2012年9月1日(土)



グーグル、テレビ広告事業から撤退へ

 テレビ業界にとっては朗報だ。米検索大手グーグルGOOG+0.50%がテレビ広告事業から撤退する。
 グーグルは、伝統的なテレビスポット広告のオンライン市場の形成を目的とする、テレビ広告の事業体グーグルTVアズを廃止する。
広告の買い付けを、より効率的に、グーグルらしく行えるようになると踏んでいたが、
バイヤーやプログラマー、配信業者などには受け入れられなかった。
   グーグルはこのプロジェクトに5年間を費やし、最終的にベライゾンやディレクTVといった配信業者との契約により、
4200万世帯に広告を届けることが可能と豪語するまでに至った。これは有料テレビ業界がカバーする世帯数の半分に近い。
しかし、グーグルのプログラムに実際に弾みがついたかどうか、証拠を見つけることは難しい。
 グーグルTVアズは確かに、2009年にグーグルが撤退した新聞やラジオの広告事業よりははるかに長く続いた。
ラジオのケースでは、珍しく人員も削減された。グーグルによると今回は人員削減はない。
 前向きに、そしてもっともらしく解釈すれば、グーグルは伝統的なメディアに食い込むために、
これ以上時間を割く必要はないともいえる。デジタル部門ですばらしい仕事をしているからだ。自身が支配する新しい世界に
テレビが向こうから流れ込んでいるときに、所有もしていない古いメディアを通して利益を得ようとする必要はなかろう。
(ウォール・ストリート・ジャーナル 2012年 8月 31日  12:25 JST)
ttp://jp.wsj.com/Business-Companies/Technology/node_504291

 


 


【コメント】
グーグルが手がけているテレビ広告事業というのは、テレビ広告枠のみをテレビ会社からまとめ買いしてそれを広告主に小口再販売する、
というようなことをしているのでしょうか。
グーグルはテレビ広告とオンライン広告の融合を目指したのかもしれませんが、上手くいかなかったようです。


結論から先に言えば、テレビ広告とオンライン広告はありとあらゆる点で異なるのです。
まず、グーグルの立場から広告事業を考えてみましょう。
グーグルが行っているオンライン広告というのはグーグルからすると人手がかからないビジネスです。
一言で言えば、広告主が自分達だけでオンラインで手続きを行い広告を出すビジネスモデルです。
オンライン広告を出すのにグーグルの社員と交渉をするといったことはほとんどないわけです。
一方、テレビ広告はテレビ会社や広告代理店との交渉からはじまり、長い時間と多くの人間がかかわりあってテレビ広告は完成します。
そのテレビ広告を流すのは午前がいいのか、午後がいいのか、夕方過ぎがいいのか、深夜がいいのか、もしくは全時間帯に満遍なくなのか、
報道番組の間かドラマの間かバラエティの間か、どれが一番効果が高いのか、そういった交渉も行っていかねばなりません。
他方オンライン広告は事実上24時間いつでも、といっていいでしょう。時間帯別のオンライン広告というのはないわけです。
広告事業と一言で言っても、グーグルからすると、テレビ広告は今まで全く経験したことがない事業なのです。

 



次に、広告主の立場から広告を考えてみましょう。
テレビ広告は広い地域に一度に大勢の人々に同じメッセージを伝えることに高い効果を発揮します。
一方、グーグルが得意とする検索連動広告は、まさにそのネットユーザー個人にカスタマイズされた形のオンライン広告を表示します。
テレビ広告は、マス・コミュニケーション手段を用いた大規模プロモーション、
検索連動広告は、ユーザー一人一人に合わせた究極のワン・ツー・ワン・マーケティングです。
広告主からすれば、広告目標、広告予算、メッセージ伝達時間(テレビ広告は15秒、ネット広告は無制限)、何もかもが両者は異なります。
検索連動広告はクリックもしくはスルーその他の何かしらの反応・フィードバックがユーザーから得られるわけですが、
テレビ広告の場合は何の反応もないわけです。何の反応もないというより正確に言えばどのような反応をしたのか全く分からないわけです。
テレビ広告では視聴者の反応を知る手段が全くなく、広告を流しても消費者からのフィードバックはない、というデメリットがあります。
テレビ広告とオンライン広告の連動させようとしても、テレビ広告の最後に「続きはWebで」といったメッセージを入れるくらいしか思いつきません。
テレビ広告とオンライン広告の両方に広告を出そうという広告主はあまりいないでしょう。


以上のことを踏まえますと、グーグルにとっても広告主にとっても、
テレビ広告と検索連動広告は余りにも違う完全に対極にある広告媒体であると言えるでしょう。
グーグルがテレビ広告事業を手がけても成功はしないのはある意味道理とも言えます。
テレビ会社自体や広告代理店そのものを買収するという手段も考えられますが、
今まで書きましたように結局事業面でのシナジーは全くなく、買収しても業績はただの足し算で終わるだけだと思います。