2014年3月24日(月)



2014年3月14日(金)日本経済新聞
■日本ガス 純利益90億円に上振れ
(記事)





2014年3月13日
日本ガス株式会社
特別利益及び特別損失の計上並びに業績予想の修正に関するお知らせ
ttp://v4.eir-parts.net/v4Contents/View.aspx?cat=tdnet&sid=1133102

 


【コメント】
現地州議会が、現地の石炭権益会社の石炭権益ライセンスを取り消す特別立法を可決した、とのことです。
これに伴い、日本ガス株式会社は投資有価証券評価損をけいじょうすることになったようです。
当該石炭権益会社株式に係る損失の法的手段による回収可能性等の調査及び検証は行ったものの、

>特別立法は、石炭権益ライセンスの取り消しに関連したNSW 州政府に対するいかなる法的請求権(不法行為責任・使用者責任等)も
>明確に否定するという、極めて異例な内容を定めている

とのことで、特別立法の内容・法的手段による補償請求の可能性、及びNSW 州の政治的不透明性等を総合的に勘案した結果、
残念ながら、平成26 年3 月期に1,944 百万円の投資有価証券評価損を計上することになったようです。

 


「4. CCPL 社株式価値の毀損の有無及び程度・法的回収可能性」
(3/4ページ)



この事例を端的に表現すれば、「法の遡及適用」ということになると思います。
プレスリリースには、

>平成24 年4 月には、NSW 州政府から、同州にある全ての石炭権益ライセンスを調査した結果、
>CCPL 社に関してはコンプライアンス等の問題はないとする調査結果が公表されていました。

ということです。
この事例の場合は、石炭権益会社も投資家も何ら非はないにも関わらず、突然会社の運営が認められなくなったようです。
「法の遡及適用」の典型例だと思います。


ただ私は同時に、ふとあることに気付きました。
石炭権益会社に関してはコンプライアンス等の問題はないが、特別立法により、
「石炭権益会社が付与している日本ガス株式会社へのライセンス自体を取り消すことは果たして法理的にできるのだろうか?」
と思いました。
例えば、現地州政府が石炭権益への外資の参入を一定額未満に制限したいと思っているとします。
しかし、既に外資系企業が参入済みであり、一定額以上の石炭権益を外資系企業が既に所有しているとします。
この時、現地州政府は特別立法により、
「石炭権益会社が既に付与している外資系企業へのライセンスを事後的に取り消すことはできるのか」
という問題が生じると思います。
もし事後的に現地州政府が特別立法により、石炭権益会社が既に付与している外資系企業へのライセンスを強制的に取り消したとすると、
これもまた「法の遡及適用」ではないかと思いました。

仮に、石炭権益会社には現時点でコンプライアンス等の問題があるとしましょう。
その場合、この法令違反を根拠に州政府が石炭権益会社の運営を認めないのは「法の遡及適用」ではありません。
しかし、石炭権益会社にも投資家にも何らコンプライアンス等の問題はないのに、特別立法を行い、現地州政府が
石炭権益会社が既に付与している外資系企業へのライセンスを強制的に取り消す、というのは「法の遡及適用」であるわけです。

 


「法の遡及適用とは何か」



法による同じ「権利の取り消し」でも、@とAは異なる。
@は、当該現地石炭権益会社やその採掘・販売を認めないとする権利の取り消し。
Aは、あくまで権益会社から出資者へのライセンスのみを認めないとする権利の取り消し。

Aは、以前に発生した正当な権利を、事後的に制定した法律によって否定しようとするものですから、法の遡及適用です。
しかし、@は、ただ単に一定の法律違反が認められたから会社の運営を認めないとするものですから、法の遡及適用でも何でもありません。


石炭権益ではなく会社法関連分野で言えば、

特別立法により、政府が、
「あなたは確かにその会社の株主ですが、あなたに会社に対する議決権は認めません。」
と言ったら、法の遡及適用。
しかし、特別立法により、政府が、
「その会社には法令違反が認められたので、会社財産は政府が接収し会社を解散させる。」
と言っても、法の遡及適用ではない。
もちろんここでの法令違反というのは特別立法で定められた内容に会社が反しているという意味では決してなく、
従来からある法令に会社が違反している、という意味ですが。

会社と出資者との間の権利関係を事後的に否定することはできない(法の遡及適用となる)が、
会社自体が法令違反等の理由により消滅することはあり得る(それは法の遡及適用ではない)、と言えるでしょう。


他にも、「石炭権益会社と投資家との関係に対して政府が介入するのはおかしい」という法理的な見方もあると思います。
政府が特別立法を行いライセンスを取り消すというのは、「法の遡及適用」であるという見方に加え、
「私的自治の原則」を犯すものであるという見方ができると思います。
議論の焦点を絞るために、石炭権益会社に関するコンプライアンス上の問題の有無については度外視しますと、
少なくとも、石炭権益会社が投資家に既に付与しているライセンスを特別立法により事後的に政府が取り消すことは、
「法の遡及適用」である、ということだけははっきり言えるかと思います。