2013年7月29日(月)



2013年7月29日(月)日本経済新聞
広告2社合併 世界最大に
2位米オムニコム+3位仏ピュブリシス
ネット・新興国に照準
(記事)



 



July 28, 2013
Omnicom Group Inc. and Publicis Groupe SA
Publicis Omnicom Group Investor Presentation
ttp://files.omnicomgroup.com/ReportManagement/UploadedFiles/130195144001932500.pdf

 


07-28-2013
Omnicom Group Inc. and Publicis Groupe SA
Press Kit
ttp://www.publicisgroupe.com/media/display/id/6878.pdf

 


07-28-2013
Omnicom Group Inc. and Publicis Groupe SA
Omnicom and Publicis Groupe to merge
ttp://newsflash.publicisgroupe.net/uploadedDocs/20130728_072813_Publicis-Omnicom-Group_EN.pdf
ttp://files.omnicomgroup.com/ReportManagement/UploadedFiles/130195081104588750.pdf

 


7/28/13
Omnicom Group Inc. and Publicis Groupe SA
Memo from John Wren and Maurice Levy (Internal Note)
ttp://files.omnicomgroup.com/ReportManagement/UploadedFiles/130195133604745000.pdf


 


【コメント】
経営統合と言っても、国が違うわけですから、おそらく資本関係の整理すらできないと思います。
新会社名は「ピュブリシス・オムニコム・グループ」となるようですが、
アメリカにピュブリシス・オムニコム・グループという会社があり(オムニコムが商号変更しただけ)、
フランスにも同じくピュブリシス・オムニコム・グループという会社がある(ピュブリシスが商号変更しただけ)、
というだけでしょう。
経営統合を行ったと言っても、今ままで通り、それぞれの会社で、アメリカで、そして、フランスで、
広告業を営んでいくだけなのだと思います。
経営統合と言っても、両社の社員が新しい同じ社章を付けたり、取締役のメンバーが両者で完全に同じになる、というくらいでしょうか。


上場している株式の銘柄についても、アメリカの株式市場とフランスの株式市場それぞれで、別の株式が同じ名称で上場している状態になる、
ということだと思います。
日本企業の株式がアメリカの株式市場にADRという形で上場していたりしますが、この場合はADRとは異なります。
一応フランス企業の株式でもADRという形でアメリカの株式市場に上場できるのだとは思いますが、
この場合はADRという形ではなく、
フランスの株式市場に上場している株式とは完全に別の同じ名称の株式がアメリカの株式市場にも上場している、
という状態になるわけです。
ADRは間に金融機関が入る変則的な形ではありますが、日本(もしくはフランス)の株式市場に上場している株式と
アメリカの株式市場に上場している株式とは同じです。
しかし、この場合は、フランスに上場しているピュブリシス・オムニコム・グループ株式と、
アメリカに上場しているピュブリシス・オムニコム・グループ株式とは全く別のものなのです。
アメリカでは今まで通り、旧オムニコム株式が上場を続けます。
株式の名称がピュブリシス・オムニコム・グループ株式に変わるだけです。
フランスでは今まで通り、旧ピュブリシス株式が上場を続けます。
株式の名称がピュブリシス・オムニコム・グループ株式に変わるだけです。


 


株主総会もアメリカとフランスの両方で開催されます。
アメリカでも今まで通り、旧社名オムニコムの株主総会が開催されます。
フランスでも今まで通り、旧社名ピュブリシスの株主総会が開催されます。
株主総会の名称が「ピュブリシス・オムニコム・グループ株主総会」変わるだけです。

経営統合が2014年1月1日付で完了するとしましょう。
すると、2015年中に「第1期 ピュブリシス・オムニコム・グループ定時株主総会」が開催されることになるわけです。
2014年中に開催する定時株主総会は、理屈ではそれぞれ旧オムニコム定時株主総会、旧ピュブリシス定時株主総会、
ということになると思います。
2015年中に開催される「第1期 ピュブリシス・オムニコム・グループ定時株主総会」は、
本来なら、アメリカでは「第29期 ピュブリシス・オムニコム・グループ定時株主総会」、
フランスでは「第89期 ピュブリシス・オムニコム・グループ定時株主総会」、
であるはずです。
なぜなら、このたびの経営統合と言うのは、ただの商号変更に過ぎないのですから。

株主総会議案も、アメリカとフランスで全く同じ内容のものを二つ準備しないといけないでしょう。
もちろん、一方は英語、他方はフランス語です。
それぞれの株主総会議案をそれぞれの国で決議を取ります。
時差はあるものの、株主総会決議日は同じ日付でないと、グループ経営上は望ましくないかもしれません。


