2013年4月9日(火)



2013年4月9日(火)日本経済新聞
ソフトバンク 外貨建て2000億円社債 米社買収資金に 為替リスク軽減
(記事) 

 

 


2013年4月8日
ソフトバンク株式会社
外貨建普通社債発行に関するお知らせ
ttp://www.softbank.co.jp/ja/news/press/2013/20130408_01/

 

 


【コメント】
社債の概要に関しては何一つ決まっていないようですが、以下の点だけは決まっているようです。

 

>(6)担保の有無 なし
>(7)保証の有無 あり
>(8)保証会社 ソフトバンクモバイル株式会社、ソフトバンクテレコム株式会社

>本社債には当社子会社2社による保証が付されることから、
>当社は、既存の借入及び社債についても、本社債に付したものと実質的に同等の保証を付すことを検討しています。

 

既存の借入及び社債について今から保証を付すことはできないと思います。
できないと言うより、できるかできないかと言えば、後からでも既存の借入及び社債に保証を付すことはできるのですが、
「なぜ今になって保証を付するのか」という話になろうかと思います。
「では、銀行借り入れ時・社債発行時には保証を付さなくてよかったのか」という疑問が当然わいてきます。
銀行借り入れ時・社債発行時には保証を付する必要はなかったのなら今でも保証を付する必要はないはずです。
銀行借り入れ時・社債発行時には保証を付する必要はなかったのに、後から既存の借入及び社債について保証を付するというのは、
極めて不自然な行動と言わざるを得ません。


 


>(10)募集地域 米国・欧州・アジアなどの海外市場
>(11)上場取引所 シンガポール証券取引所

 

このあたりも全く意味が分かりません。
ソフトバンクは間違いなく優良企業ですが、海外でソフトバンクの社債を買いませんかと言われてもあまり買う人はいないでしょう。
これは知名度や償還可能性の問題ではなく、要するにソフトバンクはどこの国の企業(本社や母国語はどこか)か、という問題なのです。
例えば、あり得ないことですが、ソフトバンクが倒産しこの社債が償還されないことになったとします。
その場合、米国・欧州・アジアなどのソフトバンク社債保有者はどのような行動を取ればいいでしょうか。
ソフトバンクは日本企業ですから、当然日本の会社法や会社更生法に従って倒産手続きを進めていくことになります。
その倒産手続きの過程で、社債保有者への弁済が行われていくのです。
では、米国・欧州・アジアなどに日本の会社法や会社更生法に詳しい投資家がどれだけいるというのでしょうか。
いや、法的なことは日本の弁護士にまかせるとしても、そもそも米国・欧州・アジアなどの投資家は日本語すら不自由でしょう。
倒産手続きに関して日本の弁護士に何かを依頼することすら困難でしょう。
言葉の壁と言うのは本当に大きいものだと思います。
そういったことを考えると、わざわざ米国・欧州・アジアなどの投資家がソフトバンクの社債を買うなど考えられないことなのです。
まして、その社債がシンガポール証券取引所で売買されるなどあり得ないことです。

 

 



さて、このたびソフトバンクは、米ドル建普通社債及びユーロ建普通社債の両方を発行するとのことです。
ソフトバンクはSprint Nextel Corporation株式のための資金を社債発行で賄うのとの事ですが、
(実際には絶対不可能な話ですが)ソフトバンクが当該社債返済のための資金を全て
Sprint Nextel Corporationからの受取配当金のみで賄う計画であるなら(それほどまでに多くの配当金を受け取れれるなら)、
このたび発行する社債は全て米ドル建てが一番望ましいでしょう。
なぜなら、Sprint Nextel Corporationからの受取配当金は米ドルだからです。
Sprint Nextel Corporationから受け取った米ドルをそのまま米ドル建て社債の償還に充てればよいでしょう。
この場合、ソフトバンクの個別および連結財務諸表上、この社債に関して決算日の評価差額として表面上為替差損益が計上されますが、
実際には為替レートの変動のリスクは皆無です(社債償還に際しては実際には日本円は経由しないから)。
多額の配当金が確実に見込め、社債の償還に関して為替変動のリスクを避ける目的があるのなら、
ソフトバンクは米ドル建て社債を発行するのが一番よいと思います。


