2013年9月9日(月)



Sep 5, 2013 4:05pm
The Timken Company
The Timken Company Announces Plan To Separate Its Businesses Into Two Independent Publicly Traded Companies
-- Plan to create two strong stand-alone companies via tax-free spinoff of
   Timken steel business; expected completion within 12 months.
-- Ward J. Timken, Jr., to serve as chairman and CEO of new $1.7 billion* revenue engineered steel company.
-- Upon separation, James W. Griffith to retire from The Timken Company and Richard G. Kyle to serve as president and CEO of
   $3.4 billion* revenue global bearings and power transmission company. John M. Timken, Jr., to be named non-executive chairman.
-- Conference call for investors to be held Friday, Sept. 6, at 10 a.m.
ttp://news.timken.com/index.php?s=12504&item=136831


 



ティムケン社の鉄鋼事業(特殊合金事業)の分離について、プレスリリースを紹介し、目に止まった部分に関してコメントします。

 

>Creating Two Great Stand-Alone Companies
(二つの独立した大企業を創造する)

には、分社後の二社について次のように書いてあります。


>The New Stand-Alone Engineered Steel Company

>Headquartered in Canton, Ohio,


>The Timken Company 

>Company headquarters will remain in Stark County.

 

新しく設立される独立した「鉄鋼事業(特殊合金事業)会社」は、オハイオ州キャントンに本社を置く予定であり、
現在のティムケン社は、本社を引き続きスターク郡内に置く予定である、
とのことです。
プレスリリースや記事を見ても分かるように、現時点で現ティムケン社はオハイオ州キャントンに本社を置いているわけです。
スターク郡というのはオハイオ州にあり、キャントンはスターク郡にあります。
つまり、現ティムケン社の本社の住所は「オハイオ州スターク郡キャントン」であるわけです。
すると、このプレスリリースの記述を踏まえると、現ティムケン社は分社に伴い、本社を移転する計画である、ということになると思います。
ただ、遠い州へ本社を移転するのではなく、同じオハイオ州内の同じスターク郡内のどこかに本社を移転する計画、ということになります。
新しく設立される「鉄鋼事業(特殊合金事業)会社」の方が現ティムケン社と同じ住所に本社を置く計画なのかもしれません。
別に特に何が言いたいと言うわけでもないのですが、何となくのイメージですが、本社の場所だけで何かが決まるわけではありませんが、
本体から分離し新しくされる会社の方が別の新しい住所に本社を置くという方が自然な感じがしました。


 



さて、私が一番知りたかった「取引の詳細」についてはこちらです↓。


Transaction Details
(ウェブページのちょうど真ん中辺り)

100年以上の歴史のある(1899年創業)上場企業が大きく二つに分離しようと言うのに、たったのこれだけです。
アメリカの法定情報開示には明らかに問題があると思います。


そしてこの「Transaction Details(取引の詳細)」の中で私が一番驚いた部分を引用し訳してみます。


>Although the separation of the B&PT and steel businesses will not require a shareholder vote,
>the plan will be subject to customary regulatory approvals, the receipt of a legal opinion
>regarding the tax-free nature of the transaction, the execution of intercompany agreements,
>final approval of the Timken board and other customary matters. 


【参謀訳】
ベアリング事業と鉄鋼事業の分離には株主の議決権行使は必要ではないものの、
この分離計画には、慣習上の規制当局からの承認、この取引は非課税となる種類のものである旨の税務当局からの文書回答の受領、
社内における同意文書の作成、ティムケン社取締役会からの最終承認、そしてその他慣習的な事柄などが条件となる見込みです。

 



分離後、新鉄鋼事業(特殊合金事業)会社の年間売上高は17億ドル、ティムケン社の年間売上高は34億ドル、となる計画だそうですが、
現ティムケン社の事業規模の3分の1に相当する事業が分離される計画であるにも関わらず、株主総会決議は必要ないそうです。
日本とアメリカとではもちろん法律は異なりますが、
仮に日本であれば、この会社分割(新設分割)には株主総会の特別決議が必要になります。
日本では、大まかに言えば、分離する資産の帳簿価額が、分離元会社の総資産の「5分の1以下」であれば株主総会の決議は不要となります。
3分の1もの事業が会社から分離するとなりますと、やはり株主に与える影響というのは非常に大きいでしょう。
アメリカの法律の定めのことは詳しくは分かりませんが、株主総会決議は必要な場面ではないでしょうか。


