2013年4月21日(日)
2013年2月22日(金)日本経済新聞
■ソニー エムスリー株売却142億円
(記事)
2013年2月20日
ソニー株式会社
エムスリー株式会社の株式の一部譲渡に関するお知らせ
ttp://www.sony.co.jp/SonyInfo/IR/news/20130220J.pdf
2013年2月21日
ソニー株式会社
エムスリー株式会社の株式の一部譲渡に関する追加情報(譲渡価額)のお知らせ
ttp://www.sony.co.jp/SonyInfo/IR/news/20130221M3J.pdf
2013年2月20日
エムスリー株式会社
親会社の異動に関するお知らせ
ttp://corporate.m3.com/ir/release/2013/pdf/20130220_01.pdf
(関連プレスリリース)
2013年1月11日
エムスリー株式会社
主要株主である筆頭株主及び親会社の異動に関するお知らせ
ttp://corporate.m3.com/ir/release/2013/pdf/20130111_01.pdf
ソニーがエムスリー株6%を譲渡、1150億円を営業利益に計上
[東京 20日 ロイター] ソニーは20日、連結子会社のエムスリーの保有株6%をドイツ証券に譲渡すると発表した。
ソニーによるエムスリー株の保有比率は55.8%から49.8%に低下して持ち分法適用会社となる。
連結子会社から外れることで保有株の再評価を実施。これにより、2013年1―3月期に1150億円を連結営業利益に計上する。
エムスリー株の譲渡日は25日。売却額は150億円規模になる見込みで、簿価から差し引いた売却益を計上するが、
連結営業利益に計上する1150億円のほとんどは連結子会社から外れることによる再評価益。
保有株の上昇を受けた会計処理が今期の業績に寄与する形となる。
同社が7日に発表した2013年3月期の連結営業利益の予想は1300億円。
この予想への影響は精査中だが、7日の発表時点に「今後の資産売却も見通しに織り込んでいる」(加藤優最高財務責任者)としていたため、
大幅な上振れ要因にはならない見通し。
今期のソニーの業績は、テレビや携帯型ゲーム機などデジタル製品の販売が不振で、
期初に計画していたエレクトロニクス事業の営業黒字化は断念した。
ただ、ニューヨーク本社ビルや化学事業の売却ほか、今回のエムスリー株の評価替えなどを通じて、連結営業損益の黒字化計画は維持する。
インターネットの医療関連サービスを手掛けるエムスリーは連結対象外になるが、
引き続きソニーは同社の大株主として、強化する医療分野で協業の可能性を探っていく方針。
(ロイター 2013年
02月 20日 18:53
JST)
ttp://jp.reuters.com/article/jp_electronics/idJPTYE91J04C20130220
【コメント】
エムスリー株式の譲渡に関する設定
株式譲渡の合意日は2013年2月20日、株式譲渡の完了予定日は2013年2月25日、
譲渡価額は142億円(同額の現金を2013年2月25日に受領予定)、
譲渡益は簡単のためなかったとする(エムスリー株式は上場しているため市場株価での譲渡となるが、
その時の市場株価はたまたま簿価と一致していたとする(通常は多額の株式売却益が計上されるはずですが))。
ソニー株式会社の仕訳
2013年2月20日の仕訳
(仕訳なし)
2013年2月25日の仕訳
(現金預金) 142億円 / (エムスリー株式) 142億円
ドイツ証券株式会社の仕訳
2013年2月20日の仕訳
(仕訳なし)
2013年2月25日の仕訳
(エムスリー株式) 142億円 / (現金預金) 142億円
2013年2月25日以降の仕訳
(現金預金) xxx *1 / (エムスリー株式) 142億円
(エムスリー株式売却益) xxx *2
”xxx”の金額についてはエムスリー株式の株価動向次第で変わるわけですが、
*1の金額が142億円以上であることと、*2の金額が正の数であることだけは確かでしょう。
というより、ソニーはドイツ証券にエムスリー株式を相対取引で売却するのではなく、
ただ単に市場でエムスリー株式を売却すればよかったのだと思います。
ソニー株式会社の連結修正消去仕訳(連結精算表のみで行われる仕訳)
(エムスリー株式) 1,150億円 / (持分法による投資利益) 1,150億円
仕訳は以上のようになります。
記事やプレスリリースに書いてあります”1150億円を営業利益に計上”というのは、
連結損益計算書上の「持分法による投資利益」の1,150億円のことです。
「持分法による投資利益」は日本基準では営業外収益ですが、
