2014年2月8日(土)
大規模な上場企業の創業者は、たとえ自身が経営を続けられるような株主構造になっていたとしても、
その支配権を維持するのに苦労が絶えないようだ。
米グーグルは2012年4月、1対2の株式分割を提案した。実施されれば、発行済み株式数が2倍に増え、理論的には株価は半値になる。
一方、創業者のラリー・ペイジ氏とセルゲイ・ブリン氏は引き続き同社の方向性を厳しくコントロールすることができる。
グーグルが当時発表した12年1-3月期(第1四半期)決算は61%の増益となり、同社の株価は650ドル前後で推移していた。
それから約2年がたち、株主代表訴訟では和解が成立。株価が1133ドル前後で推移する中、株式分割のスケジュールが決まった。
簡単に言うと、グーグルの全株主は4月2日にクラスA株またはB株1株につき新しいクラスC株を1株受け取る。
指数集計会社のS&Pダウ・ジョーンズ・インディシーズは3日付の発表文で、
「クラスC株はやがて、取引されるグーグル株の主流になる」との見通しを示した。
さらに、株式分割によって理論的には株価が下がるため、小口投資家がグーグル株を入手しやすくなりそうだ。
クラスC株には議決権が付かない。これは創業者のペイジ氏とブリン氏が、自身の持ち株比率が低下しても
同社に対する支配権を維持できるように決めたものだ。当初は、一般投資家が現在保有するクラスA株の10倍の議決権があり、
創業者が保有するクラスB株がその役割を果たすことになっていた。だが、両氏は12年に投資家宛ての書簡で株式分割を提案した際、
こうした構造が徐々に崩壊しつつあると指摘した。
両氏は書簡で「極めて長期的に見ると、従業員への定期的な株式報酬支給に伴う日常的な株式希薄化や、
株式を使った買収などによって見込まれる希薄化は、当社の二重株式構造と意欲をむしばむ可能性が高い」と説明。
新たに導入する議決権のないクラスC株は「株式報酬などで自社用に使う予定だ。
そうしないと、われわれの支配構造が弱まりかねない」と述べた。
クラスC株はペイジ氏とブリン氏の支配権を強めるだけでなく、世界で最も注目されている2つの株価指数の一時的な急落を招きそうだ。
S&Pは、この株式はS&P500種・100種指数に採用されるほか、既存のクラスA株も一時的に別建てで上場を継続すると述べた。
つまり、数カ月間はS&P500種指数の構成銘柄数は501、S&P100種指数の構成銘柄数は101となる。
S&Pは6月20日にクラスA株を除外し、銘柄数を元に戻す予定だ。
(ウォール・ストリート・ジャーナル 2014年
2月 04日 16:41
JST)
ttp://jp.wsj.com/article/SB10001424052702304396804579362071265381480.html
Google’s Stock Split Means More Control for Larry and Sergey
(Wall
Sterrt Journal 7:54 pm Feb 3,
2014)
ttp://blogs.wsj.com/corporate-intelligence/2014/02/03/googles-stock-split-means-more-control-for-larry-and-sergey/
日本語訳の記事は元の英文の記事を全て訳してあると思います。
S&Pからのプレスリリースのみ日本語のサイトにはなかったので、ダウンロードしてこちらにもアップロードしておきます。
S&Pからの発表全文
「Wall
Sterrt Journal上と同じPDFファイル」
A種種類株式・・・1株1議決権。ナスダック市場に上場している。一般株主はこの株式を所有・売買している。
B種種類株式・・・1株10議決権。創業者達のみが所有している。上場はしていない。
グーグルは普通株式は発行していないようです(敢えて言うならA種種類株式が普通株式に相当するでしょう)。
そこで、グーグルがこのたび行おうとしている株式分割というのは、まずC種種類株式というものを新たに発行し、
A種種類株式1株に対し、C種種類株式1株を割当て交付する、ということのようです。
C種種類株式とはどのような株式なのかと言いますと、
C種種類株式・・・議決権なし。新規発行と同時にナスダック市場に上場する計画。一般株主は今後この株式を所有・売買することになる。
とのことです。
これは(アメリカの会社法上本当にこのようなことが可能なのかは分かりませんが)会計理論上は
絶対に実行不可能な株式の割当て交付(株式無償割当)だと思います。
まず、このような”A種種類株式1株に対しC種種類株式1株を割当て交付する”ということを、
概念上、会計上そして法理上どのようにとらえればよいのかかが分かりません。
