2013年8月12日(月)


昨日のコメントの追加をします。
昨日のコメントで、株式の取得原価には付随費用が含まれる、と書きました。

 

>増加する株主資本と取得原価との差額が20百万円ありますが、
>これは株式交換実施に関わるいわゆる「付随費用」です。
>付随費用は取得原価に含めて会計処理をしていきます。
>厳密には割り振ることはできない(例えば5等分4百万円ずつでもよいと思いますが)でしょうが、
>借方の5株式のいずれかの価額に付随費用20百万円を含めなければなりません。

 

会計上、
「取得原価=購入代価+付随費用」
であるわけです。
なぜ付随費用まで取得原価に含めるのかと言えば、大本を辿れば、「費用・収益対応の原則」に行く着くのだと思います。
付随費用を理解する上で一番の助けとなる勘定科目は有形固定資産でしょう。
有形固定資産は、当該資産の耐用期間にわたり、定額法、定率法等の一定の減価償却の方法によって、
その取得価額(取得原価)を各事業年度に配分しなければならないわけです。
つまり、ある資産を取得するに際して直接的に関連のある各種費用(付随費用)を支払ったわけですが、
その費用(付随費用)というのは当該資産の耐用期間にわたり効果を発揮するものだから、
付随費用も、支払った期に一括全額費用計上するのではなく、当該資産の耐用期間にわたって費用計上していくべきだ、
という考え方が背景にあるわけです。
言い方を変えれば、付随費用は期間費用とするのではなく、原価算入すべきである、と言えるでしょう。
付随費用は当該資産の取得のために直接に要した費用であるわけですから、取得原価に算入するのは合理的と言えるでしょう。
ただ、例えば、不動産取得税や特別土地保有税や登録免許税その他の登記・登録費用等といった費用は、
確かにその取得に関連して支出したわけですが、税法上原価算入は任意であり、その期に費用処理することもできるようです。
有形固定資産は減価償却を通じて費用計上を行い、棚卸資産であれば販売実現時に売上原価として費用計上していく、
という会計処理の方が「費用・収益対応の原則」に合致しているわけです。
というわけで、基本的には、実務上は税法の定めに従った会計処理方法を企業会計でも行っていくということで、
ほとんどの資産では付随費用は取得原価に含まれるわけです(税法でも「費用・収益対応の原則」の考え方を重んじているのでしょう)。


 



翻って、「株式の取得」の場合はどうでしょうか。
「株式の取得に直接に要した費用」(付随費用)は株式の取得原価に含まれるでしょうか。
昨日も書きましたように、現行の定めでは、株式取得の付随費用は株式の取得原価に含まれます。
税法上も、購入した有価証券の取得価額は、その購入の代価と購入のために要した手数料その他の費用の合計額、と定められています。
しかし、その考え方はおかしいわけです。
なぜなら、株式は減価償却を行っていかないからです。
例えば有形固定資産は、収益に貢献する期間にわたり償却計算により原価配分を行っていきますが、
その理由はとりもなおさず「経済的価値の存続期間が限られるから」であるわけです。
有形固定資産を稼動させて得られる効果の及ぶ期間は決して永遠ではなく一定期間(経済的耐用年数)のみでしょう。
一定期間のみであるから、その一定期間にわたり付随費用も減価償却していくわけです。
しかるに、株式を保有することによる効果の及ぶ期間はどの期間でしょうか。
10年でしょうか、20年でしょうか、30年でしょうか。
そもそも企業は永続していくことを目的としていることを踏まえても、合理的な答えはないでしょう。
「株式の取得に直接に要した費用」(付随費用)には合理的な減価償却期間などあろうはずがないのです。
また、投資銀行やファンドではないのですから、企業は株式を売却することを前提には取得しません。
仮に、何か将来売却する計画でもあれば、当該株式の売却時に「株式の取得に直接に要した費用」(付随費用)を
売上原価に計上(費用計上)することにすれば、ある意味「費用・収益対応の原則」は守られることになるかもしれませんが。
いずれにせよ、「株式の取得に直接に要した費用」(付随費用)は原価算入するのではなくその期に費用計上する方が
最も会計理論に沿う会計処理方法でしょう。

