2012年9月6日(木)



 【WSJで学ぶ経済英語】第47回 のれん代
(ウォール・ストリート・ジャーナル 2012年 9月 3日  6:44 JST)
ttp://jp.wsj.com/Life-Style/node_505201

 


<今週のキーワード>
goodwill(のれん代)

   
<例文>
  Microsoft's write-down, announced in early July, reflected unfulfilled hopes in its 2007 acquisition of
online-advertising company aQuantive Inc. for $6.3 billion. With Microsoft's online-ad business sluggish,
the company wrote off $6.2 billion in goodwill in its online-services division, primarily from aQuantive. (8月 14日付)

  マイクロソフトが7月初めに発表した減損処理は、オンライン広告会社アクワンティブの買収(2007年、買収価格63億ドル)が
同社の希望を満たさなかっ たことを示している。マイクロソフトのオンライン広告事業は低迷し、
同社はオンライン・サービス事業部門で62億ドルの減損処理を行った。主にアクワン ティブののれん代だ。


 


【キーワード解説】
 2008、09年の世界金融・経済危機以後、どの国も総じて景気回復の足取りが弱いが、この軟調経済のツケの一つとして
一部の米国企業に重荷となっているのが、バブル時代の企業買収の際に買収対象企業に支払った「goodwill=のれん代」の償却だ。
   大半の経済活動にインフレ的価格が設定されたバブル時代では、企業買収でもその買収先の手元流動性や設備など
純資産の価値や通常の期待収益額に上乗せした金額を支払うことが常態化していた。その差額分がこの「goodwill=のれん代」で、
経済の先行きが不透明となった現在、これを償却することにより財務基盤の強化を目指しているわけだ。
 「goodwill」は想像にたがわず、本来は「good will」の2つの単語で当初は「善意、慈善」など文字通りの意味だった。
ただ、買収先企業がそれまでに築いた顧客からの信用、評判、知名度など目には見えないが、
純資産額を上回る「善意、心づけ」として支払金の上乗せに値することから、日本語でいう「のれん代」の意味に転用されたとみられる。
現在でも「good will」と「goodwill」の2通りの表記があるが、「のれん代」の意味では一語で「goodwill」とするのが主流となっている。
 「goodwill」は企業のさまざまな非有形資産を意味しているため、文脈によっては「営業権」や顧客の「得意先」などの意味を持つこともある。
 この「のれん」とは少し離れた経済英語としての使い方もある。形容詞的に「goodwill payment」 として使うと、
「買収上乗せ支払い金」の意味ももちろんあるが、他にある企業で長年勤務した幹部に税控除の対象となる「ボーナス的な報奨金」だったり、
ある顧客が購入した商品に欠陥が発見されたり、配達期日が遅れたりした場合、
製造元企業や販売会社がその客に支払う「お詫び金」の意味を 持ったりする。





【表現のツボ】
 今週は「〜を〜円/ドル」買ったり、売ったり、投資したりするなどを表現するのに便利な前置詞「in」の使い方の復習。
例文の「the company wrote off $6.2 billion IN goodwill=同社はのれん代を62億ドル減損処理した」だが、
このように金額を先に持ってきて続いて「in+対象物」を付けて経済活動を簡単に表せる。
  「ソニー株を100万円買った」なら「I bought Y1 million IN Sony stocks」(「ソニーの株で100万円を買った」でも同じ意味)となる。
他に「I bought Sony stocks worth Y1 million」とか「I bought Y1 million worth of Sony stocks」ともいえるが、
これらと比べると短く簡潔な文章になることは明らかだ。
この「in」の使い方は考え方としては媒体とか材料を表す「in」で 「write in ink=インクで書く」「pay in cash=現金で払う」と親類だ。

 

【その他の表現】
write-down:減損処理、償却

unfulfilled hopes:満たされなかった望み

sluggish:低迷した、不振の
 
 

 