 


配当金額はどうでしょうか。
通貨の単位は一方は米ドル、他方はユーロですが。
名目上同じ企業だというのなら、配当金額は等価でないといけないでしょう。
アメリカのピュブリシス・オムニコム・グループ株主(旧オムニコム株主)には米ドルで配当を支払い、
フランスのピュブリシス・オムニコム・グループ株主(旧ピュブリシス株主)にはユーロで配当を支払うわけですが、
”同じ配当金額”とするために、一体いつの為替レートを適用すればよいでしょうか。
期末日の為替レートでしょうか。
提出する株主総会議案を取締役会で決議を取った日の為替レートでしょうか、
それとも、株主総会決議日の為替レートとすることは可能なのでしょうか、
それとも、配当支払い開始日の為替レートとすることは可能なのでしょうか。
配当支払いを取締役会決議のみ行う場合はこの障害は小さいかもしれません。
また法律論とは異なりますが、概念的には一体いつの為替レートを適用すれば配当金額は両社株主にとって等価であると言えるでしょうか。
その答えはないようにも思えますが。


 



また、会計上の話をすれば、そもそも同額の配当を行うための繰越利益剰余金が両社になければなりません。
日本では現会社法に「連結配当規制」という配当金額に関する規制(適用するか否かは会社で選べます)がありますが、
イメージとしては何となく近いかもしれませんが、
仮に多くの配当を支払おうと思っても、両社のうち、繰越利益剰余金が少ない方の企業が足かせになってしまうわけです。
繰越利益剰余金が少ない方の企業に合わせる形で支払い可能な配当金額が抑えられてしまうわけです。
これを配当支払いに関する護送船団方式、とでも呼びましょうか。
さらに、そもそもの話として、当期純利益が計上されなければ利益剰余金も何もありませんが、
アメリカの会社とフランスの会社で当期純利益が同じ金額、ということはないでしょう。
一方は黒字、他方は赤字だった、ということすらあるでしょう。
これでどうやって同じ金額配当を支払っていくと言うのでしょうか。
仮に同じ当期純利益額でも、例えばアメリカでは人口増加に伴い広告需要が活発で設備投資や国内広告会社の買収を最優先せねばならず、
他方フランスでは人口減少に伴い広告需要が少なく多くの配当を支払う余裕がある、という場合、どうすればよいというのでしょうか。
グループ経営戦略としては、まさに「Think Globally, Act Locally.」が大切であり、
各国の状況に応じて柔軟に地域戦略を変え迅速に実行に移していかねばならないわけですが、
名目上同じ企業・同じ株式であるわけですから、配当は同じ金額支払わねばなりません。
しかし、アメリカの国内事情に合わせるなら配当を見送ることが最適な戦略であり、
フランスの国内事情に合わせるなら多くの配当を支払うことが最適な戦略でしょう。
国をまたいでいる場合、同じ配当金額を支払うことが最適な戦略の実行を妨げていることになるわけです。
逆に、各国各国に最適の戦略を実行しようとすれば、同じ金額配当を支払うことは不合理であり場合によっては不可能でしょう。


 


もちろん、フランスの余剰現金をアメリカで使うことはできません。
旧ピュブリシス(フランス)から旧オムニコム(アメリカ)へ貸し付けるということはできるかもしれませんが、
それは企業内(一法人内)の資金の適切な配分とは大きく異なることでしょう。
ある企業内(一法人内)において、A事業部で稼いだ資金をB事業部へつぎ込むということはよくあると思いますが、
その場合、B事業部はA事業部へそのお金を返す必要はありません。
しかし、旧オムニコム(アメリカ)は旧ピュブリシス(フランス)へお金を返さないといけません。
この差は経営上大きいと思います。
また、ピュブリシス・オムニコム・グループと言っても、結局のところ、アメリカとフランスで別の会社であるわけですから、
旧オムニコム(アメリカ)が旧ピュブリシス(フランス)へ第三者割当増資をして資金調達する(一種のグループ内の適切な資金配分)、
ということも可能だとは思います(これだと返済する必要はない)が、
例えば、ピュブリシス・オムニコム・グループの筆頭株主はピュブリシス・オムニコム・グループだ、
では意味不明でしょう。
前者のピュブリシス・オムニコム・グループは旧オムニコム(アメリカ)、後者のそれは旧ピュブリシス(フランス)を指すわけですが。
株式市場としても、一つの会社、同じ株式ではなかったのか、という話になってしまうでしょう。
これは、例えば日本国内の親会社が在外子会社の増資を引き受けることとは異なり、
擬似的に一つの会社であるとみなして経営を行っている以上、事実上行うわけにはいかないことでしょう。
また、旧ピュブリシス(フランス)が旧オムニコム(アメリカ)の増資を引き受けても、
旧オムニコム(アメリカ)はそのお金を株主への配当(アメリカの株主へという意味ですが)に使うことはできません。
全国に株主がいる国内企業は、東京で稼いだ利益を田舎にいる株主への配当に使うことができるわけですが、
ピュブリシス・オムニコム・グループは、フランスで稼いだ利益をアメリカにいる株主への配当に使うことは決してできないのです。