ただ、仮にアメリカと日本で定めが同じと仮定しての話になりますが、
売上高で言えば、新鉄鋼事業(特殊合金事業)は17億ドル、ベアリング事業は34億ドル、なのだとしても、
鉄鋼事業(特殊合金事業)の資産の帳簿価額は実は非常に小さく、ベアリング事業の資産の帳簿価額は実は非常に大きい、
ということも考えられるかもしれません。
例えば、製鉄技術は実はもう何十年も全く進歩していませんから、鉄鋼事業(特殊合金事業)の資産は減価償却がもう終わっているが、
ベアリング事業は定期的に資本的支出を行っている、ということですと、
現ティムケン社の総資産額のうち、鉄鋼事業(特殊合金事業)の資産の帳簿価額は実は5分の1以下である、
ということは考えられるわけです(もしそうなら株主総会決議は不要です)。
この場合、鉄鋼事業(特殊合金事業)は非常に資産効率が高く(鉄鋼事業関連資産回転率(鉄鋼事業売上高÷鉄鋼事業関連資産)が大きい)、
ベアリング事業は相対的に資産効率が低い(ベアリング事業関連資産回転率(ベアリング事業売上高÷ベアリング事業関連資産)が小さい)、
ということになります。
ただ、鉄鋼事業は以前に比べると売上高が低迷しているため、損益としては赤字であるようです。
そして、ベアリング事業は安定しているようでして、損益としては黒字であるようです。
赤字の事業の方が資産効率が高く、黒字の事業の方が資産効率が低い、とだけ聞くとおかしな気がするかもしれませんが、
いわゆる財務指標の「回転率」では売上高で効率性を見ていますから、数値上はそのような結果になるわけです。
損益の状況はその事業でどれだけ営業費用がかかっているのかで変わってきますから、
回転率が高い事業の方が赤字になってしまうケース、というのは理屈では何らおかしなことではないわけです。
まあティムケン社ではどうなのか、そして日米の定めはどうなのか、は分かりませんが。

 



さらに、これはさらにアメリカの法律の定めや会計基準が関係してくるところですが、
日本で言う人的分割(分割型分割)がアメリカではどのくらい(どのように)可能であるのか、が問題になると思います。
一昨日少し書きましたように、日本で同じことをしようとすれば、一旦物的分割で当該事業を完全子会社化し、
改めて完全親会社株主に対し完全子会社株式を利益剰余金を原資に現物配当する、という流れになります。
株主に対して利益剰余金を原資に実際に配当を支払う(利益剰余金と資産(子会社株式)が社外流出する)わけですから、
これは当然株主総会決議が必要となります。
少なくとも日本では、株主総会決議なしには分離した会社の株式を株主に交付することはできません。

そして、私はアメリカの法律の定めや会計基準には詳しくありませんが、おそらくアメリカでも、
結局日本と同じ様な流れにより、分離した会社の株式を株主に交付するしかないと思います。
この結論は、法律の定めや会計基準から推測していったことではありません。
簿記の仕組みから導き出した結論です。
端的に言えば、分離した事業の会社株式を直接株主に交付するような仕訳は切れない、という点に目を付けました。
どのような仕訳を自分で考えても、分離した事業の会社株式を直接株主に交付するという仕訳にはならない(できない)のです。
簿記や仕訳の仕組みはそれこそ世界共通です。
法律や会計基準の定めの違いこそあれ、簿記の原理や仕訳の原理は同じなのです。
ある取引について、原理上日本で切れない仕訳はアメリカでも切れないのです。
このことを踏まえれば、アメリカでも分離した事業の会社株式を直接株主に交付することはできない、と推論できるわけです。
まあ、法律や会計基準は国によって異なりますから(定めが全て)、最後の最後は間違っていたらすみませんという部分は残りますが。
私の推論が正しいとするならば、このたびのティムケン社の分離に際しても、
分離した事業の会社株式を株主に交付するためには、やはりどうしても株主総会決議が必要、ということになると思います。


一昨日紹介した記事によりますと、このたびの事業分離についての株主総会決議に関しては、

>事業分割に関する強制力のない決議案を提示したところ、5月の株主総会で過半数の53%に支持された。

>5月に実施された株主投票では53%が分割を支持、

とありまして、一応事業分離に関する何らかの株主総会決議は取っているようです。
詳しい議案の内容は「Proxy Statement(株主総会招集通知)」を読むしかないわけですが、
ひょっとしたらこれで、会社分割の手続き上必要となる株主総会決議(承認決議)はちゃんと取っている、ということかもしれません。