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2013年1月5日(土)



2013年1月5日(土)日本経済新聞
川崎汽、143億円計上 有価証券評価損 戻り入れ益 10~12月
(記事)



 


2013年1月4日
川崎汽船株式会社
平成25年3月期第3四半期連結会計期間 投資有価証券評価損の戻入益に関するお知らせ
ttp://www.kline.co.jp/ir/stock/disclose/detail/__icsFiles/afieldfile/2013/01/04/20130104.pdf

 

「1.平成25年3月期第3四半期連結会計期間における投資有価証券評価損戻入益」
(1/1ページ)



「2.今後の見通し」
(1/1ページ)

 

 


【コメント】
記事やプレスリリースの内容を理解するためには四半期決算における投資有価証券の評価方法を理解する必要があります。
投資有価証券の評価損やその戻入益についての会計処理を理解する必要があるわけですが、
会計処理を理解するとはどういうことかというと、究極的にはその会計処理についての仕訳を自分で切れる、ということです。
会計処理とは仕訳のことなのです。


では、仕訳を切っていきましょう。

 

 

第1四半期末の投資有価証券の評価に関してはこちらを参考にしました↓。


2012年7月2日
川崎汽船株式会社
平成25年3月期第1四半期連結会計期間 投資有価証券評価損に関するお知らせ
ttp://www.kline.co.jp/ir/stock/disclose/detail/__icsFiles/afieldfile/2012/07/02/20120702-2.pdf

 

 



「その他有価証券」に区分される投資有価証券(時価が著しく下落し回復する見込みがないもののみ)に関する川崎汽船の当期中の仕訳

 

2012年4月1日(第1四半期期首日)の仕訳

(仕訳なし)


2012年6月30日(第1四半期期末日)の仕訳

(投資有価証券評価損) 15,874百万円 / (投資有価証券) 15,874百万円   ・・・①


2012年7月1日(第2四半期期首日)の仕訳

(投資有価証券) 15,874百万円 / (投資有価証券評価損戻入益) 15,874百万円   ・・・②


2012年9月30日(第2四半期期末日)の仕訳

(投資有価証券評価損) 17,988百万円 / (投資有価証券) 17,988百万円   ・・・③


2012年10月1日(第3四半期期首日)の仕訳

(投資有価証券) 17,988百万円 / (投資有価証券評価損戻入益) 17,988百万円   ・・・④


2012年12月31日(第3四半期期末日)の仕訳

(投資有価証券評価損) 3,650百万円 / (投資有価証券) 3,650百万円   ・・・⑤

 

 



下の方でもコメントしていますが、
日本で「四半期」と言う時には、「会計期間(3ヶ月間)」を意味することもあれば
「累計期間(6ヶ月間、9ヶ月間、1年間)」を意味することもあります。
「会計期間(3ヶ月間)」か「累計期間(6ヶ月間、9ヶ月間、1年間)」かによって、
特別利益や特別損失やそれらの結果の当期純利益の金額が著しく変動することになります。

上記の仕訳を用いてその違いをまとめますと以下のようになります。

 

第1四半期の損益計算書(会計期間:3ヶ月間)に出てくるのは①のみ。投資有価証券評価損(特別損失)が15,874百万円のみ計上。

第2四半期の損益計算書(会計期間:3ヶ月間)に出てくるのは②+③。
投資有価証券評価損戻入益(特別利益)が15,874百万円計上、投資有価証券評価損(特別損失)が17,988百万円計上、
純額表示なら投資有価証券評価損(特別損失)2,114百万円計上。
第2四半期の損益計算書(累計期間:6ヶ月間)に出てくるのは①+②+③。
投資有価証券評価損(特別損失)が17,988百万円のみ計上。

第3四半期の損益計算書(会計期間:3ヶ月間)に出てくるのは④+⑤。
投資有価証券評価損戻入益(特別利益)が17,988百万円百万円計上、投資有価証券評価損(特別損失)が3,650百万円計上、
純額表示なら投資有価証券評価損戻入益(特別利益)14,338百万円計上。
第3四半期の損益計算書(累計期間:9ヶ月間)に出てくるのは①+②+③+④+⑤。
投資有価証券評価損(特別損失)が3,650百万円のみ計上。

 

 


プレスリリースの記述についてコメントします。

 

平成25年3月期第3四半期連結会計期間(3ヶ月間)において投資有価証券評価損戻入益を計上する理由として、

>株価の回復が認められ

と書いてありますが、これは間違いです。
洗替法を採用している場合は株価動向とは無関係に必ず投資有価証券評価損戻入益は期首に計上されます。
上記の仕訳で言えば、④の仕訳を2012年10月1日(第3四半期期首日)に必ず切ります。
株価は関係ありません。