ソニーは米国基準ですので、「持分法による投資利益」は営業収益の一つと考えるようです。
米国基準は、自社ビルの売却も営業利益、投資有価証券の売却も営業利益、「持分法による投資利益」も営業利益、となっています。
率直に言えば、米国基準もIFRSも会計理論が破綻していると思います。
では、米国基準やIFRSがデタラメであることを指摘する前に、まずは「「持分法による投資損益」とは何か」から見てみましょう。
まず、ソニーが保有しているエムスリー株式の価額を知りたいと思いましたので、有価証券報告書を見てみました。
ソニー株式会社
有価証券報告書 2011年度
ttp://www.sony.co.jp/SonyInfo/IR/library/h23_q4.pdf
ところが、有価証券報告書(PDFファイル)全体を、エムスリー、エム、スリー、m3、などのキーワードで検索しても全くヒットしませんでした。
子会社株式もしくは関連会社株式であれば必ず有価証券報告書に記載されているはずですが、全く記載されてません。
元々エムスリー株式会社はソネット・エムスリー株式会社という名称だったようで、
現エムスリー株式会社はかつてはソニーコミュニケーションネットワーク株式会社の子会社だったようです。
この有価証券報告書は2012年3月末時点の有価証券報告書ですから、2012年3月末時点では、
現エムスリー株式会社はソニー株式会社から見ると孫会社であったかと思います(現在では当該株式の現物配当により直接保有しています)。
ただ、孫会社株式であってもその価額と共に有価証券報告書に記載されます。
なぜなら、孫会社は会計上連結の範囲に含まれるからです。
一応現在ソニーのサイトには関連会社としてエムスリー株式会社が記載されてはいますが。
関連会社 国内
ttp://www.sony.co.jp/SonyInfo/CorporateInfo/Subsidiaries/
結局、ソニーが保有しているエムスリー株式の価額はソニーが開示している情報からは分かりませんでした。
ソニーコミュニケーションネットワーク株式会社
2011年度 2012年3月期
有価証券報告書
ttp://v4.eir-parts.net/v4Contents/View.aspx?cat=yuho_pdf&sid=1739542
【関係会社の状況】
「当社の連結子会社及び関連会社は、次の通りです。平成24年3月31日現在」
(13/119ページ)
エムスリー株式会社の資本金は、1,280百万円とのことです。
個別財務諸表注記
【主な資産及び負債の内容】
E関係会社株式
(112/119ページ)
保有しているエムスリー株式の価額は123百万円とのことです(議決権の所有割合55.9%)。
それで、「「持分法による投資損益」とは何か」ですが、大まかに言えば、
@関連会社の損益を持分法適用上の親会社の損益に反映させること
A持分法適用上の親会社の投資勘定と関連会社の資本勘定を一致させていくこと
の2つ意味合いがあります。
持分法では、煎じ詰めれば、「持分法による投資損益」勘定と「関連会社株式」勘定の2つの勘定科目しか使いません
(細かく言えば、配当金の修正と未実現利益の消去に関する仕訳を切る場合がありますが、それでも、
それらの修正消去仕訳の際、持分法特有の全く新しい勘定科目が出てくるわけではありません)。
このように簡便な連結手続きを行うことから持分法のことを一行連結と呼ぶわけです(全部連結・総額連結に対し「純額連結」とも呼ぶようです)。
ただ、いくら簡便な持分法でも、上記@とAとでは使用する勘定科目は変えるべきかもしれません。
@の場合は、現行のまま「持分法による投資損益」でよいと思うのですが、
Aの方は、例えば「持分法投資差額修正損益」という勘定科目はどうでしょうか。
一行連結なのはよいと思うのですが、上記@とAは本質的に完全に異なる経営の結果を表しているわけですから、
「持分法による投資損益」の一種類しか勘定科目を使わないのではなく、別途新たな勘定科目を設けるべきだと私は思います。
他にも、持分法で使用する勘定科目が「持分法による投資損益」一つのみであることの大きな問題点があります。
上記Aの方は持分法適用上の「のれん相当額の償却」という言い方がされることがあるかと思います。
通常の全部連結の場合ののれん(連結調整勘定)の償却は「販売費及び一般管理費」に計上しますが、
現行の会計処理方法ですと、持分法適用上の「のれん相当額の償却」は「営業外費用」となります。
全部連結と一行連結とでのれんの償却に関して整合性が取れていないことになるかと思います。
この点に関しては実は非常に長く深い論点になります。
