2013年5月13日(月)



新日鉄住金、統合後初の決算は1245億円の最終赤字 「統合効果は出ている」と説明

 新日鉄住金が10日発表した平成25年3月期連結決算は、売上高が旧新日鉄の前年同期に比べて7.3%増の4兆3899億円、
営業利益は同74.7%減の201億円となった。最終損益は、旧住友金属工業の株式などによる
投資有価証券売却損に伴う特別損失を計上したことから、1245億円の赤字となった。
 会見した太田克彦副社長は、経営統合の効果について、
「合併後の半期で100億円の効果が出た。新しい期で500億円の統合効果を目指す」と指摘。
 また原料価格や鋼材価格が不透明なことから、26年3月期の業績見通しは出していないが、「上期は(鉄鋼生産)量の回復に期待したい」
と話し、鉄鋼価格についても「しかるべき価格交渉を(需要側と)していきたい」と説明した。
(産経新聞 2013.5.10 17:31)
ttp://sankei.jp.msn.com/economy/news/130510/biz13051017320018-n1.htm

 

 



新日鉄住金、在庫評価損や市況下落で13年3月期は46%経常減益 今期予想は未定


 [東京 10日 ロイター] 新日鉄住金は10日、2013年3月期の連結経常利益が前期比46.2%減の769億円になったと発表した。
原料価格の下落で在庫評価損が膨らんだほか、アジア市況の低迷で鋼材製品価格が落ち込んだことが要因。
製鉄所設備の減損処理で多額の特別損失を計上したため、当期損益は1245億円の赤字(前期は584億円の黒字)に転落した。
赤字額は過去最大。14年3月期予想は公表しなかった。
 トムソン・ロイター・エスティメーツによると、主要アナリスト15人が過去90日間に出した14年3月期の経常利益予測の平均値は
3141億円。会社側は「現時点で合理的な算定、予想ができない」(太田克彦副社長)として数値予想は示さなかったが、アナリストは、
原料高で在庫評価損益が改善するほか円安により輸出の採算が上向くため、大幅増益になると予測する。経営統合効果やコスト削減も寄与する。
ただ、中国鉄鋼メーカーによる増産や韓国勢などの高炉立ち上げで、アジアの供給過剰感は一段と強まる見込みで、
市況次第では収益回復ペースが鈍るリスクもある。
 新日鉄住金の太田副社長は会見で、今期の国内の鋼材需要について、補正予算効果や大型店舗、学校などの建設需要で
「建築向けはプラス方向」と指摘した。製造業についても、足元の円高修正で「収益的、コスト的に日本でモノを作る
インセンティブが出てきている」とし、国内で増産の動きが広がることに期待感を示した。
 一方で、アジアでは中国勢が過去最高水準の生産を継続していることで需給バランスが崩れ「市況が大幅に緩んでいる」とし、
「早期にはこの状況が改善しないと覚悟し、経営に臨まなければいけない」と述べた。今期は統合シナジーを含め
1500億円のコスト削減を計画しており「技術力や開発力なども総動員して、この難局に向かい、マージンを確保していきたい」と話した。 
 為替相場で1ドル=100円を超える円安が進んだことについては「トータルでは日本経済にとっても鉄鋼業界にとっても
ポジティブな要素が多い」と指摘。新日鉄住金にとっては円安で輸出の採算が上向くものの、ドルベースの鋼材価格は下落しており
「通商問題やトータルの採算を考えると、一方的に輸出をどんどん増やすことにはならない」との見通しを示した。
 大口顧客との鋼材価格交渉に関しては明言を避けたが、4─6月期の原料高や足元の為替などを踏まえて計算すると
「1トン当たり1万5000円近いコストプッシュがあるので、それについては(顧客の)理解を得たい」と語った。

 

 


 <予想を上回る着地>

  13年3月期の売上高は4兆3899億円と前期比7.3%増加したが、経常利益は前期に比べほぼ半減した。
1400億円のコスト削減を実施したものの、鉄鋼の主原料である鉄鉱石と原料炭の価格下落で在庫評価損が膨らみ、収益を圧迫した。
ただし、会社の事前予想600億円に比べ実績は169億円上回った。生産・出荷が想定以上に増えたほか、
円安で期末の外貨建て資産の為替換算差益が発生したことが要因。
 新日鉄住金は昨年10月に旧新日本製鉄と旧住友金属工業が合併して発足した。13年3月期の実績は旧新日鉄の上期分と
新日鉄住金の下期分を合算した数値で、12年3月期は旧新日鉄分。
 旧住金の上期分を単純合算した13年3月期の売上高は5兆0835億円、経常利益は877億円。
12年3月期の両社合算ベースの売上高は5兆5643億円、経常利益2038億円で、13年3月期は合算ベースでは減収減益。
「12年3月期は在庫評価益があったが、13年3月期は在庫評価損が膨らんだことが要因で、
数量やスプレッドなどは大きく変わっていない」(太田副社長)という。
(ロイター 2013年 05月 10日 18:00 JST)
ttp://jp.reuters.com/article/companyNews/idJPTK067350320130510

 


 



【コメント】
記事の文章を引用しながら少しだけコメントします。

 

