2012年8月15日(水)



日銀の国債保有残高が銀行券上回る、基金含め約81兆円に

[東京 14日 ロイター]  日銀が14日公表した10日時点の営業毎旬報告によると、日銀が保有する長期国債の残高が
10日時点で約80兆9700億円と、紙幣(銀行券)の発行残高約80兆7900億円を上回った。
うち約14兆5000億円は資産買い入れ基金で別枠管理しているため、日銀は保有国債を銀行券の発行額以内に収める自主ルールには
抵触していないとの立場。金融市場も特段の反応を見せていない。一方で日銀は、国債買い増しの副作用にたびたび警告を発している。
中央銀行が巨額の国債を保有すると、政府の財政赤字を財布代わりに引き受けているというマネタイゼーション(財政支援)懸念を呼ぶとして、
日銀は自主的に銀行券ルールを定めている。
しかし日銀は、経済の成長ペースに合わせてお金の量を増やす通常の国債の買い入れとは別に、国債や不動産投資信託(REIT)などの
資産を買い入れる「基金」を2010年10月に設立。基金による国債の買い入れは、「意味が違う」と説明している。
ただ、基金は別枠との建前にも関わらず、日銀関係者は国債の買い入れ拡大に神経を尖らせている。日銀は今年2月、4月と立て続けに
追加緩和を行った結果、基金を含めた国債の年間買い入れ額が43兆円と2012年度の新規国債発行額44.2兆円に匹敵する水準に増加した。
更なる増額は、マネタイゼーション懸念を招きかねないとの声が聞かれ始めた。
さらに5月のリポートで、基金を含めた国債買い入れ額が年末にも92兆円まで膨らみ、銀行券の発行残高を上回るとの見通しを示した。
「基金は別枠としながらも、国債の残高が増えることに対して自らアラームを出した」と、
SMBC日興証券の岩下真理・債券ストラテジストは指摘する。
実際、白川方明総裁は5月以降、金融緩和の効果を測るのは「量でなく金利」とのメッセージを盛んに発信。
基金の残高目標を現行の70兆円から積み増す追加緩和には消極的な姿勢をみせている。
14日公表した7月の議事要旨によると、複数の委員が米国やドイツの長期金利が名目成長率を下回る水準となっていると指摘し、
海外発の長期金利反転が国内に波及するリスクに目配りしている。日銀が国債買い入れ増額による金融緩和をさらに進めれば、
金利が反転上昇するリスクも大きくなる点を懸念しつつある可能性がある。
もっとも、今回国債残高が銀行券を上回ったことに対し、市場は特段の反応を示していない。東短リサーチの飯田潔・上席研究員は
「日銀の緩和姿勢を示す象徴的な出来事だが、長期金利など市場にすぐ影響が出ることはない」と話す。
(ロイター 2012年 08月 14日 12:27 JST)
ttp://jp.reuters.com/article/businessNews/idJPTYE87D01720120814


 

 


銀行券ルール

 銀行券ルール 日銀が資金供給のため金融機関から買い入れる国債の保有を銀行券(紙幣)の発行残高以下に抑えると定めた自主ルール。
2001年3月、市場に出回るお金の量を政策目標とする量的金融緩和策の際に導入した。日銀が際限なく国債を買い続ければ
国の放漫財政を招き、規律が緩んで財政や通貨の信認が失われる恐れがあるため、歯止めをかける狙いがある。日銀によると、国債保有は
年末には92兆円に膨らみ、銀行券残高83兆円を大きく上回る見通しだが、基金を通じた購入分(24兆円)を例外扱いとしている。
(時事通信 2012/08/14-19:43)
ttp://www.jiji.com/jc/c?g=tha_30&k=2012081400789

 

 

 


【コメント】
日銀の国債保有残高が現在合計いくらかすら分からない状態ではないかと言う気がします。
今年8月10日時点で約80兆9700億円とのことですが、本当はもっと多いのではないだろうかという思いもあります。
何度も申し上げていますように、中央銀行は国債その他の資産は1円たりとも保有してはならないというのが大原則です。
いくら以内であればよい、などという基準はありません。


記事にあるような、銀行券ルールというのはありません。
日銀内の自主ルールですらないと思います。


究極的なことを言えば、銀行券の発行残高には本質的な意味はないのではないでしょうか。
一万円札は「一万円の価値がある」ということを表象しているだけの紙に過ぎないわけで、
それは例えば銀行口座の預金残高が一万円であればそれだけで「一万円の価値がある」と考えることと同じなわけです。
つまり、「一万円札一枚」と「銀行口座の預金残高一万円」は完全に同じ意味であり経済的価値も等価です。
両者は「紙とインク」という形か「銀行口座という電子データ」という形かという形式上の違いにすぎないわけです。
例えば、上場企業の株式が電子化されて株券が原則廃止されましたが、
廃止後も以前と変わらず株式の売買は株式市場で行われているでしょう。
株式市場での売買高や株式時価総額や企業の業績に変化が起こったかと言えば何も起こっていません。
紙が電子データに変わっても経済実態は何も変わらないわけです。
銀行券も同じです。
企業において紙幣を使うことなく全て電子データの形のままで売上債権の回収から仕入債務の支払いから給与の支払いその他まで
行うようになればなるほど、日銀は銀行券を印刷しなくなるでしょう。
また、個人が紙幣を使うことなくクレジットカードや電子マネーの形で消費等を
行うようになればなるほど、日銀は銀行券を印刷しなくなるでしょう。
電子データの形で経済活動を行うようになればなるほど、その分銀行券の発行残高が減るというだけです。
銀行券の発行残高が増減したというだけでは、インフレやデフレとも、経済の景気不景気や経済成長とも関係がありません。
マクロ的に市中に出回っているお金という時には、銀行券発行残高ではなく市中銀行の融資残高などでも見ていかねばならないと思います。
もちろん、銀行券発行残高の多寡は国債の償還可能性とも何ら関係がありません。
国債の償還可能性は(理屈の上では)将来の税収によってのみ決まります。
銀行券発行残高では決まりません(銀行券ルールなどというのはない理由はまさにこれです)。