2012年1月1日(日)



【事例研究】
An Analysis of Differences between Excellent Japanese Accounting Principles and Extremity US Accounging Principles
-Should Interest Cost be Included into Construction in Progress or Recorded Immediately as Period Expense?
Which is More Appropriate?-

 

「日本会計基準と米国会計基準との差異についての研究」
―支払利息は建設仮勘定に含めるべきなのか、それとも、期間費用として即時費用計上すべきなのか?
どちらが正しい会計処理方法だろうか?―

 

 

 

建設仮勘定
(ガイドブックよりスキャン)


一言で言えば、建設仮勘定とは、設備の建設のための手付金や前渡金

 

 

建設のために借り入れた借入金の利子の税務上の取り扱い
(ガイドブックよりスキャン)

 


 



国税庁 基本通達・法人税法
第7章 減価償却資産の償却等 第3節 固定資産の取得価額等 第1款 固定資産の取得価額
ttp://www.nta.go.jp/shiraberu/zeiho-kaishaku/tsutatsu/kihon/hojin/07/07_03_01.htm

(スキャン)



>(借入金の利子)
>7−3−1の2 固定資産を取得するために借り入れた借入金の利子の額は、
>たとえ当該固定資産の使用開始前の期間に係るものであっても、これを当該固定資産の取得価額に算入しないことができるものとする。
>(昭55年直法2−8「二十一」により追加)
>
>(注) 借入金の利子の額を建設中の固定資産に係る建設仮勘定に含めたときは、当該利子の額は固定資産の取得価額に算入されたことになる。


税務上は、一言で言えば、借入金の利子は建設仮勘定に含めようが含めまいがどっちでもよい、という取り扱いです。
しかし、会計上は、どちらでもよいわけではありません。

日本基準では、支払利息は建設仮勘定に含めてはいけません。
しかし米国基準では、逆に支払利息は建設仮勘定に含めてなくてはいけません。


保守主義の原則を重視すれば、日本基準のように期間費用として即時費用計上すべきでしょう。
しかし、費用収益対応の原則を重視すれば、米国基準(そして日本の税務)のように支払利息は建設仮勘定に含めるべきでしょう。

Which do you think is more appropriate, the Japanese acounting principle or the US accounting principle?


以下、米国の半導体大手Micron Technology Inc.(マイクロン・テクノロジー・インク)の「有価証券報告書」を生きた教材として、
建設仮勘定と支払利息に関する日米の会計基準の違いを見ていきたいと思います。
理論を学んだ後は実際の企業の事例を学び理解を深めていく、これが経営管理学や会計の勉強の仕方です。

 


 


マイクロン・テクノロジー・インク(Micron Technology Inc.)
有価証券報告書(事業年度 自 2009年9月4日 至 2010年9月2日 提出日 2011年2月24日)

 

*注
Micron Technology Inc. の日本語の有価証券報告書は「EDINET」からしかダウンロードできないようです。
読者の便宜上のため、「EDINET」からダウンロードした有価証券報告書を当サイトにもアップしておきます。

 

「Micron Technology Inc. 有価証券報告書」 (当サイトより)


10-K annual report Oct 26, 2010 (Micron Technology Inc. より)
ttp://investors.micron.com/common/download/sec.cfm?companyid=ABEA-45YXOQ&fid=723125-10-174&cik=723125


「10-K annual report Oct 26, 2010」 (当サイトより)

 

 


(関連記事)

2011年12月27日(金)日本経済新聞 公告
マイクロンジャパン株式会社
第22期決算公告
(記事)

 


 


有価証券報告書注記
(1/189ページ)



関係会社の状況 子会社
(23/189ページ)



経理の状況 (注意書き)
(76/189ページ)



 

本邦における提出会社の株式事務等の概要
(180/189ページ)

 

 

 



経理の状況
【米国と日本における会計原則および会計慣行の主要な相違】

 

主たる相違点は以下の通りである。


(1)棚卸資産
(2)ソフトウェアの資産計上
(3)利息費用の資産計上
(4)長期性資産の減損
(5)企業結合
(6)のれん
(7)リース
(8)変動持分事業体の連結
(9)退職年金給付
(10)公正価値測定
(11)金融資産および金融負債のための公正価値オプション
(12)法人所得税の不確実性に関する会計処理
(13)資産の除却に係る債務に関する会計処理
(14)保証人の会計
(15)非支配持分

 



 


主たる相違点
(173/189ページ)



主たる相違点
(174/189ページ)



主たる相違点
(175/189ページ)



主たる相違点
(176/189ページ)



主たる相違点
(177/189ページ)



主たる相違点
(178/189ページ)

 

 

 



174/189ページに、主たる相違点として「(3)利息費用の資産計上」が書いてあります。
記載を引用しますと、

 

>米国では、利息費用の資産計上に関する会計基準により、自社で建設した資産に関連する一部の利息費用は資産計上され、
>資産の取得価格に算入し、それらの資産の耐用期間にわたり償却する。
>
>日本では、特別の場合を除いて利息費用の資産化は禁止されている。

