2013年8月18日(日)



2013年8月18日(日)日本経済新聞 そこが知りたい
独メルクのパートナー委員会会長 スタンゲンベルグハーバーカンプ氏
企業統治、創業家が果たす役割は? 長期志向で経営支える
(記事)

 

 



【コメント】
独メルク社は上場企業でありながら非常に特殊な資本形態を持っているようです。
創業家株主が株式の70%を保有しているとのことです。
1995年に上場したとの事ですが、記事によりますと、株式の25%を上場したとのことです。
ただ”上場企業になった”と言っても、そもそも株式に区別はありません(全ての株式は皆平等です)ので、
特段上場している株式と上場していない株式があるわけではありません(特殊な例外として優先株式などの例はありますが)。
ですから、株式の25%を上場したというのは「株式の25%分を市場に流通させた」という意味なのでしょう。
創業家株主が70%保有、25%は株式市場の一般株主が保有、残りの5%はどこへ消えたのかは知りませんが。
ドイツでは自己株式にも議決権があるのだとすると、残り5%は独メルク社自身が保有しているということもあり得るかもしれませんが。
ドイツでも自己株式には議決権はないのだとすると、残り5%はドイツ政府が保有しているのかもしれません。
まあ詳しいことは分かりませんが、仮に、上場前は創業家株主で発行済株式の100%の株式を保有していて、
上場後は発行済株式の25%を市場の投資家が保有していて、なおかつ、上場に際し創業家株主は1株も株式を売却していない、とすれば、
考えられることは、独メルク社は上場時には公募増資のみを行った(既存株主による株式の売出しは行っていない)、
ということでしょう。
創業家は上場益を一切受け取らず会社に還元したと書いてありますが、上場前に一定数の株式を会社に贈与したというようなことではない
と思いますが。
課税関係を踏まえれば、おそらく上場後に一定数の株式を会社に贈与したとはさらに考えづらいと思います。
私は税務は専門ではないので間違っているかもしれませんが、上場前であれば会社は大まかに言えば株式の簿価で贈与を受けたことになり、
上場後であれば会社は時価(市場株価)で贈与を受けたことになる(課税額が大きくなる)と思います(自信はありませんが)。

仮に、独メルク社は上場時には公募増資のみを行った(既存株主による株式の売出しは行っていない)のだとすると、
独メルク社は上場時にどれくらい発行済株式数を増加させた(市場に流通させるため上場時に新株式を発行した)でしょうか。
新たに発行させた株式数の発行済株式総数に対する割合を x とすると、株式の25%が市場に流通したことから次の方程式が成り立ちます。

x ÷ (1+x) = 0.25

この方程式を解くと、x = 0.3333...
つまり、独メルク社は上場時に、上場前の発行済株式総数の33.33%分に相当する株式数を新たに発行したことになります。
独メルク社にとって、当時増資をし資金調達をすることが経営上重要であったらなら、
この新株式の発行もまた理に適ったものであったと言えるでしょう。
しかし、上場に合わせ市場に株式を流通させる必要が出てきたがためだけの新株式の発行であったのなら、
この希薄化は全く理不尽なものであったと言わねばならないでしょう。

 

 


2013年8月16日(金)日本経済新聞
東建物、営業益100億円上乗せ 来期SPC連結対象で
(記事)




 

記事にあります会計基準の変更とはこちらです↓。


平成23年3月25日
企業会計基準委員会
改正企業会計基準第22号 「連結財務諸表に関する会計基準」等の公表
ttps://www.asb.or.jp/asb/asb_j/documents/docs/spe-tanki/

 



【コメント】
細かいことを言い出すとキリがありませんが、かいつまんで言いますと、
今までは、一定の資産の流動化に関しては、
「特別目的会社は、特別目的会社に対する出資者から独立しているもの」と考えていたようです。
改正により、これからは特別目的会社は出資者の連結子会社と見なす、とのことです。
しかしそんなバカな話はないでしょう。
特別目的会社ははじめから出資者の連結子会社だったのではないでしょうか。
なぜ改正前は、「特別目的会社に対する出資者も譲渡者も、特別目的会社の親会社に(特別目的会社は連結子会社に)該当しないもの」
と推定されていたのかが、私には分からないくらいです。
この種の一定の資産の流動化に関する特別目的会社というのは、設立の経緯からして、
出資者や譲渡者の完全子会社(つまり議決権割合で言えば100%)であることがほとんでしょう。
例えば、このたび東京建物が連結の範囲に含める特別目的会社というのは、基本的には全て東京建物の完全子会社でしょう。
そして、その特別目的会社ではまさに東京建物の経営上の意思決定を受けて不動産開発等の事業を行ってきたわけでしょう。
それがなぜ改正前は連結子会社に該当しないと考えられる、などと言っているのかが分からないわけです。
改正前の「連結財務諸表に関する会計基準」等がおかしかったのだと思います。

また、このたびの改正後の「連結財務諸表に関する会計基準」等においても、
どういうわけか全く分かりませんが、特別目的会社は「譲渡者」の連結子会社には該当しないと考えられる、となっています。
東京建物から特別目的会社へ開発中の物件を譲渡して開発を続けてきているのだとすると、
それらの特別目的会社はこのたびの改正においても、連結子会社に該当しないものと考えられるでしょう。
不動産開発業者がどのように特別目的会社の設立や不動産の開発を行っているのかは詳しくは分かりませんが、
いずれにせよ、それら特別目的会社は持株基準から考えても支配力基準から考えてもはじめから連結子会社なのだと思います。