また、「株式の取得に直接に要した費用」(付随費用)を株式の取得原価に含めますと、
連結上はその「株式の取得に直接に要した費用」(付随費用)は連結調整勘定を構成することになります。
付随費用というのは、その期に費用計上することはおかしいから、ただ単に適切な期間に渡って減価償却により費用計上していくだけなのです。
付随費用を費用計上すること自体がおかしいわけではないわけです。
ここで、上で書きましたように、株式取得の効果の及ぶ期間というのは合理的に決められないでしょう(永遠ともいえるわけです)。
そうであるならば、連結調整勘定を20年間で規則的に償却していくことに合理性があるかどうかは知りませんが、
「株式の取得に直接に要した費用」(付随費用)を20年間で規則的に償却していくことには合理性は全くないでしょう。
まあ、連結調整勘定を当該事業年度に一括償却してしまえば、この会計理論上の問題は解決しますが。
「株式の取得に直接に要した費用」(付随費用)は、個別財務諸表上も当該株式の取得価額を構成してはならず、また、
連結財務諸表上も連結調整勘定を構成してはならない、という考え方が一番よいのではないか、と思います。
税法上はともかく、会計理論上「株式の取得に直接に要した費用」(付随費用)はその期に全額費用計上する方が一番合理的であるならば、
同じ理屈でもって、連結調整勘定もその期に全額費用計上する方が一番合理的である、という点も付け加えておきます。

 

 



補遺:「有形固定資産とは異なり、取得した株式はなぜ減価償却を行っていかないのか?」

 

株式も有形固定資産と同じ様に、減価償却手続きにより費用を回収していく、という会計上及び税務上の考え方もあると思います。
しかし、実際にはそのような処理は行っていきません。
その理由はどう説明できるでしょうか。


結論だけ先に言えば、理由は2つあると思います。

一つ目は、「株式の価値は減少しないことを前提に考えているから」だと思います。
企業は倒産するということはもちろんあるにせよ、基本的には立派な経営を行って永続していくことが大前提であり、
そして株式の価値を内部留保により高めていくことが経営の目的と言えるでしょう。
そうであるならば、株式の価値を減少させていく手続きと言うのは、企業のそもそもの前提や目的に反する考え方だ、と言えるでしょう。

二つ目は、「株式取得による収益の増分は株式取得に要した現金支出額に比べて極めて小さいから」だと思います。
これは「費用・収益対応の原則」とのからみになるかと思います。
また、これは「経営上も株式取得に要した現金支出額を回収するという考え方は基本的にはしない」、
ということがベースにあると言ってもいいかもしれません。
通常、企業がある企業の株式を取得するのは、受取配当金が目的というよりも、
事業上のシナジー追及や技術や製品群の獲得やさらには経営統合といった経営上の戦略的な大きな目的があって行うものでしょう。
連結売上高といいますか、グループ全体で売上高が伸びていけばいいという考え方で企業は株式を取得しているわけで、
「この株式を取得したから直接的にこれだけ収益が増加した、そしてそれに対応した各期の費用はこれだけだ」、
というような計算は経営上行わないでしょう。
率直に言えば、有形固定資産は直接的に単体売上高を伸ばしていくために行いますが、
株式の取得は直接的な単体売上高増加を目的とはしていません。
そして、ある企業の株式を取得したことがどれくらい単体売上高の増加に寄与したかは客観的には計測不能でしょう。
自社の事業とあまり関連がない企業の株式を取得した場合は、単体売上高は全く増加しないということもあり得る話だと思います。
株式を取得したことによる収益増加というと他にはその株式からの受取配当金が考えられますが、
受取配当金というだけですと株式取得総額に比べれば通常は非常に少ない金額ということが多いでしょう。
株式取得に要した現金支出額を費用化していくことの合理性がはっきりとしない、という面はあると思います。

 



また、両方の理由に共通している理由になりますが、
結局減価償却期間を何年にすればよいかが明確ではない、という点も挙げられるでしょう。
企業は永続していくことを前提にしているなら、そもそも減価償却期間は「∞年」でしょう。
根本的に減価償却期間の設定の仕様がありません。
また、減価償却期間というのは、客観的・合理的に考えてこのくらいの期間があれば投資額を回収できるであろう
という見込み期間を(経済的耐用年数なども考慮して)想定した上で設定されるものだと思いますが、
有形固定資産に比べて株式の場合は、何か客観的で明確な回収期間というのは合理的に見積もるのはそもそも不可能でしょう。

例えば自社が株主に支払う配当ですら、その時々の自社の経営状態やマクロ経済の動向や将来の見通しに応じて、
稼いだ当期純利益の利益分配を行っていっているわけでして、それは決して将来の支払い配当額を株主に約束できるものではないわけです。
そういった点からも、株式の取得に要した現金支出額を何年で回収できるかは誰にも全く計算できないわけです。
「株式の取得に要した現金支出額の回収期間は、企業は永続していくことが大前提だから計算する必要はそもそも全くないとも言えるし、
また、計算したくてもその合理的な期間の長さというのは計算したくても全く計算できないとも言える」、
これが、株式は減価償却を行っていかない理由だと思います。