ところがなのですが。
ここから話が非常に複雑になるのですが。
実際には、Sprint Nextel Corporation社はあまり業績はよくないようでして、実は受取配当金はあまり望めません。
Sprint Nextel Corporation株式取得のために社債を発行するとなりますと、
その返済は、実際はソフトバンクモバイル株式会社やソフトバンクテレコム株式会社からの受取配当金が原資となります。
こうなりますと、社債発行に関して話が極端に違ってくるのです。

 

ソフトバンクモバイル株式会社やソフトバンクテレコム株式会社からの受取配当金を原資に社債を償還していく場合は、
まず結論だけ言えば、このたびの社債発行で得た現金の使途は、Sprint Nextel Corporation買収ということですので、
ソフトバンクとしては日本で社債を円建てで発行するだけだと思います。
そして株式取得の際はその円を米ドルに交換するだけだと思います。
Sprint Nextel Corporation株式は米ドル建てですから、Sprint Nextel Corporation株主にはただ単に米ドルをその時に支払うだけです。
現金の調達及び株主への支払い(買収)はこれで全て完了なのです。
そして、この社債の償還はもちろん額面通貨単位である円で償還していきます。

 

 



このたび発行する社債の返済原資は、Sprint Nextel Corporation社からの受取配当金(当然米ドル)ではなく、
ソフトバンクモバイル株式会社やソフトバンクテレコム株式会社からの受取配当金(当然日本円)、
という前提で、この点についてもう少し詳しく書いていきます。


記事には、米ドル建て社債の発行の目的として、「為替変動によるリスクを軽減する狙いがある」と書かれていますが、
実はこれは話が完全に逆です。
為替変動によるリスクを軽減したいのなら、ソフトバンクは円建てで社債を発行しなければなりません。
必要となるドルの金額が一定なら、円換算して円建てで必要な現金だけ社債を発行した方が、償還時の金額が確定します。
要するに、社債を特段ドルで返済しなければならに理由はないわけですから、
始めから円で償還するつもりで円建てで社債を発行した方が為替変動のリスクからは避けられるわけです
(貸借対照表に米ドル建ての負債は載らないことになる)。
世界の基軸通貨は米ドルですが、ここで中心となる通貨(ソフトバンク単体の使用通貨)はあくまで円である点が重要だと思います。
また、この社債発行はあくまで「株式取得のため」の現金調達であることも重要なポイントだと思います。
例えば、Sprint Nextel Corporation社が使用する運転資金の調達のためであれば、Sprint Nextel Corporation社自身が
はじめから米ドル建て社債を発行する形が望ましいことになります。
米ドル建てで資金調達し、米ドルのまま資金を使用し、米ドルで社債を償還する、という流れが一番よいでしょう。
これですと、為替変動のリスクは一切ありません。為替がどう変動しようとも、100ドル借りて100ドル返すわけですから。
確かに、ソフトバンクの連結財務諸表Sprint Nextel Corporation社発行の米ドル建て社債は円換算され、
表面上為替換算調整勘定が連結貸借対照表に計上されますが、勘定科目名に”為替換算”とは付いていますが、
最初から最後まで米ドルで借りて米ドルで返すなら、実はここには為替変動のリスクというのは一切ないわけです。
例えば、Sprint Nextel Corporation社が親会社であるソフトバンクから運転資金をドル建てで借り入れたとします。
この借入金は、内部取引ですから連結財務諸表上全て消去されます。ソフトバンクの連結貸借対照表に為替換算調整勘定も出てきません。
ところが、ソフトバンクからすると、Sprint Nextel Corporation社へのこの米ドル建ての貸付金というのは、
間違いなく為替変動のリスクにさらされているわけです。
なぜなら、この貸付金が日本円でいくら返ってくることになるか全く分からないからです。
円換算ベースでは元本割れ、ということもあり得るでしょう。
ソフトバンク単体のこの貸付金の為替リスクは、個別財務諸表上、為替差損益という形で把握されますが、連結財務諸表上は、
この事実は一切出てこない点には注意が必要です(連結上、Sprint Nextel Corporation社はソフトバンクからお金を借りていないことになる)。
連結会計の仕組み上当然と言えば当然かもしれませんが、連結財務諸表では親子会社間の借り入れ・貸し付けの事実が全く把握できないのです。

