2013年11月17日(日)



2013年11月15日(金)日本経済新聞 公告
第145期決算公告
東京書籍株式会社
(記事)


 



【コメント】
資本金が80百万円なのに資本剰余金は98百万円、ということです。
そして自己株式が395百万円となっています。
第145期ということは東京書籍株式会社は戦前の設立になるのだとは思いますが、設立時は旧商法に基づき設立がなされたのだと思います。
非上場企業の場合は上場企業に比べると、会社設立後に増資をすることが少ないと言えます。
上場企業は業容の拡大につれ積極投資のため増資をすることが多いのですが、
非上場企業はどちらかと言うと、内部留保を積極的に行うことが多く、増資を行うことは少ないのです。
したがって、現在の資本金の金額は実は会社設立時の資本金の金額と同じ、ということが非上場企業では多いのです。
東京書籍株式会社の場合はどうかは分かりません。
戦前の会社設立というと今とは貨幣の価値も違うでしょうから、
東京書籍株式会社の会社設立時の資本金が80百万円であったのかどうかは分かりません。

 


まあいずれにせよ、新株式の発行の際の規定は旧商法と現会社法とで変わることはありませんので、
今日は新株式の発行の際の規定について考えてみましょう。

株式の発行により株主から払い込まれた金額は、資本金と資本準備金に計上されます。
資本金の計上(増資)に関しては、原則的な規定と容認された規定の2通りがあります。

@原則規定・・・株式の発行により株主から払い込まれた金額を、すべて資本金に計上する。
A容認規定・・・株式の発行により株主から払い込まれた金額の2分の1を限度に資本準備金に計上する。

現会社法でも旧商法でもこのような資本金の計上(増資)方法であった(ある)わけですが、
実は誰もがよく分からないなと感じているのが、「資本準備金」の存在意義だと思います。
私個人としましては、「株式の発行により株主から払い込まれた金額はすべて資本金に計上する」の一言で済む話ではないだろうか、
とずっと思ってきた(今もそう思っている)のですが。
つまり、そもそも原則規定のみで資本金は計上していくべきではないかとずっと思ってきました(今もそう思っています)。
その理由というのも極めて単純であり、そちらの方が債権者の利益保護に資するからです。
「資本準備金って何だ?」という疑問は実は私が会計を学び始めて以来ずっと頭の中にあり続ける疑問なのです。
究極的な結論を言うと、「資本準備金勘定はそもそも不要である」だと思います。
新株式の発行も株主から払い込まれた金額はすべて資本金に計上する、が一番よいと思いますし、
他の組織再編(株式を対価にすることはそもそも不可能ではないかと書いたばかりですがその点は置いておくとして)により
株主資本が増加する場合も、全額資本金として計上していくべきである、が究極的な結論である気がします。
新株式の発行の場合も他の組織再編の場合も、増加する株主資本の一部もしくは全部を資本準備金とすることには特段の意味は見出せない、
という気がします。
極々単純に、新株式の発行の場合も他の組織再編の場合も、
株主資本が増加する場合は全額資本金として計上すればそれで済む話ではないか、と思います。
その理由は何度も書いていますように、極めて単純な話ですが、そちらの方が債権者の利益保護に資するからです。
増加する株主資本の一部もしくは全部を資本準備金として計上しなければならない理由は全くないように思います。

 



この資本準備金が旧商法に誕生した理由というのは、おそらく配当規制に関することだと思います。
旧商法でも現会社法でも、配当に関して以下のような規定がありました(あります)。

企業が、利益処分において社外流出を行う場合には、資本準備金と利益準備金の合計額が資本金の4分の1に達するまで、
社外流出分の10分の1以上を利益準備金に積み立てなければならない。

この規定というのは債権者保護を念頭に置いたものであるのは疑いようがないかと思います。
現金の社外流出の際には債権者の利益に配慮するよう企業に促したものでしょう。
ただ、この規定は上記の容認規定により完全に有名無実化しているわけです。
株式の発行により株主から払い込まれた金額の2分の1を資本準備金に計上するのなら、
資本準備金と利益準備金の合計額ははじめから資本金の4分の1に達しているからです。
4分の1どころかはじめから2分の1に達しています。
株式の発行により株主から払い込まれた金額の2分の1を資本準備金に計上するのなら、社外流出に際しても利益準備金は一切積まなくてよい、
そう言っていることと同じではないでしょうか。
一体何のための配当規制かと言いたくなります。
この社外流出に関する規定は、単純に資本準備金の文言を失くせばよいのだと思います。

企業が、利益処分において社外流出を行う場合には、利益準備金の合計額が資本金の4分の1に達するまで、
社外流出分の10分の1以上を利益準備金に積み立てなければならない。

