2012年9月13日(木)



富士フイルム、映画フィルムを生産中止へ…デジタル化の波に逆らえず

 [シネマトゥデイ映画ニュース] 1934年の創業以来、映画フィルムを取り扱っていた富士フイルム株式会社が、
上映用をはじめとする映画フィルムの生産を中止することが明らかになった。
ただし、アーカイブフィルムの生産は継続するなど、今後はデジタル化の波に合わせる形で映画事業を続けていくという。
 映画フィルムは、撮影用や編集用、上映用など用途ごとに使い分けされており、同社での生産中止が決定したのは、
上映用ポジフィルム、撮影用カラーネガフィルムなど、アーカイブフィルムを除いた映画フィルム。
同社担当者によると、デジタル化の推進が最大の理由になっているといい、近年の3D映画の隆盛で映画界のデジタル化が
加速したことも要因になっているとのこと。具体的な生産中止時期については現在調整中だという。
 1934年の創業時から映画フィルムの国産化を理念として掲げ、業界内で35パーセントのシェアを占めていたという同社の事業縮小は、
今後さまざまなところに影響を与えることが予想される。これまで同社は世界中に二つしかない映画用フィルム全種類を
生産するメーカーだったが、今回の決定に伴い、今後、全種類を供給できる会社は米イーストマン・コダック・カンパニーのみとなる。
(数字は富士フイルム提供のもの)
 今後の同社は、保存用のアーカイブフィルムやカメラ用レンズ、色調整システムなどで映画事業を継続していく見込み。
とりわけ、同社が開発したアーカイブフィルム「ETERNA?RDS」は、映画業界に貢献した技術や技術者に贈られる
アカデミー賞のアカデミー科学技術賞を受賞。現在では20世紀フォックスとソニー・ピクチャーズ エンタテインメントの
全作品に採用されるなど、映画フィルムを語る上では欠かせないアイテムの一つとなっている。
 デジタル化が推進されているとはいうものの、フィルム上映を好んでいる映画ファンは多く、
最近では往年の名作をオリジナルニュープリントで上映する「午前十時の映画祭」が人気を集めていることも記憶に新しい。
また、フィルム撮影にこだわる制作者もおり、映画『ダークナイト』で知られるクリストファー・ノーラン監督は
一貫してデジタル化に批判的な姿勢を見せている。
(シネマトゥディ 2012年9月12日 20時54分)
ttp://www.cinematoday.jp/page/N0045947

 


 



2012年9月13日
富士フイルム株式会社
当社の映画事業の取り組みについて
ttp://fujifilm.jp/information/articlead_0174.html


富士フイルムは、これまで映画事業として、主に撮影用フィルムや上映用フィルムを提供してきましたが、近年、急速に進展する
映画撮影・制作・上映・保存工程のデジタル化に対応し、事業内容を転換しデジタル化に合わせた製品・サービスを提供していきます。
デジタルシネマカメラによる撮影が本格化し、映像制作においてはCG合成、VFX加工などを多用するデジタル編集が広く普及してきており、
また上映側でも3D作品増加に伴いデジタル上映設備をもつ映画館が拡大してきたことなど、映画業界のデジタル化は急速に進んでいます。
これらに対し、富士フイルムはこれまで撮影用フィルムや上映用フィルムの生産工程のコストダウンなどに取り組み、
供給を継続してまいりました。しかしながら、ここ2、3年の急激な需要の減少は、企業努力の範囲を超えるものとなり、
撮影用/上映用フィルムについては平成25年3月を目途に販売を終了いたします。
一方、富士フイルムは、長期保存に適したアーカイブ用映画フィルムや撮影用の高性能レンズなど、
今まで以上に映画事業のデジタル化に合わせた製品・サービスを提供し、映画産業の発展に貢献していきます。
また、写真フィルムにつきましては、今後も生産・販売を継続してまいります。


 

 



【コメント】
諸行無常、経営とは環境変化への適応業だな、と改めて思いました。
記事についてコメントしますと、


>これまで同社は世界中に二つしかない映画用フィルム全種類を生産するメーカーだったが、
>今回の決定に伴い、今後、全種類を供給できる会社は米イーストマン・コダック・カンパニーのみとなる。


というのは少しおかしな気がします。
現時点でコダックはチャプター・イレブンの適用下にあるわけでして、
何と言いますか、コダックには映画用フィルム全種類を生産する余力はこれまでもそして今もないのではないだろうか、という気がします。


 



一般的な話をしますと、全種類、すなわち「フルライン」というのは企業にとって非常に負担が大きいものです。
企業は製品展開上、「売れる製品のみに集中する」という戦略を採ります。
この点についてはマーケティング理論からも事例を挙げいくらか説明できかと思います(例えばトヨタはフルライン、スズキは軽に集中、等)が、
ここでは管理会計面から説明しましょう。


「フルライン」というのは販売量が多くないものまで取り揃える、という意味です。
当然、販売量が多くない製品に対する原材料、仕掛品、完成品在庫、そして生産設備を保有し続けなくてはなりません。
これは想像以上に企業にとって費用面でマイナスになります。
原材料や仕掛品、完成品在庫は使用期限のようなものもあるでしょう。
食料品類ではありませんから、腐ってしまうことはないにしても、
例えばフィルムであれば酸化その他の化学反応を自然に起こすなど経年劣化してしまうということはあるでしょう。
販売量が多くない製品となりますと、倉庫に眠っている間に気がついたら何年も経過してしまっていた、ということはあるでしょう。
また、生産設備も通常通り使用していれば点検やメンテナンスを定期的に行うため意外に故障などは少ないのですが、
生産を中止して設備を長期間停止させているとかえってその間に故障が起こるということがあるのです。
また、販売量が多くない製品ということはそもそもこの世にその製品を生産している会社(機械設備)自体が少ないということになりますので、
故障した場合の部品のスペア自体も希少で部品交換に非常に費用がかかるということも出てきます。
実は生産設備を保有し続けているだけで様々な費用がかかってくるわけです。

製品には「製品ライフサイクル」というものがあり、販売量が多くない製品というのも始めは大量に売れていたが
長い年月をかけて徐々に売れなくなっていった(まさにこのたびのフィルム製品ですね)、という経過を辿るものです。
衰退まで長い年月がかかっている場合は、販売量が多くない製品を生産する設備の減価償却が幸運にももう終わっているということもあります。
その場合は減価償却負担というのはありませんが、有形固定資産(生産設備)の未償却残高がまだ大きい場合は、
製品は売れないにもかかわらず減価償却負担のみがのしかかるということであり、それはすなわち減価償却費の回収ができないということです。
別の言い方をすれば、販売量が多くないということは生産量も少ないということですから、設備稼働率が極めて低い状態である、ということです。
つまり、販売量が多くない製品の生産・販売は企業の生産設備の稼働率の低下・減価償却費の回収不可(=赤字)を必然的に招くのです。
売れない製品まで生産するというのは企業にとって非常に負担が大きいことが分かるでしょう。

以上を踏まえますと、富士フィルムですら映画用フィルムを大幅縮小している現状から判断すれば、
コダックが今でも映画用フィルムをフルラインで揃えているとはとても思えません。