 

 



もう一度結論を言いますが、このたびの社債発行で得た現金の使途は、Sprint Nextel Corporation買収ということですので、
ソフトバンクとしては日本で社債を円建てで発行するだけなのです。
その理由は、ソフトバンクはもう米ドルは一切必要ないからです。
もう少し正確に言えば、米ドル建ての社債を発行したのなら償還のために米ドルがもちろん必要ですが、
そもそも米ドルの社債を発行する必要はないからです。
なぜなら、株式取得に関する決済は全て終わっており、また、社債発行の返済原資は日本円による受取配当金だからです。

株式取得の場合は、現Sprint Nextel Corporation株主に現金を返さないといけないわけではないのです。
ソフトバンクとしては、後はとにかく株式取得にかかった現金は貸してくれた人に返しさえすればいいのです。
その返す相手(お金を貸してくれた人)はソフトバンクにとっては誰だって言いいのです。
であるならば、わざわざ為替変動のリスクを背負うことになる米ドル建て社債の発行ではなく、
始めから日本円建てで資金を調達すればそれでよい(株式取得の際は米ドルでならすぐ米ドル通貨へ交換)、となるわけです。
日本円建ての借入金や社債(貸付金や有価証券でも結局同じことですが)であれば、
連結財務諸表上も個別財務諸表上も、為替換算調整勘定も為替差損益も載ってこないというメリットもあると思います。
ソフトバンクは、日本円建てで(米ドル換算で必要な分だけ)社債を発行すれば、為替変動によるリスクは完全にゼロです。
米ドル建てで社債を発行すると逆に為替変動のリスクが発生することになります。

 

 


話が分かりづらいかもしれません。
このような違いが生じることに関して、もう少し考察を加え別の説明方法を試みてみましょう。

特に為替変動のリスクを避けることに重点を置くのなら、一言で言えば、
資金調達は「その現金を使う場所の通貨建てで」行うべきである、となります。
ですから、Sprint Nextel Corporation社が使用する運転資金の調達のためであれば、運転資金は当然米ドルですから、
Sprint Nextel Corporation社自身がはじめから米ドル建てで資金を調達する方が望ましいとなるわけです。
では、ソフトバンクがSprint Nextel Corporation株式をSprint Nextel Corporation株主から取得する場合はと言いますと、
この場合、「その現金を使う場所」というのは、実は日本なのです。
Sprint Nextel Corporation社は米国企業ですしSprint Nextel Corporation株主も大半が米国人・米国在住ですから、
一見、この場合の「その現金を使う場所」とは米国であるように思うかもしれません。
しかし、実は「その現金を使う場所」というのは日本なのです。
なぜかと言いますと、「その現金を支払い株式を取得する人」というのはソフトバンクだからです。
実際の株式取得の法手続きは米国内でソフトバンクの米国現地法人が米ドル建て行うのだとしても、
日本のソフトバンクは米国現地法人に現金を渡すわけですが、送金直前に米ドルに交換する前は日本円なのです。
ソフトバンク単体から見ると、この株式取得はどこまで行っても日本円建てでの取引だと言えるのです。
株式を売却しその対価を得る人がたまたま米国人・米国在住というだけのことであり、
そしてその通貨単位が米ドルというだけのことなのです。

 

 


「その現金を使う場所」というのは実は日本だ、という部分が分かりづらいかもしれません。
「Sprint Nextel Corporation株式」が現金に変わることはなく、
株式取得後はソフトバンク単体にとってはもはや「Sprint Nextel Corporation株式」と米ドルとは関係がない、
というようなことを言いたいのですが(この書き方でも意味が分かりづらいかもしれませんが)。

「その現金を支払い株式を取得する人」というのはあくまでソフトバンク単体であり、その通貨単位はあくまで日本円です。
そしてその結果が、ソフトバンクの個別財務諸表の「投資その他の資産」に「Sprint Nextel Corporation株式」として
円換算後の価額で(円建てで)計上されるわけです。
そして、単体上、「Sprint Nextel Corporation株式」に関して何か決済や返済のようなことが行われるわけではありません。
償却のような手続きが行われるわけでもなく費用化も損金算入もなく、
「Sprint Nextel Corporation株式」は「Sprint Nextel Corporation株式」のまま価額も一切動きません。
ある意味、「Sprint Nextel Corporation株式」は株式の取得で会計処理は全て終わっているのです。
決済や返済などは何もない、ですからこの場合、「その現金を使う場所」というのは実は日本だ、と表現したのですが。
「その現金が関係しているのは日本だけだ」と言えば伝わるでしょうか。

