2013年7月9日(火)



今日はまず昨日の訂正から行います。
昨日の全部取得条項の手続きに関して、

>もちろん実際には、第三位株主に種類株式を例えば0.9999株交付するように種類株式を交付していけば、
>第一位株主に生じる端数株式も極僅か、第二位株主に生じる端数株式も極僅か、となるわけですから、結果として、
>公開買付者の保有株式割合は約73%、創業者や親族の資産管理会社の保有株式割合は約27%、などととすることはできます。

と書きましたが、この部分は間違っていますので訂正します。

昨日のコメントと同じ様に応募株式数が下限ぎりだったと仮定して話をしていきますが、株式公開買付が終了した時点で、
第一位株主は公開買付者(50.53%)、第二位は創業者や親族の資産管理会社(25.9%)、となっているわけですが、
当然残り23.57%は少数株主が保有しているわけです。
ここで、この残り23.57%は、公開買付者が買い増す形で株式を取得していくのではなく、
全て被取得者(この場合対象会社)が自社株買いを行う形で株式を取得していくことになるわけです。
するとどうなるのかと言えば、対象会社の自己株式数が増加していくわけですから、議決権がある株式数が23.57%分減少していくわけです。
つまり、公開買付者と創業者や親族の資産管理会社の議決権割合が大きく変化してしまうことなるわけです。
株式公開買付が終了した時点→全部取得手続き終了時点で、両者の議決権割合はどう変化するかと言えば、
公開買付者:50.53%→66.11%
創業者や親族の資産管理会社:25.9%→33.887%
と議決権割合がそれぞれ増加するわけです。

これは大問題でしょう。
昨日書きましたように、一連のMBOの手続きの流れの中で、
公開買付者の保有株式割合は何パーセント、創業者や親族の資産管理会社の保有株式割合は何パーセント、
となるようにしよう、というふうに、非公開化後の二者の保有株式割合はあらかじめ明確に決めているはずです。
例えば、創業者や親族の資産管理会社には株主総会で特別決議を否決するほどの議決権は持ってもらいたくない、
という考えがあって、創業者や親族の資産管理会社の議決権割合は3分の1以下に抑えるというふうに明確に決めて、
創業者や親族の資産管理会社の議決権割合はMBO実施以前同様、25.9%のまま、という計画でMBOを実施することにしていたのに、
いざ全部取得手続きを完了してみたら、あら大変、創業者や親族の資産管理会社の議決権割合は3分の1を超えてしまいました、となるわけです。
全部取得手続きという、被取得者(この場合対象会社)が自社株買いを行う形で株式を取得していくことの弊害がここにも現れていると思います。
株式を一切売買しなかった株主の議決権割合にまで変化が生じてしまうというのは、
会社の最高の意思決定機関である株主総会における意思決定にまで重大な影響を及ぼすことになります。
旧商法では明治期以来、自社株買いは禁止されていましたが、その理由は自社株買いは想定外に多方面に悪影響を及ぼしてしまうということを
明治期の先人達はよく理解していたからではないかと、そう思いました。

 

 


2013年7月9日(火)日本経済新聞
ソフトバンク格下げ 「投機的水準」 米社買収で負担増 米S&P
ソフトバンク スプリント買収 11日に完了
(記事)
 



2013年7月9日(火)日本経済新聞
ピジョン 1株を2株に分割
(記事)




2013年7月8日
ピジョン株式会社
株式分割および定款一部変更ならびに配当予想修正のお知らせ
ttp://www.pigeon.co.jp/release/company/pdf/130708_1.pdf

 

 


【コメント】
借り入れを行いその現金を支出して株式を取得した時の仕訳↓

(スプリント株式) xxx / (借入金) xxx

 


株式交換で株式を取得した時の仕訳↓

(スプリント株式) xxx / (資本金) xxx


 



借方に来るのはどちらも当然同じスプリント株式勘定です。
貸方に来るのは、一方は借入金勘定、他方は資本金勘定です。
同じ株式の取得でも、貸方に与える影響は両者で正反対とすら言えるわけです。

ここで考えないといけないのは、自己資本比率は増加するのか減少するのかといった表面的なことではなく、
借入金と資本金との本質的違いなのです。
借入金は当然返済していかねばなりません。
一方資本金は返済するというような概念はありません。
そうしますと、借り入れを行った場合は、どうやって借入金を返済していくかを考えないといけないわけです。
この際の返済の原資は、ソフトバンク・グループの他の事業からのキャッシュフローは不可能というわけではありませんが、
基本的にはやはりスプリント株式からのキャッシュフローということになると思います。
スプリント株式からのキャッシュフローとなりますと、当然スプリント社からの受取配当金ということになります(それ以外ありません)。
スプリント社からの受取配当金がそれほどまでに多いとはとても思えませんが。
仮に、スプリント社からの受取配当金は少ないとなりますと、
ソフトバンク・グループの他の事業からのキャッシュフローで借入金を返済していくことになります。
この時、スプリント株式勘定は減価償却を行わないということが、税務上そしてキャッシュフロー上不利になります。
スプリント株式を減価償却していく場合は、減価償却費が損金算入可能な分、現金流出が抑えられる形になり、
いわゆるタックス・シールドの効果が生じ、ソフトバンク内に留まるキャッシュの金額が増加し、相対的にキャッシュフローが増加します。
すなわち、スプリント株式を減価償却していく場合は、借入金を返済するのが容易になるわけです。
仮に、スプリント株式を損金算入しようと思えば、通常の減価償却という手続きではなく、
スプリント株式を一気に全額償却(全額評価損、全額減損処理)するしかありません。
税務上はこのことを特別償却と呼ぶようです。
ただ、スプリント株式を一気に全額償却(全額評価損、全額減損処理)する時というのはどんな時かと言えば、スプリントが倒産した時です。
スプリント社は平常どおり経営を行っているのに、損金算入目当てに株式を償却することはできないのです。
工場や機械類といった有形固定資産への設備投資を借り入れで資金を賄って行っても、
有形固定資産は減価償却により損金算入できるだけ、税務上そしてキャッシュフロー面で有利なので返済が相対的に容易です。
しかし、買収した企業の株式というのは、その企業が倒産しない限り損金算入できないので、税務上そしてキャッシュフロー面で不利になるのです。
以上のことを踏まえますと、長期的な「資金の調達と運用のバランス」を考えれば、
すなわち、長期的に一年一年、借方の資産勘定の価額はどう減少していくのか、そして、貸方の負債勘定はどう減少していくのかを考えれば、
「企業を買収して株式を取得する際には、できる限り内部留保のみで賄う方が望ましい」、という結論になろうかと思います。
この結論は、決して有利子負債額や自己資本比率が原因ではありません。
純粋に、借方と貸方の各勘定科目のバランス(減少具合)のみが原因です。