 


経営統合だ1つのグループだと言ったところで、結局財務諸表は二つあるわけです。
利益額(場合によっては赤字額)も二つありますし、配当可能な限度額も二つあります。
また、両社は親子会社や持株会社傘下の兄弟会社の関係にあるというわけではありませんから、両社の連結財務諸表も作成できません。
(負債の格付けに意味があるかどうかはともかく)両社の負債はそれぞれ別であり、
それぞれの負債の将来の償還可能性も完全に分かれているままなのです(一方の負債を他方が返済することもできません)。
社名や社章や取締役のメンバーは同じにできるかもしれません。
しかし、利益額や配当金額は、各国各国の事業環境や戦略を踏まえれば、決して同じにはできないのです。
仮に、名目上一つの会社であることを理由に配当金額を同じにしようと思えば、
どうしても各国各国の事業環境や戦略を無視した形になってしまうのです。
国境を越えた経営統合は、経営面(主に言語面)、会計面(財務諸表面)、法務面、を考えると(この3つでおそらく全部でしょうが)、
実は事実上不可能に近いのかもしれません。

 

インターネットの登場により、世界は狭くなったと言います。
私が今、ピュブリシス社とオムニコム社、そして海外の新聞のホームページを見ているのもその一つでしょう。
ピュブリシス・オムニコム・グループのホームページも今後統合されることでしょう。
フランス国内からアクセスした場合はフランス語のピュブリシス・オムニコム・グループのホームページへ、
それ以外の地域からアクセスした場合は英語のピュブリシス・オムニコム・グループのホームページへと自動的に転送されるのでしょう。
しかし、消費者や広告主の統合というのは最後まで絶対にできないわけです。
広告業界に限らず、国境を越えた経営統合は全て、インターネット上のURLの統合のみで終わってしまうのかもしれません。

 

 


07-28-2013
Omnicom Group Inc. and Publicis Groupe SA
Omnicom and Publicis Groupe to merge
ttp://newsflash.publicisgroupe.net/uploadedDocs/20130728_072813_Publicis-Omnicom-Group_EN.pdf
ttp://files.omnicomgroup.com/ReportManagement/UploadedFiles/130195081104588750.pdf

 

このプレスリリースから、経営統合の手続きについての記述だけ引用して訳してみます。
ここだけ読んでも、このたびの経営統合は、事業の融合ではなく、ただの商号変更に過ぎない、ということが分かります。

 

>The transaction is a cross-border merger of equals under a holding company, Publicis Omnicom Group, in The Netherlands.
>The Group’s operational head offices will continue to be based in Paris and New York.
>The merger is expected to be tax-free to the shareholders of both companies.
>The transaction has been structured so that the shareholders of Publicis Groupe and Omnicom, after special dividends,
>will each hold approximately 50% of the equity of Publicis Omnicom Group.
>Publicis Groupe shareholders will receive one newly issued ordinary share of Publicis Omnicom Group
>for each Publicis Groupe share they own, together with a special dividend of EUR1.00 per share.
>Omnicom shareholders will receive 0.813 newly issued ordinary shares of Publicis Omnicom Group
>for each Omnicom share they own, together with a special dividend of $2.00 per share.
>In addition, Omnicom shareholders will receive up to two regular quarterly dividends of $0.40 per share
>if declared and the record date occurs prior to closing.


 



【参謀訳】


本手続きは、オランダに登記された持株会社ピュブリシス・オムニコム・グループ社傘下における、国境を越えた対等な経営統合となります。
当グループの営業上の本店は引き続きパリとニューヨークに置かれる予定となっています。
本経営統合は両社の株主様にとって非課税となる見込みです。
本手続きは、特別配当後、ピュブリシス社株主様とオムニコム社株主様がそれぞれ、
ピュブリシス・オムニコム・グループ社株式の概ね50%ずつを保有することになるよう、構成されております。
ピュブリシス社株主様は、その所有するピュブリシス社株式1株につき、
新たに発行されるピュブリシス・オムニコム・グループ社普通株式1株を、
さらに、同1株につき1.00ユーロの特別配当を、受け取ることになります。
オムニコム社株主様は、その所有するオムニコム社株式1株につき、
新たに発行されるピュブリシス・オムニコム・グループ社普通株式0.813株を、
さらに、同1株につき2.00ドルの特別配当を、受け取ることになります。
加えて、オムニコム社株主様は、経営統合完了の前に基準日が到来しその旨発表されれば、
1株につき0.40ドルの普通四半期配当を最大2回受け取ることになります。