「のれんの償却とは何か?」というところまで議論がさかのぼるのです。
のれんの償却を「販売費及び一般管理費」に計上するということは、
のれんの償却は営業費用(日々の本業のための・本業で発生した費用)なのか、という話になるわけです。
もちろんのれんの償却は製造原価や商品の仕入れ原価(売上原価)でもないでしょう。
すると、のれんの償却は営業外費用か、特別損失か、という議論になってくるわけです。
ここまでくると、営業外損益の定義、特別損益の定義、という話になってきます。
企業会計原則の損益計算書原則の定義を読みますと、特別損益は、
>六
特別損益は、前期損益修正益、固定資産売却益等の特別利益と前期損益修正損、固定資産売却損、
>災害による損失等の特別損失とに区分して表示する。
と定義されています。
そして、営業外損益に関しては、損益計算書をトータルで考えて、
特別損益に属しない損益をまとめて「その他営業活動以外の原因から生ずる損益」ということでこれらを営業外損益として表示する、
という定めになっています。
企業会計原則の損益計算書原則の定義に従うならば、全部連結の場合も一行連結の場合も、
のれんの償却は営業外損益とすべき、という結論になろうかと思います。
さらに言いますと、時代背景を踏まえますと、実は企業会計原則は単体ベースのみでの会計処理を前提にしているところがあるのだと思います。
企業会計原則は、連結会計や連結上ののれんの償却というようなことは全く想定していないのだと思います。
そうすると、のれんの償却の表示場所について企業会計原則を表面的に参考にするのも間違いであるようにも思います。
連結会計というのは本当に特殊な会計処理方法でありまして、
のれんの意味やのれんの償却の意味をよく理解した上で、のれんの償却をどこに表示すべきか考えなければならないと思います。
では、どう会計処理しどう表示していくのが一番良い方法かと言いますと、
もちろん私一人だけで完璧な答えが出せる問題ではありません。
私ものれんの償却の会計処理方法や表示方法について完璧な答えを持っているわけではありませんが、
そんな中、一つ非常に参考になる会計処理方法が世にあります。
それはあの楽天の会計処理方法です。
楽天はオンラインショッピングモールという本業の拡大の他に、今までに多くの企業買収を重ねて成長してきた経緯があります。
その際、買収のたびに大きな金額ののれん(連結調整勘定)が発生してきたのですが、
楽天はそののれんをその期のうちに全額一括償却(特別損失に表示)してきました。
単体では当期純利益を計上していても連結ではのれんの全額一括償却のため大きな当期純損失を計上し続けることが多かったわけです。
他の企業では全く例を見ない、ある意味極めて特殊な会計処理方法だったわけです。
会計基準違反ではないものの、考えようによっては、通常想定されている会計処理方法からは大きく逸脱しているわけです。
会計基準の原則的な計算方法からすれば、「販売費及び一般管理費」の過少計上、営業利益の過大計上、という言い方もできるでしょう。
そうなのですが、「そもそものれんの償却は営業費用(日々の本業のための・本業で発生した費用)なのか?」という疑問はあるわけです。
のれんの償却というのは、本当に連結上のみの費用なわけです。
単体上そのような勘定科目はなく、純粋に連結精算表のみに存在する極めて特殊な勘定科目なのです。
そうであるならば、その特殊性に鑑み、営業活動や本業とは何ら関係がない極めて特殊な連結上のみの損失と考えて、
のれんは発生したその期のうちに全額一括償却する(「(連結)特別損失」に表示)、という会計処理方法には合理性があるように思えます。
保守主義の原則の観点から考えても、また、のれんの償却は20年以内にという”20年”にも明確な根拠はない以上、
さらには、のれんの償却はどこに表示すべきかにも会計理論上厳密な答えもない以上、
楽天の、のれんは発生したその期のうちに全額一括償却する(「(連結)特別損失」に表示)、
という会計処理方法は、連結会計理論に対し一定の示唆を与えてくれるように思えます。
脱線がやや長くなってしまったのですが、ソニーコミュニケーションネットワーク株式会社が保有しているエムスリー株式の価額、
すなわち、現在はソニー株式会社が保有しているエムスリー株式の価額は123百万円であることが分かったことを踏まえて、
持分法において、
>A持分法適用上の親会社の投資勘定と関連会社の資本勘定を一致させていくこと
というのは何をしようとしているのかを具体的に見てみましょう。
エムスリー株式会社有価証券報告書を見てみましょう。
2012年6月27日
エムスリー株式会社
