2013年10月1日(火)
2013年9月30日
日本電気株式会社
信託受益権(固定資産)の取得に関するお知らせ
ttp://jpn.nec.com/press/201309/20130930_03.html
【コメント】
記事には、”ビルの実質的な所有権を買い戻した”と書かれてあり、
もう少し正確に言うと、それは”信託受益権を買い戻した”ということのようです。
これだけではよく分かりませんが、プレスリリースや記事のタイトルや内容を踏まえますと、
要するに、「NECは固定資産そのものを取得したことと同じ」だと考えればよいようです。
玉川ルネッサンスシティ内の土地及び建物3棟には元々NECによる不動産の証券化により信託受益権が設定されていたのだが、
このたび信託受益権者が持つ権利をNEC自身が買い戻し、固定資産もNEC所有の物に戻った、ということのようです。
不動産の証券化によりその固定資産はオフバランスになったが、このたび再び貸借対照表に載るようになった、ということなのでしょう。
不動産の証券化の仕組みは投資家との間にSPCが間に入る形であり複雑ですして、証券化の流れを仕訳で書くのは簡単ではないのですが、
極めて単純化して書けば、固定資産に信託受益権を設定した時の仕訳はこうなると思います。
(現金預金) xxx / (固定資産) xxx ・・・@
そして、信託受益権を買い戻した時の仕訳はこうなると思います。
(固定資産) xxx / (現金預金) xxx ・・・A
単純化し過ぎかもしれませんが、単体の貸借対照表に与える影響という意味では要するにこういうことだと思います。
プレスリリースには、”信託受益権の取得による支出が発生します”と書かれていますが、
それはAの仕訳の貸方の現金預金のことです。
(減価償却費) xxx / (固定資産) xxx ・・・B
一方、固定資産の証券化を行いますと、減価償却負担はなくなりますが、代わりに賃貸料が発生します(投資家にとってはそれが受益)。
つまり、以下の仕訳を減価償却期間に渡り毎期切ることになります。
(支払賃貸料) xxx / (現金預金) xxx ・・・C
プレスリリースの”損益への影響は軽微”という言葉は、Bの仕訳の減価償却費とCの仕訳の支払賃貸料はほとんど同じ金額になります、
と言っているわけです。
ただ、Bの仕訳は現金支出が伴わず、Cの仕訳は現金支出が伴う、これが両者において決定的に異なるのです。
そして、固定資産を通常通り取得し使用していく場合は、取得時にAの仕訳を切りその後減価償却期間に渡り毎期Bの仕訳を切ることになり、
反対に、固定資産の証券化を行う場合は、証券化時に@の仕訳を切りその後減価償却期間に渡り毎期Cの仕訳を切ることになるわけですが、
損益の面でも現金の面でも、全仕訳トータルでは両者はほとんど同じ結果(財務諸表への影響度)になるわけです。
ただ、”中期的には買い戻して保有した方が有利になると判断した”、”中長期的な観点において当社の利益に資するものです”
と書かれてありますから、「@とCの仕訳」を今後切っていくよりも、「AとBの仕訳」を今後切っていく方が損益面では若干有利になる、
とこのたびNECは判断した、ということなのです。
ただ、NECがかつて不動産の流動化を行ったのには行ったなりの理由があるわけです。
わざわざ不動産の流動化を行ったということは、@の仕訳を見ても分かるように、
NECは当時手許現金が欲しかった、ということを意味するのです。
実際には、不動産の流動化を行うと、損益面では若干不利になるわけです。
単純に言えば、毎期の減価償却費(仕訳B)よりも、毎期の支払賃貸料(仕訳C)の方が大きくなるわけです。
ただそれでもNECは当時手許現金が必要だったので、損益面の不利を承知の上で不動産の証券化に踏み切ったわけです。
それなのに、このたびその固定資産を再び取得することにしたということは、
NECには当時に比べ手許現金に余裕ができた、ということを意味するのでしょう。