ここが同じ借り入れや社債発行でも、「株式取得」と「運転資金」とで大きく違うところだと思います。
運転資金のための借り入れは同じ日々の営業活動の中で手許現金を増やしていき返済すればよい、
しかし、ソフトバンクの株式取得のための社債発行は他の手段によって償還しなければならない、
という点が大きく違うのです。

 

 


もっと他の説明の仕方を考えてみましょう、
ソフトバンクは実は日本円でSprint Nextel Corporation株式を取得できる、と考えてもいいかもしれません。
米ドル建てでの取得価額をすぐ円換算すればある意味日本円でSprint Nextel Corporation株式を取得したと言えます。
実際その価額(単位:円)だけソフトバンクは現金を支出し、そして個別貸借対照表上の価額もその価額でしょう。
ところが、運転資金となりますと、Sprint Nextel Corporation社にとっては日本円では運転資金になりません。
Sprint Nextel Corporation社にとっての運転資金とは常に必ず米ドルなわけです。
こうなりますと、Sprint Nextel Corporation社は米ドルで借りるしかありません。
ソフトバンクはその時に株式を取得するだけだから米ドルはいらない、と考えてもいいかもしれません。


日本円建ての社債を発行する場合は為替レートの変動は一切関係がなくなります。
これは例えば、社債発行ではなく、内部留保でSprint Nextel Corporation株式の取得のための現金を賄う場合のことを考えればいいでしょう。
内部留保で株式取得資金を賄う場合、為替レートの変動が関係あるでしょうか。

 

 


貸借対照表の観点から説明するならば、株式取得と運転資金とは、実は著しく異なる性質のものだ、という言い方ができるのかもしれません。
取得した株式は「固定資産」になります。そしてさらには費用化されません。
ある意味取得して終わりです。
ところが運転資金は文字通り日々の営業活動で使っていく現金であり、
その現金がある時は棚卸資産になり、ある時は売掛金になり、ある時は受取手形になるのです。
そして最後は再び現金になるのです。
運転資金を借り入れで賄っている場合は営業活動の中で増加していった手許現金で返済し、
手許現金が一時的に足りない場合はつなぎの短期資金を再び借り入れる、といったことをします。
ここでの現金とは日本企業であれば日本円ですし米国企業であれば米ドルです。
まさにその通貨建ての現金が日々いるのです。
要するに、日々の営業活動で米ドルがいるのか日本円がいるのかで、米ドルで借り入れるべきか日本円で借り入れるべきかが決まるわけです。

ソフトバンク単体には米ドルは入ってきません。
ソフトバンク単体のの受取配当金の中にも正常営業循環の中にも米ドルは1セントもないのです。
しかし、株式取得のために発行した社債は償還していかねばなりません。
であるならば、株式取得のために発行する社債は日本円建てが一番望ましい、ということになるのです。


いろいろと書きましたが、社債発行に関して一言でまとめるなら、
「発行する社債の通貨単位と償還の原資となる収益の通貨単位とは一致させねばならない」、
となると思います。
通常、発行する社債の通貨単位と償還の原資となる収益の通貨単位とは一致するのですが(通常、共に日本国内・日本円でのことでしょう)、
このたびのソフトバンクのように、海外企業株式(通貨単位は日本円以外)を取得するに際し社債を発行するが、
その償還原資は日本子会社からの受取配当金(通貨単位は日本円)、となりますと、為替変動のリスクへの対応という意味も含め、
どの通貨建てで社債を発行するのが最善かが問題となる(結論は「償還の原資となる収益の通貨単位」)、と思いましたので書いてみました。

 

ちょっと今日はうまく書けなかった気がします。今自分で読み返してもうまく伝え切れていない部分があるように思います。
言葉を変えて何通りかの説明を考えてみたのですが。いずれかの説明を読むことによって何が言いたいのか伝わればいいのですが。