2012年9月19日(水)



多重株主代表訴訟とは? 親会社株主が子会社役員を提訴するには
(Astand 2011年04月02日)
ttp://astand.asahi.com/magazine/judiciary/fukabori/2011033100020.html

 


 



【コメント】
昨日、国をまたいだM&A(国をまたぐ場合は全て株式取得(子会社化)になるでしょうが)では日本の法律を超える話になってくる、
ということ書きました。
例えばアメリカの会社を買収する場合は日本の法律とアメリカの法律の両方を守らないといけないわけでして、
そういう意味で日本の法律を超えてくるわけです。
連結決算やグループ経営は法ではカバーしきれないわけです。
連結決算やグループ経営の話になりますと、日本の国内に限った話でも法律上は簡単ではない場合が出てきます。
親会社株主が子会社の取締役を訴えることは法的にできない、という議論です。
いわゆる多重株主代表訴訟ですが、多重株主代表訴訟は日本だけでなくおそらく海外でもそもそも法的に不可能なのではないでしょうか。

なぜ多重株主代表訴訟はそもそも法的に不可能なのかと言いますと、一言で言えば、「親会社株主は子会社の株主ではないから」となります。
法は「株主は自分が株式を所有している会社の役員を訴えることができる」と定めているわけです。
株主代表訴訟のポイントは「自分が株式を所有している会社の」という部分です。
「自分が株式を所有している会社の」とだけ聞くと
「当たり前じゃないか、自分が株式を保有しているわけでもない会社の役員を訴えていいわけがない」
と誰もが思うわけです。
しかし、多重株主代表訴訟というのはまさに「自分が株式を保有しているわけでもない会社の役員を訴えること」に他ならないのです。
もちろん、連結決算やグループ経営という観点で見れば、
親会社は子会社の株式を保有して意思決定を支配しているし私はその親会社の株主だ、だから私には子会社役員を訴える資格がある、
という主張は分かります。
分かりますが、法的には実は親会社と子会社は「完全に別の会社(別の法人・別の存在)」なのです。
議決権を保有しているもしくは意思決定を支配している、ということと法的責任は別と言えばいいでしょうか。
極端に言えば、法的には「親会社と子会社は全く関係がない」とすら言えるかもしれません。
それに、仮定の話として、議決権を保有してるというだけで何らかの法的責任を問われるのであれば、
親会社が何らの損害を与える行為をしてしまった場合、株主である自分自身にも責任が及ぶという考え方になってしまいます。
その時その株主は何と言うでしょうか。
「俺はただの株主だ、議決権を持っているというだけだ、会社の責任と株主である私とは何の関係もない」と言うでしょう。
そうです、会社と株主の間すら、法的責任という意味では関係がないのです。
会社法では会社に出資をして議決権を保有している関係上株主代表訴訟ということを認めているだけなのです。
多重株主代表訴訟などというのは果てしなく遠い話です。

 


 



紹介した記事は多重株主代表訴訟にまつわる多くのことを非常に難しく書いてありまして、
現行法上の解釈として多重株主代表訴訟が認められないので一刻も早い立法制定が望まれる、といったことが書かれていますが、
結論を一言で言えば、多重株主代表訴訟の立法や解釈による可否も何も、「そのような立法(会社法改正)はそもそも不可能だ」、となります。


では仮に、法務省がついに脳に来てしまい多重株主代表訴訟を認めるような立法(会社法改正)がなされた場合どうなるのかと言いますと、
「民法違反」
になると思います。
もちろん、法律には法律違反という概念はない(憲法違反はある)と思いますが、ここでは概念上の理解と思っていただきたいのですが、
概念的には会社法の多重株主代表訴訟を認める条文は民法違反と言えると思います。
多重株主代表訴訟は民法の概念に反すると思います。
別に私は民法やその他の法律の専門家ではありませんが、
要するに民法には法的に自分に損害を与えた人を訴えてよい、といったことが書かれているのだと思います。
実は私もその程度にしか民法は理解していないのですが、その線で考えていきますと、
親会社の株主は、株式(議決権)を保有している関係上親会社(の役員)から損害を受けるということがありえますが、
株式(議決権)を保有しているわけでも何でもない子会社から損害を受けることは決してないわけです。
当然、法的に自分に損害を与えてもいない人を訴えてよいわけがないのです。
だから多重株主代表訴訟というのは民法違反になるのです。

多重株主代表訴訟には連結決算やグループ経営が出てくる余地はありません。それは会計や経営の話です。
法的には親会社と子会社は関係がないのです。
敢えて同じグループ内・連結ベースでの話をするのなら、子会社の役員が原因で親会社の株主が何らかの損害を受けているのなら、
その前に親会社自身が大きな損害を受けているはずだ(だから親会社自身が子会社役員を訴えればそれで十分という議論になる)、となります。
親会社の株主は損害を受けたが親会社自身は何の損害も受けていないということはどのように考えても絶対にありえないわけです。


イメージ的には、まず民法という大きな法律があって、その商業関連の特別バージョンが会社法です。
憲法があって民法があるように、民法があって会社法があるのです。
多重株主代表訴訟は概念的には民法違反ですから、会社法でも多重株主代表訴訟が認められるわけがないのです。
(仮に会社法に多重株主代表訴訟を認める条文を書いても実際には民事訴訟は提起できない、ということだと思います。)

 


 



>[1]  会社法第851条の場合
>
> 現行会社法は第851条で多重株主代表訴訟を規定している。これは、既に株主代表訴訟が係属しているときに、
>[1] 当該株式会社が「株式交換又は株式移転」を行い当該株主が親会社株主となった場合、または、
>[2] 当該株式会社が「合併」により消滅し当該株主が完全親会社株主となった場合に、
>それまで係属している株主代表訴訟の追行を引き続き認めるものである。
>これにより、結果として、多重株主代表訴訟が形成されることとなる。

 


>[1] 当該株式会社が「株式交換又は株式移転」を行い当該株主が親会社株主となった場合


原告が株主代表訴訟を「提起した時点」ではあくまで当該株式会社の株主だったわけですから、
これは多重株主代表訴訟ではなくこの場合も通常の株主代表訴訟の類型ではないでしょうか。
裁判の最中に原告である株主が「株式交換又は株式移転」により直接の株主ではなくなったとしても、
原告適格を喪うことはないのではないでしょうか(私は法律は専門ではないので間違っているかもしれませんが)。

 

>[2] 当該株式会社が「合併」により消滅し当該株主が完全親会社株主となった場合


株主代表訴訟で訴えられているのは役員です。会社ではありません。
また、合併存続会社は合併消滅会社の権利・義務を包括的に引き継ぎます(同じ消滅でも単なる会社清算とは意味が異なる)。
法的に正しい言い方ではないかもしれませんが、株主代表訴訟における会社は債権者なのです(債務者が訴えられている役員)。
合併により、合併消滅会社から合併存続会社へと債権が移転した、債権者が法的には代位した、といった言い方になるでしょうか。
したがって、裁判の最中に当該株式会社が「合併」により消滅し当該株主が完全親会社株主となった場合、
裁判は引き続き係属され、当該役員は合併存続会社へと損害賠償を行わねばならないでしょう(この場合も原告が原告適格を喪うことはない)。
要するに、これも多重株主代表訴訟ではなくこの場合も通常の株主代表訴訟の類型ではないでしょうか(私は法律は専門外ですが)。