【コメント】
ウォール・ストリート・ジャーナルに興味深い記事が載っていましたので紹介します。
「Goodwill」は日本語の会計用語では「のれん」と言いますが、
今までに何度も書いていますように、これはただの貸借の差額に過ぎないわけですから、実態を正確に表しているとは言えないと思います。
連結会計上の株式取得額と純資産の増加額との差額のことは従来通り「連結調整勘定」、
合併などの際の単体上の資産・負債の増加額と純資産の増加との差額のことも従来通り「営業権」、
と呼ぶ方がよいのではないかと思います。
「営業権」のことは「合併差損」といった勘定科目名を作ってもよいのではないかと思います(合併差益の逆ですので)。
もしくは「合併調整勘定」や「会社分割調整勘定」といった勘定科目を作ったほうがもっと取引実態に即していると思います。
単体でも連結でも「のれん」の一言では、そののれんが単体上出てきたものなのか連結上出てきたものなのか、
連結貸借対照表を見ただけでは分かりません。
「連結調整勘定」と「営業権」とは会計上実は本質的に異なるものです。
同じ勘定科目名を付けるのは明らかに間違いだと思います。

 

 

記事についていくつかコメントします。

>これを償却することにより財務基盤の強化を目指しているわけだ。

ここ言う”これ”とは「goodwill=のれん代」のことです。
のれんを償却すると、利益剰余金が減少しますので、財務基盤は悪化すると言えるでしょう。
少なくとも財務基盤が強化されることはありません。
貸借対照表の貸方は「資金の調達源泉」を表し、貸借対照表の借方は「資金の使途」を表します。
のれんを償却しない場合は、「利益剰余金が経済実態のないのれんに使用されている」ということになります。
のれんは必ず償却しなければならないものです。
のれんを償却しない場合はやはり利益の水増し、自己資本の水増し、と言われても仕方ありません。
IFRSではのれんは償却しないことになっていますが、IFRSは明らかに間違った会計基準です。



 



>「goodwill」は企業のさまざまな非有形資産を意味しているため、文脈によっては「営業権」や顧客の「得意先」などの意味を持つこともある。


「goodwill(のれん)」は貸借対照表上は「無形固定資産」の欄に計上されます。
少なくとも会計上は「goodwill(のれん)」が”さまざまな非有形資産を意味している”ということはありません。
会計上「goodwill(のれん)」が意味しているのは「貸借の差額」のみです。

手元の勘定科目・仕訳辞典を見ますと、
のれんは、当該被投資会社の収益力が同種・同規模の他企業の平均収益力と比較して超過している場合、その超過収益力の原因となるものをいい、
その発生原因としては、立地条件、商号、信用、経営者・従業員の優秀さ等が考えられる
と書かれています。
このような考え方からしますと、「goodwill(のれん)」が、例えば職人が独立する際の(会計上の勘定科目名とは異なりますが)「営業権」
を意味したり、顧客の「得意先」などを意味する、とも解釈できます。
しかしそれはあくまで一学説や一裁判判例における解釈の話であって、
のれんの意味についていろいろと講釈やコメントをするならそのような話もできるというだけなのです。

過去には実際に裁判例で「goodwill(のれん)」は「超過収益力の原因となるものをいう」という判決が出ているようです。
会計のかの字も分かっていない裁判官がよく分からないで判決を下したのでしょう。
もし私が担当の裁判官だったら「のれんは貸借の差額である」という判決を下したことでしょう。
これは「最高裁の判例も間違っていることがある」、ということの典型例ではないでしょうか。
担当の裁判官は反省してもらいたいと思います(35年以上前の判決ですから既に亡くなられているかもしれませんが)。
間違った判例により間違った解釈が流布されてしまい残念です。
「goodwill(のれん)」は超過収益力を表すなどというのは創作話もいいところです。
「goodwill(のれん)」というのは、手元の会計処理ガイドブックの表現を使えば、会計上は「差額概念(借方vs貸方)」しかあり得ません。
立地条件、商号、信用、経営者・従業員の優秀さ等を貸借対照表に載せるとすると、それは「自家創設無形固定資産」となります。
今まで書いてきた「goodwill(のれん)」の議論とは少しずれることになりますが、
この「goodwill(のれん)」の中身は立地条件、商号、信用、経営者・従業員の優秀さ等だと主張すれば結局同じことになります。
過去の間違った判例に惑わされず、「goodwill(のれん)」とは「差額概念(借方vs貸方)」のことであり、
企業結合会計上の貸借の差額は全額「goodwill(のれん)」と理解して下さい(貸借の差額が自家創設無形固定資産になることはない)。
会計は「恣意性を排した客観的な数値を開示すること」がそもそもの目的であることを決して忘れないでいただきたいと思います。