金額の返済を受けたとしても、それは利益を得たことには全くならないでしょう。
ここで私が思うのは、税法はどこまで当事者間の契約内容やその変更を斟酌するものなのだろうか、という点なのです。
他の言い方をすれば、税法はどこまで私的自治の原則を尊重し、また、否認するのか、という点が気になるわけです。
当初の契約では5%の利息を受け取るという内容だったわけですが、実際は逆に追加貸出をしているわけです。
受取利息に相当するものは何ら受け取っていない(だから益金はないと見なされる)わけですが、
これは当事者間において契約を変更したもの、ということで、税法は契約内容の変更を尊重しているわけです。
一方で、契約内容は当事者間で全く自由に決めてよい(当初の契約内容の変更も全く自由)となりますと、
経済合理性に反する行為(商取引)すらも税法上容認する、というところにまで最後は行き着くわけです。
当事者が行うであろう経済合理性を課税の前提にしないと、課税の基準すらもなくなってしまうような気がします。
例えば、「当初の契約通りの利息を支払えなかった相手方に追加貸出をするだろうか?」という税務的・課税論的猜疑心を持ち、
「そのような経済合理性に反する行為をするはずがない」、と判断できる場合は、
それは追加貸出ではなく、やはり寄附だ、という税務的・課税論的結論に税務当局が達することはあり得ると思うわけです。
この場合、寄附金は損金算入されない上に、返済日に増加後の元本額の返済を受けると、
当初の元本額との差額は受取利息相当(益金)と見なされてしまい、二重に税務上不利、となると思います。
これは税法が私的自治の原則(契約内容やその変更)を否認したものと言えるでしょう。
一方で、当事者としては、十分な返済見込みがあって追加貸出を決定したのかもしれないわけです。
税務当局が寄附であると判断していることが間違いであるかもしれないわけです。
税務的・課税論的猜疑心は持ったものの、税務当局は寄附ではなく追加貸出であることを認めたとします。
これは税法が私的自治の原則(契約内容やその変更)を尊重したものと言えるでしょう。
実際の取り扱いはケースバイケースというだけかもしれませんが、ここでは税務理論的に考えると、
税務当局の私的自治の原則(契約内容やその変更)への介入度(適否判断)には絶対的な答えはないように思いました。
税務当局はどこまで当事者の意思を尊重すべきであり、どこから先は客観性・公平性を重視すべきなのか、と思いました。
例えば、当初の契約内容には合理性があったはずですが、それを後になって変更するとなりますと、
税務当局としては、客観性・公平性の観点から簡単には変更を認めるわけにはいかない、というような場面もあると思います。
税法はどこまで私的自治の原則を斟酌するべきなのか、という線引きは、税務理論上実は極めて難しい問題なのではないかと思いました。