>旧住友金属工業の株式などによる投資有価証券売却損に伴う特別損失を計上した

新日鉄は持ち合っていた旧住友金属工業株式を合併直前に売却しました。
それで多額の投資有価証券売却損を計上したわけです。
これから合併して名実共に一つの会社になろうというのに、合併相手方株式を売却するというのは経営的には明らかにおかしいわけです。
ただ、純粋に財務上のインパクトのみを考えると、実は保有している合併相手方株式は合併直前に売却した方が有利だと思います。
その理由は、合併後のことを考えると、売却すれば自己株式が現金に化けるからです。
合併相手方株式を保有したまま合併しますと合併後自己株式になり株主資本の減少原因になるわけですが、
合併直前に合併相手方株式を売却しますと、合併しても現金は現金のままですし、また、株主資本の減少要因もなくなる、
とは言えるわけです。
また、合併相手方株式売却に伴い売却損が出てしまうとしても、単純に0より大きい価額で売却するなら株主資本の減少額は小さくなります。
さらに、売却損は損金算入可能なため、同じ株主資本の減少要因だとしても、税効果の分現金面ではさらに有利とは言えると思います。
合併後自己株式が株主資本の部にマイナスの価額として計上されるというだけではそれは損金算入されません。
逆に合併相手方株式売却に伴い売却益が出る場合ですが、これは現金面でも株主資本増加の点でも単純に有利でしょう。
ただ、売却益が出るということはそれは合併相手方株式の株価が上昇局面(株価が上昇している状態)にある、ということです。
それはつまり、合併実施の際の株式取得価額(相手方株主に割当交付する自社の株式の総額)が大きくなる、ということを意味します。
合併相手方株式の株価と合併に伴い受け入れる資産と負債の価額とは関係ありません(資産と負債の価額は株価に関係なく一定のはずです)から、
合併に伴い計上される営業権がその分大きくなってしまうというちょっとした副作用(その後の償却負担増)はあるとは思います。
まあそれでも、売却した方がやはり現金面では有利とは言えるでしょう。
合併直前に保有していた合併相手先株式を売却するというと奇妙な感じがしますが、
合併相手先も了解していることであるのなら、売却した方が特に現金面では有利とは言えると思います。
そのまま合併したら合併相手先は自己株式になるということを考えますと、
合併相手先株式を売却することは、合併前に行う一種の「増資」のようなイメージととらえてもよいかもしれません。
もちろん、合併相手先株式の売却は損益取引、本当の増資(新株式の売却)は資本取引、という本質的な違いはありますが。

 

 



原材料や製品の価格や評価損益について書かれています。
先に記事を引用します。

 

>原料価格の下落で在庫評価損が膨らんだ


>鋼材製品価格が落ち込んだ


>原料高で在庫評価損益が改善する


>鉄鋼の主原料である鉄鉱石と原料炭の価格下落で在庫評価損が膨らみ、収益を圧迫した。


>12年3月期は在庫評価益があったが、13年3月期は在庫評価損が膨らんだ

 

 



まず、在庫評価益などという利益はありません。
在庫の評価に関する損益は在庫評価損しかありません。

また、原料価格の下落で在庫評価損が膨らむということはありません。
企業は生産した完成品を販売していくわけであって、原材料を販売していくわけでありません。
マクロ的な要因により、原材料価格と完成品価格とに何らかの相関があって原材料価格が下がればそれに比例して完成品価格も下がる、
というようなこともないわけではないかもしれませんが、少なくとも原材料の価格が下落したこと自体は在庫評価損とは全く関係ありません。
これは逆のことに関しても言えることで、原材料価格が上昇すること自体は在庫評価損の減少とも全く関係ありません。
在庫評価損は在庫の回収見込み額、すなわち、生産した完成品の販売価格により決まってくるわけで、
原材料や仕掛品に関する評価損は基本的にはないと思います(仕掛品はもちろん原材料もそれそのものでは処分・回収はそもそも難しいでしょう)。
製鉄会社で言えば、原材料価格ではなく鋼材製品価格が落ち込んだとすれば在庫評価損が出ることは理屈ではあり得る、とは言えるでしょう。
ただ、製鉄会社は事実上生産量の100%が受注生産だと思います。
見込み生産とは異なり、受注(当然販売価格もその時確定する)を受けてはじめて生産工程に入りますから、
鋼材製品が売れ残るということは決してないわけです。
利益が出る価格での受注しかできませんから、鋼材製品価格が何かマクロ的には下落するとしても、
それが在庫評価損につながることはないわけです。
また、製鉄会社は、当たり前のことですが、鉄に関する製品しか生産しませんから、原材料はほとんど全ての製品で使いまわせると思います。
基本的には原材料の仕入れ自体、受注量に沿った形で適切な量のみ仕入れていくわけでしょうから、
製鉄会社では原材料が余ってしまい廃棄しなければならないということ自体がないと思います。
そうしますと、製鉄会社では、原材料だろうが完成品だろうが、在庫評価損が発生すること自体がそもそもないと思います。
そして、経営的に考えれば、原材料の価格が下落することはむしろ経営上有利なことであるのは忘れてはならないでしょう。
企業は永続していくことを目的としています。
当然今後も継続的に原材料を仕入れていくわけです。
その原材料価格が下落することは、他の要因が同じなら、利幅が増加することを意味するわけですからプラス要因以外考えられないと思います。


それと最後に、「棚卸資産評価損と税効果会計」についてですが、棚卸資産評価損には税効果会計は適用すべきではないと思います。
これは投資有価証券評価損(減損損失)と全く同じ考え方になるかと思いますが、評価損というだけでは決して損金算入されないわけです。
棚卸資産も投資有価証券も売却してはじめて税務上損金算入されるわけです。
ですから、評価損という費用と売却時の損金算入額とは永久差異と言えます(評価損が次期以降に損金算入されることは決してない)。
評価損計上の際は税務のことは全く考えるべきではなく、売却時に損金算入は損金算入ということで計算していけばよいと思います。