”株式分割”という表現をしていることと、A種種類株式はC種種類株式の発行・割当て交付後も存続する(上場すら維持される)
という点を見ますと、
「A種種類株式1株を、『A種種類株式1株とC種種類株式1株』へと分割する」
ということを考えているようです。
まず根本的な話をすると、そもそも株式分割(株式無償割当)自体が会計理論上はおかしいわけです。
なぜなら、株式を発行したのに、会社の資本金も資産も増加しないからです(株式を発行した対価がないこと自体がおかしい)。
1株を2株に分割すると、株式1株の価値は半分になります。
経営の結果(利益や損失の計上)とは無関係に、ある株式の価値が突然半分になるというのは概念的におかしいでしょう。
ただ、株式分割を実施しても各株主が所有している株式の価値総額には影響を与えないため、
株式の価値の連続性は完全に失われるという点には妥協する形で、法律上は株式分割は認められているわけです。
教科書には以下のような図で解説が行われています。
「株式の分割」
では、グーグルの株式分割の場合はどこが問題かと言えば、株式に対して異なる種類の株式を割り当て交付している点なのです。
株式を無償で割り当て交付するという場合は同じ株式でないといけません。
なぜなら、無償で割当てる「異なる種類の株式」の価額が全く分からない(計算ができない)からです。
この場合、C種種類株式1株の価額はいくらでしょうか。
全く分からないでしょう。
本来、株式無償割当というだけもおかしいわけです。
なぜなら、無償で割当てる株式の価額が分からない(無償なのでそもそもない)からです。
しかし、同じ種類の株式を割当て交付する場合であれば、(本来はおかしいものの)機械的に発行済株式総数のみが増加したものと考え、
株式1株の価額は結果して算定できる(連続性は無視して改めて再計算できる)わけです。
しかし、無償で割当てる株式の種類が異なる場合は、その無償で割当てる「異なる種類の株式」の価額は全く分かりません。
C種種類株式の無償割り当てにより、A種種類株式の価額の一部がC種種類株式へと移転したことになるわけですが、
A種種類株式の価額はいくら減少し、C種種類株式の価額はいくらと算定・想定されるのか、全く分からないわけです。
300円のりんごを半分に切れば、150円の半分のりんごと150円の半分のりんごに分割される、と(無理やり)考えることはできるかもしれません。
しかし、300円のりんごを半分に切れば、150円の半分のりんごと150円の半分のみかんに分割される、とはどうやっても考えられないでしょう。
りんごからいきなりみかんが出てくるのもおかしいですし、さらに、みかんの元(1個)の価格は300円だった、という根拠もないでしょう。
A種種類株式からA種種類株式が出てくるならまだ分かりますが、A種種類株式からC種種類株式は絶対に出てきません。
また、C種種類株式の元(1株)の価格は300円ではないでしょう。
なぜなら、例えばC種種類株式は議決権がない分、必ずA種種類株式よりも価値・価額が低いわけですから。
以上のことから分かるように、株式を無償で割り当て交付するという場合は、最低でも同じ種類の株式でないといけないわけです。
(また、株式を無償で割り当て交付すると「ある株式の価額の一部が別の株式へと移転することになる」というふうに考えても、
会計理論上株式分割が根本的におかしいことが分かると思います。)
また、これを「C種種類株式の現物(株式)配当」(無償増資、利益剰余金の資本組入れ)と考えることもできないでしょう。
理由は上記の理由と同じになりますが、C種種類株式の価額が分からないからです(価額が分からないため仕訳が切れないでしょう)。
また、「C種種類株式の現物(株式)配当」と無理やり考えたとしても、A種種類株式とB種種類株式の価値は著しく異なることから、
A種種類株式1株にもB種種類株式1株にも「平等にC種種類株式を1株ずつ割当て交付する」では、株主平等の原則に明らかに反するでしょう。
もちろん、ではB種種類株式1株にはC種種類株式を何株割当て交付すれば平等か(B種種類株式はA種種類株式の何倍の価値があるのか)、
にも明確な基準はないのだと思いますが(配当を受け取る権利まで10倍ではないので、単純に10倍価値があるというわけではない)。
また、株式分割に伴い、上場しているA種種類株式の株価は一定度機械的に切り下げられるわけですが、
証券取引所(ナスダック市場)は何を基準にどの程度(何分の1に)株価を切り下げるつもりなのでしょうか。
C種種類株式の価値はA種種類株式よりも低いのは確実ですから、理論上は切り下げ額は「2分の1未満」でないといけないとは思いますが。
指摘しだすとキリがないくらい、問題だらけの株式無償割当だなと思いました。