ただ、保有している株式の株価が期末日時点で回復したから結果として3ヶ月間で見れば投資有価証券評価損戻入益が計上されることになった、
とも言える訳です。
上記の仕訳で言えば、株価の回復により⑤の仕訳による投資有価証券評価損が少なくてすんだので
トータルでは投資有価証券評価損戻入益が計上されることになったわけです。
期末日時点でさらに株価が下がっていれば当会計期間(3ヶ月間)でも投資有価証券評価損が計上されていたのは確かでしょう。

何が言いたいか分かりづらいかと思いますが、株価動向とは無関係にとにかく④の仕訳は必ず切る、ということ、
そして、トータル(3ヶ月間)で投資有価証券評価損が計上されるのか投資有価証券評価損戻入益が計上されるのかは
⑤の仕訳で決まる(⑤の仕訳そのものは株価動向で決まる)、ということを言いたいわけです。

 

 



そして一言で株価動向と言いますが、この場合いつといつの比較をしているのかと言えば、
実は2012年3月31日の株価と2012年12月31日の株価を比較して言っているのです。
第3四半期の話をしていますので、10月、11月、12月の株価の変化の話をしているのかと思われるかもしれませんが、
そうではなく、実は2012年3月31日から2012年12月31日までの間の株価の変化具合の話をしているのです。
④の仕訳により、投資有価証券の帳簿価額は2012年3月31日時点に戻っているのです。
ですから、⑤の仕訳を切る際は、2012年12月31日の株価と2012年3月31日(注)の株価を見比べているわけです
(注:過去の減損処理の有無等によってはもっと前(例えば取得原価等)になりますがここでは話の簡単のために通期年度末とします)。

分かりづらいかもしれませんが、⑤の仕訳により、3,650百万円の投資有価証券評価損(特別損失)を計上しましたが、
これは2012年3月31日の株価と比較して評価損が計上されたということであって、
2012年9月30日の株価と比較して評価損が計上されたということではないわけです。
つまり、この10月、11月、12月に株価が上昇したのだとしても、2012年3月31日と比較して株価が上昇したのではないのなら
やっぱり投資有価証券評価損(特別損失)が計上されてしまうということです。
「当四半期」、「第3四半期」、といった表現の下での投資有価証券評価損(特別損失)と聞くと、
その3ヶ月間での株価の上昇・下落が反映されているものだと思うかもしれませんが、全く違うということです。

説明し出すと非常に長くなりますし、話が込み入っていて非常に分かりづらくなっているわけですが、
投資有価証券の時価評価とは何かということを理解しないと分かりづらいことだと思います。
また、日本で「四半期」と言う時には、
「会計期間(3ヶ月間)」を意味することもあれば「累計期間(6ヶ月間、9ヶ月間、1年間)」を意味することもある、ということや、
四半期決算における投資有価証券の会計処理方法に洗替法と切放法の二種類がある、
ということも話が複雑になっている原因であるように思います。

 

 


個人的には、四半期決算における投資有価証券の会計処理方法は通期(1年間)と同じ様に切放法のみ、
とするのがやはり一番良いと思います。
これなら、四半期決算における投資有価証券評価損(特別損失)は前四半期末時点の株価と比較しての評価損だとすぐに分かるからです。
累計期間(6ヶ月間、9ヶ月間、1年間)での投資有価証券評価損(特別損失)の額はそれまでの四半期の単純足し算に過ぎないわけです。
単純に引き算すれば3ヶ月間のみの投資有価証券評価損(特別損失)はすぐに計算できるわけです。
会計処理の統一性(四半期と通期で会計処理の方針を統一させること)の観点からも「切放法のみ」が一番良いと思います。

ただ、実務では、税務との整合性を非常に重視します。
税務には四半期という概念はありませんし、時価評価による評価減の損金算入を認めません。
企業としてはできる限り会計処理と税務を合わせておきたいと思う気持ちは分かります。
そうであるならば、四半期では投資有価証券の減損処理を行わず、
評価差額は損益計算書を通さず全て純資産直入(その他有価証券評価差額金)で処理する方が良いと思います。

さらに言えばなのですが、通期の投資有価証券の減損処理も税務上は損金算入されないということであるならば、
四半期で洗替法を適用しても結局通期では企業会計と税務会計はずれることになるわけです。
それなら、四半期において通期と同じ様に切放法を採用しても同じことなのではないか、という気がします。
税務とは敢えて離れる形で「会計上の正しい価額を表示する」目的で減損処理という企業会計独自の会計処理を行うわけですから、
なぜそこで税務との整合性を重視する必要があるのでしょうか。
会計方針についての企業の意思を踏まえれば、固定資産の減損処理において税務との整合性を重視するのはある意味矛盾であり、
それは同時に、固定資産の減損処理に際して税効果会計を適用することもまた矛盾である、ということになろうかと思います。