平成23年度 有価証券報告書(事業年度(第12期) 自 平成23年4月1日 至
平成24年3月31日)
ttp://corporate.m3.com/ir/library/annual-security-report/pdf/20120627_99.pdf
個別財務諸表
貸借対照表 純資産の部
株主資本合計
(103/122ページ)
(エムスリー株式) 8,239.42百万円 / (持分法による投資利益) 8,239.42百万円
記事やプレスリリースによりますと、1,150億円の連結営業利益(この場合はこの持分法による投資利益)が計上される見込み、
とのことですが、何から何まで数値が合いませんが。
エムスリー株式売却益はあまりないと書いてありましたが、仕訳を切っていきますと141億円以上は売却益が計上される計算になりますし、
持分法による投資利益は80億円強になる計算になります。
どのように考えても、1,150億円という数字は出てこないのですが。
まあ、数字がデタラメであることについてはここでは触れません。
気になる人は、株主総会で質問してみてはいかがでしょうか(もう基準日は過ぎていますが)。
ここで大切なことは、ソニーが保有しているエムスリー株式とエムスリー株式会社の「個別財務諸表」の株主資本額とを比較した、という点です。
エムスリー株式会社の連結財務諸表の株主資本額ではない、という点が大切です。
直近の決算短信ではなく、なぜわざわざ1年近くも前の有価証券報告書を参照しているのかと言えば、単体ベースの数値が必要だったからです。
決算短信に連結ベースの財務情報しか載せないというのは、何も発表していないことと同じです。
株式の価値とは「個別財務諸表」の株主資本額です。
それが株式の価値の本質です。
決して連結財務諸表ではありません。
>わが国と違ってアメリカの会計原則は、財務諸表の用語と様式を統一しない。
>このために、財務諸表の名称すらも企業によって若干の違いがある。
何気なく書いてあるわけですが、これは会計の本質を考えれば極めて大きな問題点だと私は思います。
「会計処理方法や使用する勘定科目・用語や表示様式を統一する」、これが会計の役割なのではないでしょうか。
”企業によって経営実態は異なるから”、このセリフはただの言い訳に過ぎないことを決して忘れてはならないと思います。
「ビジネス・ゼミナール 英文会計入門(第3版)」 小島義輝 著 (日本経済新聞社)
「アメリカの損益計算書の構造」 (15ページ)
「アメリカの損益計算書の主な形式二つ」 (16〜17ページ)
「経常外損益とは?」 (16〜19ページ)
さて、米国基準では、「持分法による投資損益」は営業損益の項目とのことでした。
そのことの是非は置いておきます。
米国基準における持分法の会計処理方法が気になりましたので、教科書の該当部分を見てみました。
すると、本当に唖然とするほど驚くべきことが書かれていました。
第6章 有価証券会計 INVESTMENTS IN SECURITIES
第2節 持分法会計 EQUITY
METHOD
§3 持分法の開始と停止 CHANGE FROM/ TO EQUITY METHOD
(2) 持分法の適用停止
(188ページ)
ここに気が遠くなるほど滅茶苦茶なことが書かれています。
会計理論の破綻ここに極まれり、という印象です。
保有してきた持分法適用関連会社株式の一部を売却したため持株比率が20%未満に落ちたため、
連結財務諸表上の当該株式の評価方法を当年度から持分法から原価法に変更する場合、
>この変更では、過年度の計算は適正であったとみて、投資勘定の簿価(持分法を適用してきた残高)を
>そのまま原価法ないし公正価額法の開始残高として引き継ぐ。
と書いてあります。
滅茶苦茶過ぎて意味不明、というのが率直な感想です。
会計理論上の考え方(そして日本基準の定め)ではどうなっているかと言いますと、
ある会社が、株式の売却その他の理由により持分法適用関連会社から外れたならば、
その会社は「はじめから連結財務諸表に載ってこない」という扱いになります。
その会社の株式は20%未満ということですと通常「その他有価証券」に区分されますから、
評価方法としては期末時の時価評価(非上場企業の場合は原価評価)ということになります
(評価差額はその他有価証券評価差額金にて純資産直入で処理)。
いずれにせよ、株式の価額は持分法も何も適用していない最初の価額(時価評価等はあるにせよ)に戻るだけなのです。
持分法を適用しないことになったのだから、株式の価額が持分法も何も適用していない最初の価額に戻るだけなのは
当たり前じゃないかと思われるかもしれませんが、米国基準ではそうではないようです。