 



なお、記事の最後の書いてありますこのたびの「連結財務諸表に関する会計基準」等の改正の適用時期についてですが、

>平成25 年4 月1 日以後開始する連結会計年度の期首から適用する。
>なお、平成23 年4月1 日以後開始する連結会計年度の期首から適用することができる。

とありますので、
他の大手不動産会社は2013年3月期から特別目的会社を連結子会社としたのであれば、それは早期適用ということになるでしょう。
東京建物は2014年12月期からということで、原則通りの適用ということになると思います。
他の大手不動産は2013年3月期から特別目的会社を連結子会社化、東京建物は2014年12月期から特別目的会社を連結子会社化、
となりますと、同じ不動産業界内の企業同士なのに1年9ヶ月も適用する会計基準が異なることになります。
決算期の違いも原因の一つなので仕方がない面もありますが、企業の業績比較の観点からは、
新しい会計基準を適用する期は全ての企業で統一しないといけないと思います。
会計基準の運用の観点から言えば、適用開始時期は一つのみとし、早期適用は認めない、ということになろうかと思います。


 


財務分析の観点からついでに書きますと、
特別目的会社を連結子会社化した結果、営業利益が大きく増加する見込みとのことです。
これは単純に特別目的会社の営業利益が連結上足し算されるからです。
ただ、特別目的会社が連結子会社化されると、特別目的会社から受け取っていた受取配当金が連結上は消去されますから、
連結営業外収益は減少することになるでしょう(特別目的会社からの配当収入は売上高ではないと思います)。
特別目的会社から親会社への配当金の支払い額は、営業利益から支払利息を引き、さらに法人税等を支払った後の一部のみの金額となります。
連結上、営業外収益(受取配当金)は減少しますが、それ以上に営業利益の増加額の方が大きいので、
トータルでは、連結当期純利益額は連結子会社化前に比べ増加することになるでしょう。
多額(配当性向100%以上)の配当金を連結子会社から受け取る場合には、連結子会社が当期純利益を計上している場合でも、
連結当期純利益額が、「連結子会社化する場合の利益額<連結子会社化しない場合の利益額」ということが起こり得ると思います。
連結会計ならではトリック(単に計算上そうなるというだけですが)と言ったところでしょうか。
また、同じ議決権割合(東京建物の場合は100%子会社なのに)なのに、
ある会社を連結子会社に該当すると考えたり連結子会社に該当しないと考えたりする奇妙な場合があると、この記事で知りましたので、
それなら連結子会社化する場合としない場合とで、連結当期純利益額の変化具合もいろいろと考えられそうだなと思いましたので書きました。

 

 


最後に、キャッシュフロー計算書上の記載場所について書きます。
「受取配当金の受け取り額」は「営業活動によるキャッシュフロー」(小計の下)に記載し、
会社自身が株主に支払った「配当金の支払い額」は「財務活動によるキャッシュフロー」に記載することになっています。
同じ配当金に関してなら、どちらか同じ場所に記載する方が整合性が取れているようにも思いますが、
異なる場所に記載することになっています。
この理由についてなのですが、二つの観点から説明できると思います。
一つは、経営上の観点からです。
会社が株主に配当金を支払うことは、会社の本業とまでは言わないまでも、経営上極めて大切なことであるわけです。
支払う配当金額は当期純利益の何割にも達し、手許現金量や財務体質に大きな影響を与えます。
そういった配当支払いのインパクトの大きさ(金額の大きさや経営上の重要度)を鑑みて、
会社自身が株主に支払った「配当金の支払い額」は「財務活動によるキャッシュフロー」に記載することになっているのだと思います。
一方、会社が受け取る配当金というのはどちらかと言えば経営上副次的なものでしょう。
株式保有の主目的は議決権行使その他の戦略上の定性的なものであり、金額もそれほど大きくはないことがほとんどでしょう。
したがって、受取配当金は経営上は言わば雑収入の一つに過ぎないということで、
「受取配当金の受け取り額」は「営業活動によるキャッシュフロー」(しかも小計の下)に記載することになっているのだと思います。
もう一つの説明は損益計算書との関連性の観点からです。
「営業活動によるキャッシュフロー」の欄は損益計算書との関連性を重視しているわけです。
その期の営業活動の結果は主に損益計算書に現れるものでしょう(もちろん貸借対照表にも影響を与えますが)。
その営業活動の結果をキャッシュフローの観点から表現したものが「営業活動によるキャッシュフロー」です。
特に「営業活動によるキャッシュフロー」の「小計」は損益計算書上の営業利益との関連性を、
小計の下は営業外損益や特別損益との関連性をキャッシュフローの観点から表現しようとしているわけです。
「営業活動によるキャッシュフロー」の合計額は当期純利益額との関連性をキャッシュフローの観点から表現しようとしているわけです。
そういうわけで、営業外収益の一つである受取配当金の受取額は
「営業活動によるキャッシュフロー」の欄に記載することになっているのだと思います。
一方、会社自身が株主に支払う配当金は、損益計算書には出てこない利益処分です。
損益とは関係がない現金の出入り(出るだけですが)ということで、他の財務に関する現金の出入りと一緒に、
会社自身が株主に支払った「配当金の支払い額」は「財務活動によるキャッシュフロー」に記載することになっているのだと思います。