Aの仕訳を見ても分かるように、不動産の取得には一度に多額の現金が必要ですから。
そして、毎期の支払賃貸料(仕訳C)よりも毎期の減価償却費(仕訳B)の方が小さいわけですから、
固定資産の再取得により今度は逆に損益面では若干有利になる、というわけです。
ところで、毎期の減価償却費(仕訳B)よりも毎期の支払賃貸料(仕訳C)の方が大きい理由なのですが、
これは、「減価償却費と支払賃貸料の差額は支払利息相当分」と考えることができるからだと思います。
仕訳@によりNECは現金を手に入れているわけですが、それは「信託受益権者からNECへ現金を貸した」、と見なすことができると思います。
法律上は証券化は不動産の売却等の一種なのだとは思いますが、
引き続き不動産を使用しなおかつこのたびのように買い戻したことから分かるように、
信託受益権者から見るとNECへ一時的にお金を貸していることと同じ(NECから見ると逆にお金を借りていることと同じ)、
と見ることができるように思います。
NECは目下手許現金が足りない、反対に信託受益権者は目下手許現金が余っている(資金運用方法を探している)、
という状況であったので、不動産を媒介(法律上担保という表現になるのかどうかは分かりませんが)として、
信託受益権者はNECにお金を貸した、NECは信託受益権者からお金を借りた、
という取引をしたということではないかと思います。
ここで、不動産は減価償却を行っていきますが、大まかに言えばその減価償却費は信託受益権者が負担する形です。
それをNECからの受取賃貸収入で相殺するような取引であるとは思いますが、
まあそこは、商取引上資金の貸し手と資金の借り手の立場の違いのようなものは当然あるでしょう。
信託受益権者としては、不動産の流動化を引き受けたのだから(お金を貸し付けたようなものだから)、
減価償却費を上回る受取賃貸収入を受け取りたい、という思いは当然あるでしょう。
そしてそれは経済的にも通常の貸付金の受取利息相当分と見なすことはできると思います。
減価償却費=受取賃貸収入では商取引(ビジネス)にならない(慈善活動か何かになる)、と言ってもいいわけです。
法律的には正確な言い方ではありませんが、不動産の証券化は固定資産を質に入れたようなものだと思えばいいのかもしれません。
そして減価償却費と受取賃貸収入の差額が質の利息だと思えばいいのかもしれません。
このたびNECは不動産を買い戻したことにより、質流れにならずに済んだ、と思えばいいのだと思います。
仮に損益面でも現金面でも、全仕訳トータルでは両者は完全に同じ結果(財務諸表への影響度)になるとしたら、次の等式が成り立ちます。
厳密な会計上の等式などではなく、あくまでイメージ上の等式になりますが。
仕訳@+Σ仕訳C=仕訳A+Σ仕訳B
仕訳@と仕訳Aは不動産の証券化の時及び不動産を買い戻した時しか切りませんが、
仕訳Bと仕訳Cはその後減価償却期間に渡り毎期切っていきますから、このような等式を考え付きました。
意味が分かる人は分かると思います。
要するに、減価償却費=支払賃貸料と考えると、損益面でも現金面でも全仕訳トータルでは両者は完全に同じ、
ということを言いたいわけです。
減価償却費=支払賃貸料の場合、不動産を証券化してもしなくても、その不動産を買い戻しても買い戻さなくても、
トータルでは手許現金や損益は全く同じになる、ということをこの等式では表現したいわけです。
え?「Σ」って何?
それは困りましたね。
「数列」は文理問わず、高校一年で習うはずですが。
現在のカリキュラムでは「数学B」の教科書に載っているようです。
田舎のどんなに小さな書店にでも、中学高校の参考書や問題集は置いています。
数列の基礎が分からない人は書店に行って参考書や問題集を買って勉強して下さい。
「受験必要論 人生の基礎は受験で作り得る」という本が出版されるようです(執筆者は「今でしょ」で有名な某人気予備校講師です)。
”受験で使った能力は、その後の人生で1回も使わない。”