一度損益計算書に計上した利益や損失は絶対に戻し入れてはいけません。
貸借対照表の株主資本が著しく変動することになるからです。
株主資本が変動するということは一株当たりの株主資本が変動するということであり、それはつまり、株式の価値が変動するということです。
そもそも当期純利益とは何か?
当期純利益とは事業活動の結果生じた当期の全ての利益や損失を含んだ「確定(実現)した利益の金額」のことを意味するのだと思います。
一度損益計算書に計上した利益や損失を戻し入れることは過去に計上した当期純利益が変わることを意味すると思います。
過去に計上した当期純利益が変わるというのもまた矛盾だと思います。

 

 


プレスリリースには「2.今後の見通し」が書かれています。

 

>当社は上記の投資有価証券評価損戻入益を平成25年3月期第3四半期連結会計期間において特別損失の減額として計上する予定としており、
>第3四半期連結累計期間の四半期純利益を約95億円、押し上げる効果があります。


ここには2つ間違いがあります。
1つ目は、このたびの投資有価証券評価損戻入益は「累計期間(9ヶ月間)」の業績には一切関係がないことです。
投資有価証券評価損戻入益が計上されるのは「会計期間(3ヶ月間)」の業績のみです。
2つ目は、間違いと言っては何ですが、(会計期間(3ヶ月間)の)四半期純利益を約95億円押し上げる効果があると書いてある点です。
投資有価証券評価損戻入益の特別利益が143億円なのに純利益への影響額が95億円ということは、
税効果会計を適用しているということだと思います。
ここで税効果会計を適用するというのは会計理論上様々な矛盾があるように思います。
このたびの投資有価証券評価損戻入益が将来益金算入されることは絶対にないわけです。
この投資有価証券評価損戻入益は四半期決算(3ヶ月間)のみの出てきた特殊な会計数値上の利益に過ぎないわけです。
実際にこのような利益があるわけではありません。
四半期洗替法という特殊な会計処理法を採用した結果このような会計上の利益が出てきただけです。
「累計期間(9ヶ月間)」で見ればこのような投資有価証券評価損戻入益という特別利益すら出てこないわけです。
何と言いますか、これはもはや企業会計上の利益と税務上の課税所得との間に差異があるとすら言わないような気がします。
これは一時差異なのか永久差異なのか分かりませんし、差異と呼べるような利益や所得でさえないように思います。


 

>しかしながら、当社は四半期連結会計期間における有価証券の評価方法として洗替え方式を採用しており、今後の株価水準次第では、
>第4四半期連結会計期間にて再度、今般の戻入益と同額程度の評価損計上を余儀なくされる可能性が残ります。


この部分は完全に間違いだと思います。
敢えて言うなら、株価水準に関係なく、投資有価証券評価損戻入益(特別利益)が3,650百万円、2013年1月1日に既に計上されています。

 

 


過去のプレスリリースを見てみるとこのようなプレスリリースもありました↓。
これも投資有価証券評価損戻入益についてですが。

 

2012年4月2日
川崎汽船株式会社
投資有価証券評価損の戻入益に関するお知らせ
ttp://www.kline.co.jp/ir/stock/disclose/detail/__icsFiles/afieldfile/2012/04/02/20120402.pdf


有価証券報告書
ttp://www.kline.co.jp/ir/library/report/index.html


決算短信
ttp://www.kline.co.jp/ir/library/bs/index.html

 

本日の記事についても全く同じことが言えるのですが、会計期間(3ヶ月間)で見ると、確かに「投資有価証券評価損戻入益」が計上されるわけです。
そのこと自体は間違いではないのですが、問題なのは、その3ヶ月間の損益計算書を企業は開示していないことだと思います。
第2四半期、第3四半期、通期(1年間)の決算短信や四半期報告書や有価証券報告書を見れば分かるように、
業績は全て「累計期間(6ヶ月、9ヵ月、1年間)」のみの開示となっています。
3ヶ月間の開示と言うのが全くないわけです。
これでわざわざ「投資有価証券評価損の戻入益に関するお知らせ」などと言われても投資家は混乱するだけでしょう。
投資家の側からすると財務諸表の開示は詳しければ詳しいほどよいわけです。
一方企業の側からすると財務開示のために上場しているわけではないから規則で定められた最低限の開示しかしたくないというのも分かります。
そうであるならば、財務開示の制度の方を変更し、より詳細な財務開示を義務付けるようにすべきだと思います。