 

これは日米の会計基準の中で差異が最も大きい処理方法の1つです。
いや本当にこれは非常に大きな差異です。
これを些細な差異だと思う人は会計が全く分かっていません。
自社の財務諸表に対し会計基準がどれくらいの数値だけインパクトを与えるのかはほとんど重要ではありません。
重要なのは、なぜ米国基準はそのように仕訳をし、なぜ日本基準はそのように仕訳をするのか、なのです。

 


 


一つだけ注意が必要なのは、これは会計上の話であることです。
厳密に言えば、これは「財務会計」の話です。

日本では、支払利息を建設仮勘定に含めてはいけない、というのは財務会計の話であって、
上の方で書きましたように、税務上(税務会計ともいいます)は、日本でも借入金の利子は建設仮勘定に含めてもよいのです。

これを財務会計と税務会計の差異といいます。
日本の会計基準と米国会計基準とには差異がありますが、
日本の財務会計基準と日本の税務会計基準(税務上の取り扱い)にも差異があるのです。
この差異を埋めるのが「税効果会計」です。
税効果会計を適用し、法人税等の調整を行い(貸借対照表では繰延税金資産や繰延税金負債を計上)、
税務上の取り扱いの影響を除いた、企業会計上の正しい期間利益を計算します。


支払利息と建設仮勘定の会計処理についての税効果会計の話をしますと、税務会計と財務会計で差異はありません。
借入金の利子は建設仮勘定に含めようが含めまいがどっちでもよいとなっています。
すなわち、税務上の取り扱いに幅がありますので、このことに関しては差異は生じないことになります。


企業会計ではまず財務会計に従って利益計算をしていくのですが、
税務上の取り扱いが財務会計と異なる場合は、財務会計の処理を変更するということはせずに、
税効果会計によりその差異を埋めていく、という流れになります。


財務会計には財務会計のルールがあり、殊更に税務に合わせるということはしません。
また逆に、税務には税務上の取り扱いというものがあり、殊更に企業会計に合わせるということはしません。
どこまで行っても、財務会計と税務会計は分かり合えないということでしょうか。

 

 



仮に、税務上、借入金の利子は建設仮勘定に含めまなければならない、という規定になっているとすると、
財務会計と税務会計で差異が生じることになります。
財務会計上は支払利息を既に支払っています。
しかし、税務会計上は、その支払利息の支払いをまだ認めません(まだ損金算入とみなさない)。
税務会計上支払利息を支払ったとみなすのは、建設が完了し建設仮勘定を本勘定に振り替え、減価償却が開始された時です。
減価償却が行われた時、その減価償却費の中に支払利息が含まれていると考え、支払利息分が損金算入されます。
それまでは財務会計と財務会計の間に差異が生じ続けます。
この差異は将来支払利息の損金算入が認められた時に解消します。
このような差異を「将来減算一時差異」といいます。

私は税務は専門ではありませんが、支払利息の損金算入が認められないというケースは
日本ではほとんどない(日本では支払利息はその期に全額損金算入できる)と思いますが、
仮に、税務上、借入金の利子は建設仮勘定に含めまなければならない、という規定になっているとすると、
建築物を建設途中の会社にとっては支払利息の支払いが税効果会計(将来減算一時差異)の対象になるでしょう。

 

 

支払利息を支払った時の税効果会計の仕訳

(繰延税金資産) xxx / (法人税等調整額) xxx

 

建設が完了し建設仮勘定を本勘定に振り替え、減価償却が開始されて以前に支払った支払利息の損金算入が認められた時の税効果会計の仕訳

(法人税等調整額) xxx / (繰延税金資産) xxx

 


 



建設仮勘定の話のついでと言っては何ですが、少し脱線して、今話題の「東京スカイツリー」の建設の様子を見てみましょう。
東京スカイツリーは東武鉄道株式会社が建設しています。
東京スカイツリーはどのくらい工事が進んでいるのでしょうか。
東武鉄道株式会社の有価証券報告書を見てみましょう。
東武鉄道グループの貸借対照表には「建設仮勘定」がたくさん出てきます。
これも生きた教材です。
東武鉄道株式会社の有価証券報告書は東武鉄道のホームページにはありません。
EDINETから各自でダウンロードして下さい(読者の便宜上のために当サイトにもアップロードしておきました。)。

 


有価証券報告書 東武鉄道株式会社(第191期(自平成22年4月1日 至平成23年3月31日))
(当サイトより)

 


 


個別財務諸表 注記事項
有形固定資産明細表
(105/117ページ)



 

連結貸借対照表
(47/117ページ)



 

個別財務諸表
(83/117ページ)



主要な設備の状況
セグメント
(20/117ページ)



設備の新設、除却等の計画
(24/117ページ)

 

 

 



東京スカイツリーの美しさに見とれてしまい、文章をうまくまとめきれませんでした。
東京スカイツリーの「建設仮勘定」については、有価証券報告書のキャプチャーに書き込んだコメントを読んで下さい。