こうすれば、社外流出に際して利益準備金は一切積まなくてよいなどということはあり得ず、
社外流出の都度十分な額利益準備金が積み立てられていくことになります。
こうすれば、この規定も機能しますし、債権者の利益保護にもつながるわけです。
この規定であれば、新株式の発行の場合も他の組織再編の場合も、増加する株主資本の一部もしくは全部を資本準備金とする、
などという企業は一社もないのではないだろうか、とすら思います。
資本準備金という勘定科目はただの配当規制逃れのためだけにあるに過ぎない、と言っても言い過ぎではないかもしれません。

 



資本準備金勘定は廃止し、資本金勘定に一本化するとして、
仮に議論が必要な部分があるとすれば、それは
「利益準備金はその合計額が資本金のどのくらいの割合に達するまで積み立てるべきか」
だと思います。
そして、
「社外流出分のどのくらいの割合を利益準備金に積み立てるべきか」
だと思います。
結論だけ言えば、これには絶対的な答えはないのだと思います。
理論上も明確な基準というのは見出すことはできないと思います。
債権者の利益保護のことを考えれば、その割合は多ければ多いほど債権者の利益保護に資する、とはなるでしょうが。
会計理論上は、利益剰余金自体は全額が株主に帰属しているわけです。
債権者や税務当局への義務を果たした後の利益が当期純利益であり利益剰余金です。
極端なことを言えば、利益剰余金は全てが株主に帰属しているのだから全額をどのように使おうがそれは株主の自由だ、と言えるでしょう。
ただ同時に、ここで言う「果たし終わった債権者への義務」とは、概念的には損益計算書上の義務というような意味合いがあり、
貸借対照表を見れば分かるように、実際にはまだ決済が終わっていない債務が会社にはあるわけです。
会社は当然来期以降も継続して事業を行っていくわけですからそのこと自体は全くおかしなことではないのですが、
やはり当期末日時点の債務の決済にも一定の配慮が会社には求められるわけでして、
その意味において、たとえ利益剰余金は全額が株主に帰属していようとも、会社財産の社外流出には一定の規制が課せられるべきなのです。
そうしますと、ではそれぞれどのくらいの割合に規制を定めるべきかなのですが、これには絶対的な答えはないのだと思います。
資本金の2分の1に達するまでというと何か多過ぎる気もしますし、社外流出分の5分の1以上というのも何か多過ぎる気がします。
絶対的な正解はないものの、上で書きましたように、結局のところ、

企業が、利益処分において社外流出を行う場合には、利益準備金の合計額が資本金の4分の1に達するまで、
社外流出分の10分の1以上を利益準備金に積み立てなければならない。

というくらいが一番順当な落としどころではないだろうかという気がします。

 


いずれにせよ、「資本準備金という勘定科目は不要である」という結論は究極的にはやはり正しいと思います。
「株式の発行により株主から払い込まれた金額はすべて資本金に計上する」という原則規定のみにすべきだと思います。
なぜなら、これから増資を行おうとする二つの全く同じ会社を想定すると、全く同じ金額だけ株主から払い込みを受けたのに、
一方はその後も債権者の利益保護のため利益準備金の積み立てを行う義務があり、
他方ははじめから利益準備金の積み立てを行う必要は全くない、
という状況が生じてしまうからです。
利益準備金の積み立てを行う必要があるか否かは、利益準備金と払込資本の金額により一意に決まるべきであって、
全額が資本金か一部が資本準備金かで義務が分かれるのはおかしいわけです。
債権者の利益保護の必要性が、なぜ全額が資本金か一部が資本準備金かで違ってくるのでしょうか。
業種業界や商慣習の違いなどを考慮して、会計基準は複数の処理方法を容認する場合があります。
適用する会計基準が複数あることになりますから、企業により会計処理方法と会計数値に一定度の幅が生じてしまうわけです。
基本的には、会計基準は一つのみであるべきであり、複数の会計処理方法は容認するべきではないと思います。
ただ、業種業界や商慣習の違いというようなことは現にあろうかとは思います。
会計処理方法と会計数値に一定度の幅が生じてしまうのは致し方ない面もあろうかと思います。
しかし、それは経営面や商慣習の観点から見た場合の話であって、
債権者の利益保護の観点から言えば、全額が資本金か一部が資本準備金かで債権者の利益保護に違いが生じるのはおかしいわけです。
同じ払い込み金額ということであれば、全額が資本金か一部が資本準備金かは債権者には関係のないことではないでしょうか。
利益準備金と払込資本の金額が同じなら、債権者の利益は全く同じ様に保護されなければならないはずです。
(適用する会計基準によって当期純利益額や利益剰余金の金額に若干違いが生じてしまうという点は話の単純化のためここでは無視します。)

 


