2013年1月20日(日)
2013年1月19日(土)日本経済新聞
のれんの正体 M&Aの副産物 下
買収の成否を移す鏡
(記事)
【コメント】
今までに何回も書きましたが、会計で言う”のれん”というのは、
”長年かけ築いたブランド力や信用、顧客基盤など目に見えない価値”などではありません。
率直に言えば、企業結合時の仕訳の際に生じるただの「貸借の差額を埋めるための勘定科目」に過ぎません。
連結財務諸表上生じるのれんのことを「連結調整勘定」と言います(言いました)。
本当に「仕訳時の貸借がそのままでは合わないので残高のバランスを取るためだけに少ない側に足し算する調整のための勘定科目」
に過ぎないのです。
ブランド力も信用も顧客基盤もへったくれもありません。
そのようなものを数字で表現することなど不可能です。
もしそのようなものがあるのだとすれば、その後の経営成績に自然と表れてくるわけであって、
企業結合時に何か計算できるものではありません。
のれんというのはただの貸借の差額に過ぎないわけですから、本質的に価値や経済実態があるわけではないのです。
そしてのれんというのは、高過ぎる価格で買ったことによる正ののれんが計上されることが非常に多いわけですが、
その時の相手方勘定科目は連結利益剰余金です。
逆から言えば、連結利益剰余金が実態のないのれんに使われていることになります。
連結利益剰余金が実態のないのれんに使われているということは連結利益剰余金がのれんの額だけ水増しされているわけです。
連結利益剰余金の水増しは粉飾決算に他ならず、のれんを償却しなければならない本質的理由はここにあります。
会計のそもそもの目的というのは、世界中のどの国でも同じですが、「真実の数字を表すこと」です。
日本で言えば、企業会計原則の「真実性の原則」です。
本来であるならば、国によって「真実の数字」が異なることはあり得ないわけです。
世界中のどの人が財務諸表を作成しようとも、「真実の数字はこれです」と一通りに数字が決まる、それが会計です。
もちろん、国によって商慣習は異なりますし見積もりその他も会計には含まれますので数字に若干の幅は出てきます。
しかし、その国の商慣習を正しく理解すれば、そして、
将来の見積りとは言ってもその”合理的な金額”というのは誰から見てもある一定の狭い範囲に絞られますので、
究極的には会計の数字というのは一通りに決まってくるものなのです。
そういったことを踏まえますと、ある国の会計基準はのれんを償却しある国の会計基準はのれんを償却しないというのは、
率直に言えば、どちらかの会計基準が正しくどちらかの会計基準が間違っている、というところに行き着くのです。
どちらの会計基準が正しいのかは言うまでもないと思いますが。
のれんの会計処理に関してはIFRSや米国基準にはある矛盾が含まれていると思います。
それは「減損テスト」という会計処理方法を用いて結局はのれんを償却することを念頭においているということです。
「のれんはそもそも償却しなくて良いものなのだ」、とIFRSや米国基準が考えているのだとしたら、
「減損テスト」の定めははじめからいらないわけです。
心のどこかで「本当はのれんは償却すべきものだ、ただそれを先延ばししたいがために減損テストというこじつけを使っているだけだ」、
そう思っているに違いありません。
「のれんは償却しなければならないものだ」ということが本当ははじめから分かっているのなら、
堂々と規則的に償却していけばいけばいいではありませんか。
のれんを恣意的な「減損テスト」によってしか償却しないのは、ただの損失の先送りに過ぎません。
率直に言えば粉飾決算です。
のれんを償却していないから利益額が大きいのだと自慢するのは、「私は救いようのないバカです」と自己主張するようなものです。
のれんの償却を先延ばしすればするほど、市場を欺いていることになります。
のれんの「減損テスト」はただの利益操作の意味しかありません。
そんなに「減損テスト」に客観性があり真実だと言うのなら、工場や設備などの有形固定資産も「減損テスト」で償却すればよいでしょう。
私は今日改めてIFRSや米国基準に諭したいと思います。
「のれんは償却しなければならないものだ」と本当は分かってるんだろう?
と。