 

 


それでは話を元に戻しまして、日本基準と米国基準とで仕訳がどのように変わってくるのか見てみましょう。
設定は以下の通りです。

工場を建設する。建設期間はちょうど2年間。1年目期首から工事開始。
1年目の期首に長期借入金(100億円)を借り入れて建設会社に前渡しする。
借入金の支払利息は期末に支払う。
2年目の期首に長期借入金(100億円)を借り入れて建設会社に前渡しする。
借入金の支払利息は期末に支払う。
3年目期首に工事完成。建設仮勘定から本勘定へ振り替える。
3年目期首から稼動開始。
3年目期末から減価償却を行う(耐用年数10年間、残存価額0、定額法とする)。


この時、日本基準と米国会計基準それぞれの仕訳は以下の通りです。

 

 


1年目

 

工場建設費用借入時の仕訳 (4月1日)

(現金預金) 100億円 / (長期借入金) 100億円


工場建設工事の代金を支払った時の仕訳 (4月1日)

(建設仮勘定) 100億円 / (現金預金) 100億円

 

銀行に借入金の利息を支払った時の仕訳 (3月31日)

日本基準

(支払利息) 10億円 / (現金預金) 10億円


米国基準

(支払利息)  10億円 / (現金預金) 10億円
(建設仮勘定) 10億円 / (支払利息) 10億円

 



 


2年目

 

工場建設費用借入時の仕訳 (4月1日)

(現金預金) 100億円 / (長期借入金) 100億円


工場建設工事の代金を支払った時の仕訳 (4月1日)

(建設仮勘定) 100億円 / (現金預金) 100億円

 

銀行に借入金の利息を支払った時の仕訳 (3月31日)

日本基準

(支払利息) 10億円 / (現金預金) 10億円


米国基準

(支払利息)  10億円 / (現金預金) 10億円
(建設仮勘定) 10億円 / (支払利息) 10億円

 

 

 



3年目の期首に工場完成・稼動開始

 

工場を建設中のところ、完成したので建設仮勘定から本勘定へ振り替えた時の仕訳 (4月1日) 

日本基準

(工場) 200億円 / (建設仮勘定) 200億円


米国基準

(工場) 220億円 / (建設仮勘定) 220億円

 

減価償却の仕訳(3月31日)

日本基準

(減価償却費) 20億円 / (工場) 20億円


米国基準

(減価償却費) 22億円 / (工場) 22億円

 

 

 


工場勘定が、日本基準では200億円、米国会計基準では220億円になっています。
20億円の違いがありますが、この価額の違いの中身は全て「今まで支払った支払利息の総額」です。
これが、支払利息を建設仮勘定に含めない日本基準と含める米国会計基準との違いです。

また、減価償却費が日本基準では20億円、米国会計基準では22億円となっています。
この違いは日本基準と米国会計基準との会計基準の違いが原因というわけではなく、
元々の減価償却の対象となる資産の価額が異なることが原因です。
減価償却費に2億円の違いがありますが、この価額の違いの中身は全て「今まで支払った支払利息の総額の期間配分」です。
支払利息を建設仮勘定に含めるか含めないかが、減価償却費の大きさに影響してくるのです。


会計基準の違いがこういった形で出てくるのです。

 


 


私は一番最初にこう問いました。


―支払利息は建設仮勘定に含めるべきなのか、それとも、期間費用として即時費用計上すべきなのか?
どちらが正しい会計処理方法だろうか?―


と。
原価計算の用語で言えば、支払利息を建設仮勘定に含める場合は、支払利息を「製品原価(建設原価)」と考えているということでしょう。
(もちろん工場等は会社にとって原価計算の対象ではありませんし完成後も棚卸資産ではありませんが、概念上、ということです。)
また、支払利息を建設仮勘定に含めない場合は、支払利息を「期間原価(期間費用)」と考えているということでしょう。
(これも期間原価という時には販売費及び一般管理費を指しますが、概念上、ということです。)

つまり、言い換えれば、この問いは、
支払利息は建設原価なのか、それとも、支払利息は期間費用なのか、
という問いに行き着きます。

保守主義の原則に重きを置くのなら、支払利息は期間費用と考えるべきでしょう。
また、費用収益対応の原則に重きを置くのなら、支払利息は建設原価と考えるべきでしょう。


「企業会計原則」と同様に今でも尊重しなければならないとされる「原価計算基準」にはこう書かれています。

>製品原価と期間原価との範囲の区別は相対的である

と。
製品原価と期間原価の区別すら絶対的なものではなく相対的なものであるのなら、
「支払利息は建設原価なのか、それとも、期間費用なのか」、という問いにも絶対的な答えはないのかもしれません。


今の私にはこの問いに対する答えは出せませんし、この問いに対する絶対的な答えはそもそもない、それが答えなのかもしれません。
会計は奥が深い、改めてそう思いました。