全額が資本金か一部が資本準備金かは債権者には全く関係のないことであるにも関わらず、
全額が資本金か一部が資本準備金かで債権者の利益保護のための義務が極端に変わってしまう、
というのは、債権者の利益保護の観点から言えば根本的におかしいわけです。
債権者の利益保護をなぜ企業が選択できるのでしょうか。
そこは企業が選択肢してよい部分ではないはずです。
したがって、「株式の発行により株主から払い込まれた金額はすべて資本金に計上する」こととし、
また、「組織再編により株主資本が増加する場合も全額資本金として計上していくこと」と定め、
配当などの会社財産の社外流出に関しても、
「企業が、利益処分において社外流出を行う場合には、利益準備金の合計額が資本金の4分の1に達するまで、
社外流出分の10分の1以上を利益準備金に積み立てなければならない」、
と定めるべきだと思います。



ところで、会計の世界も英語の方から勉強していくと意外な発見があり、理解が深まることがあります。
今日の議論に関しても、本質的な理解の一助になると思いますので、「資本準備金」を英語で考えてみましょう。
資本準備金は英語で「Capital Reserve」といいます。
資本準備金という文言自体はこの英単語の直訳なのだと思います。
他の簿記の教科書には、資本準備金の訳語として「Legal Capital Surplus」と載っていましたが、
この訳ですと、「法定準備金」(旧商法では資本準備金は法定準備金と呼ばれていました)という意味合いが強いのだろうと思います。
現会社法では「法定準備金」という言い方はあまりしなくなったのだと思います。
また、「Legal Capital Surplus」には場面によっては「資本剰余金」という訳し方もあると思います。
この辺りは日米や新旧の商法の違い等が複雑に絡んでいると思いますのできれいには説明できませんが。
ここでは「Capital Reserve」について一言だけ書きます。

 


英語の「reserve」の元々の基本的な意味合いは、
「(将来の使用またはある目的のために)使わずに残して後に取って置く」という意味です。
株主資本で言えば、社外流出させずに使わずに残して取って置いたものを「reserve」と呼ぶわけです。
日本で言えば、積み立てた「利益準備金」がここで言う「reserve」です。
ここで、手元の英文会計の辞書によりますと、「利益準備金」は英語で何と言うかと言えば「Legal Reserve」なのです。
「Legal Reserve」とはまさに「法定準備金」です。
つまり、「法定準備金」とはそもそも「利益準備金」のことであるわけです。
全てが株主に帰属している利益剰余金のうち、債権者保護の目的のために使わずに残して取って置いたもの、それが「利益準備金」なのです。
何が言いたいかと言うと、大本を辿れば、実は資本準備金は法定準備金ではないわけです。
そもそもの話をすれば、資本準備金では法に定められた「準備金」を積んだことにならないのです。
資本準備金を敢えて定義すればただの払込資本であるわけです。
資本準備金は実は法定準備金の性質は満たしていないのです。
なぜなら、資本準備金は既に全額払い込まれているからです。
資本準備金は積み立てた(これから積み立てる)というより、むしろその全額を既に払い込んでいるわけです。
これでは債権者保護の目的のために使わずに残して取って置いたことにならず、
債権者保護のため利益剰余金をわざわざ別に積み立てたという本来の意味での法定準備金とはとても呼べないわけです。
株主資本の概念の話をすれば、株主資本にはそもそも払込資本と利益剰余金しかないと言ってよく、
その利益剰余金の一部を(法定)準備金として積み立てたものが「利益準備金」です。
資本金(Capital)には準備金(Reserve)という概念はそもそもない、と言っていいと思います。
大本を辿れば、英語にも「Capital(資本金)」という言葉・勘定科目しかなかったと思います。
日本でもアメリカでも、「Capital Reserve(資本準備金)」という言葉・勘定科目は概念的におかしいということになると思います。
払込資本は維持・拘束されているわけですから、利益剰余金の一部を払込資本に積み立てるというと逆におかしな話になるでしょう。
法定準備金は利益準備金に積み立てているのであって、資本準備金には積み立てていないでしょう。
資本準備金には利益剰余金の一部を積み立てたくても(会計理論上・概念上・そして規則上も)積み立てられないでしょう。
資本準備金は法定準備金でもなく何かの準備金でもなく、ただの払込資本(つまり本質的には資本金と全く同じ)、
というのが正しいわけです。
大本を辿れば、資本準備金というものはなかった、ということを考えますと、
資本準備金勘定は廃止し資本金勘定に一本化するべき、と私が書いている理由も理解できるのではないでしょうか。
資本準備金勘定は法定準備金でも何でもなく、資本金と全く同じ払込資本なのですから。
「払込資本にも準備金というものを考えてみよう」、などと当時のある間違った人が考え付き、
資本準備金という勘定科目を新しく創造・創設したのでしょう(考え付いたのはアメリカ人だと思います。アメリカが発祥地だと思います)。