米国基準では、株式の価額は、前期末に持分法を適用した際の価額を新しい株式の価額であると見なすようです。
持分法は適用しないにも関わらずです。
このような会計処理方法の問題点はいくつかありますが、まず単純に、
持分法を適用しないのに適用したかのような価額を新たな株式の価額と見なすのはおかしい、という点があるかと思います。
これは非常に単純な話かと思います。
持分法は持分法であり、原価法は原価法のはずです。
持分法適用後の価額が何か原価法の価額と考えるのはおかしいでしょう。
(連結利益剰余金) xxx / (持分法適用関連会社株式) xxx
という仕訳を切ったような価額になるのです。
もちろん、持分法を適用しないとなりますと、その会社ははじめから連結財務諸表に載ってこないわけですから、
実際に連結上このような仕訳を切るわけではありませんが、
連結財務諸表価額へのインパクト(価額の変動具合)としては上記の仕訳のイメージとなります。
逆に言うと、持分法を適用しないのに適用したかのような価額を新たな株式の価額と見なしてしまいますと、
これまで計上してきた「持分法による投資利益」の累計額(合計金額)だけ、
借方は持分法適用関連会社株式が、貸方は連結利益剰余金が、水増しされていることになるわけです。
連結利益剰余金の水増し、と言いますと、のれん(連結調整勘定)の償却を行わないことがよく例に挙げられますが、
もちろん、のれんの償却も行わなければ連結利益剰余金の水増しと同じことではあるのですが、
その連結利益剰余金の水増しはどちらかと言えば相対的・間接的な水増しであるのに対し、
持分法を適用しないのに適用したかのような価額を新たな株式の価額と見なすのは、絶対的・直接的な水増しと言わざるを得ません。
なぜなら、のれんの非償却は特段の連結利益剰余金増加の仕訳は切っていないのに対し、
持分法の場合は、「持分法による投資利益」という直接的に連結利益剰余金を増加させる仕訳を切ってきたからです。
その点において、これはより直接的な資本の水増し、株式価額の水増しと言うべきであり、
のれんを償却しないという間接的な資本の水増しよりも悪質であると言わざる得ないのです。
スキャンしたはじめの教科書の記述に戻りますと、
>原価法ないし公正価額法を過年度に遡及してはならない。
と書かれていますが、これは”過年度に遡及する”ということとは全く異なるのです。
持分法を適用しないわけですからはじめから原価法を適用する、というだけなのです。
これは言葉尻を捉えた揚げ足取りではありません。
原価法を適用すると言っても、”過年度に遡及する”するのではありません。
単体上、その株式の価額は最初から最後まで取得原価のままなのです。
その取得原価が今後は、もし他に子会社や関連会社があればですが、連結貸借対照表にそのまま出てくるというだけです。
何か連結財務諸表上の現在の持分法適用後の価額から、
”過年度に遡及していく”形で原価法での価額に保有株式の価額を修正していく(何か修正仕訳を切っていく)わけではありません。
”過年度に遡及していく”のか、それとも、
最初から最後まで一度も何の評価替えも行っていない単体上の原価法での価額が連結貸借対照表上も単純にそのまま載ってくるだけなのか、
この両者の間には、会計処理上本質的な違いがあるわけです。
新たに原価法を適用することになったといっても、それは過去に戻ったのとは本質的に意味が違うわけです。
教科書には、原価法ないし公正価額法を過年度に遡及してはならない理由として、こう書いてあります。
>なぜなら、20%以上を保有し重大な影響力を行使したという歴史的事実は、変えようがないからである。
それを言うなら、「既にその会社は持分法適用関連会社ではなくなったという今現在の目の前の事実」は変えようがないのではないでしょうか。
既にその会社は持分法適用関連会社ではなくなった、だから株式の評価方法は原価法になった、それだけのことでしょう。
既にその会社は持分法適用関連会社ではなくなったのに、株式の価額は持分法適用後の価額のままである方がおかしいわけです。
過去確かに、20%以上を保有し重大な影響力を行使したというのは歴史的事実でしょう。
しかしその重大な影響力を行使した結果と言うのは、市場株価の上下や内部留保の増減という形で既に自然と表れているものあって、
それが影響力の結果の全てのはずです。
何も過去の重大な影響力を株式のその後の評価額に反映させる話ではないのではないでしょうか。
例えば、重大な影響力を行使し立派な経営を行ってきたのであれば、その株式は高い価額で売却できたのではありませんか?
それが重大な影響力を行使した結果というものです。