 



Forbes紙には、このたびの経営統合に否定的な見方の記事が多いように思いました。
目に止まった記事の見出しと本文の一部を引用して訳してみます。

 

 

Is The Publicis-Omnicom Merger A Sign Of Strength Or Weakness?
(Forbes 7/29/2013 @ 12:04AM)
ttp://www.forbes.com/sites/avidan/2013/07/29/is-the-publicis-omnicom-merger-a-sign-of-strength-or-weakness/


>The re-engineering of the advertising industry that the Saatchi brothers and Martin Sorrell initiated in the 1970s
>reached a crescendo this weekend with the news of the merger between Omnicom and Publicis,
>the second and third largest ad companies in the world, in a deal that will reshape the advertising landscape
>by creating a behemoth with $23 billion in revenues.
>Scarcely any of the growth of Saatchi & Saatchi was organic.
>Instead, they ushered in an era of acquisitions, often of agencies much bigger than them.

 


【参謀訳】
見出し:「ピュブリシス社とオムニコム社の経営統合は強さの表れなのかそれとも弱さの表れなのか?」


サッチ兄弟とマーティン・ソレル氏が1970年代に始めた広告業界の再編劇は、
世界で第二位と第三位の広告代理店であるピュブリシス社とオムニコム社の経営統合の報道と共に今週末最高潮に達した。
この経営統合は、売上高230億ドルの巨大グループを生み出し、広告業界の地図を再び塗り変えることだろう。
サッチ・アンド・サッチ社の成長は、自力成長の部分はほとんどなかった。
それどころか、サッチ・アンド・サッチ社自身が企業買収時代の到来を告げたのであり、
サッチ・アンド・サッチ社は自社よりもはるかに規模が大きな広告代理店を買収することも少なくなかった。

 

 


The Publicis Omnicom Merger Has Nothing To Do With Advertising
(Forbes 7/29/2013 @ 8:34AM)
ttp://www.forbes.com/sites/jonathansalembaskin/2013/07/29/the-publicis-omnicom-merger-has-nothing-to-do-with-advertising/


>Though received as big news for the advertising industry, the merger between Publicis and Omnicom announced yesterday
>has nothing to do with advertising. There’s much we marketers should be talking about.
>Simply put, the world (and, more specifically, clients) won’t get better advertising because of the deal.
>The stuff may be worse.

 

 

【参謀訳】
見出し:「ピュブリシス社とオムニコム社の経営統合は広告とは何ら関係がない」


広告業界にとって大きなニュースだと受け止められたものの、
昨日発表されたピュブリシス社とオムニコム社の経営統合は広告とは何ら関係がないのだ。
我々市場関係者が言わねばならないことはたくさんある。
端的に言えば、社会(それももっと正確に言えば広告主)はこの経営統合によってはより良い広告は決して得られないだろう。
むしろ広告は悪くなるかもしれないのだ。

 

 


こちらは、世界最大の広告代理店、英WPP社の創業者であり最高経営責任者であるマーティン・ソレル氏のテレビ・インタビューです。

 

Sorrell: Publicis-Omnicom Deal `Doesn't Add Up'
(Bloomberg TV July 29)
ttp://www.bloomberg.com/video/sorrell-publicis-omnicom-deal-doesn-t-add-up-gnzYHW12TLa__A8F2v7tXg.html


>Is being the world largest largest advertising firm an important thing for you?

>We were number two, the number one, the number two, the number one, number two again.

 

【参謀訳】
見出し:「ソレル氏、ピュブリシス社とオムニコム社の経営統合は何の意味もない、と語る」


世界最大の広告代理店であるということは、あなたにとって重要なことですか?

我々はかつて世界第二位だった。そして世界第一位になった。そして世界第二位になった。そして世界第一位になった。
今再び世界第二位になるというだけです。

 


広告代理店と言えば、印象に残る映像や音楽の他に、上手いキャッチフレーズを考え付かねばならないでしょう。
広告代理店は英語で、「ad firm」です。
見出しの”doesn't add up”は、「意味をなす」という意味の「add up」と「ad firm」とをかけたのでしょう。