2011年12月1日(木)
輸出企業の為替変動対策 戦略的にドル建てを選択
リスク集約管理に利 アジア通貨の国際化 焦点
ポイント
○日本は自国通貨建て輸出が極めて低い
○取引コストに応じ相手国通貨かドルを選択
○アジア通貨を低コストで取引できる環境を
(記事)
【コメント】
つっこみ所がありすぎる記事だと思いました。
見出しから間違っています。
貿易の決済に用いられる通貨は事実上ドルのみです。
他の通貨は使えません。
他の通貨は選択できないのです。
日本企業による円建ての輸出というのは、極めて低いどころか、全くないと言っていいくらいだと思います。
貿易というのは相手がいる話です。
輸入の場合も輸出の場合も、決済は円建てでよいかと相手企業に聞いても応じてくれないでしょう。
円建てでは輸出も不可能ですし、輸入も不可能です。
記事には「製造業の円建て輸出比率」という表が載っています。
この表は一体何の表なのでしょうか。
完全に作り話ではないでしょうか。
例えば、製造業全体の輸出のうち、円建て輸出は48%という意味かと思いますが、そんなことはあるわけがありません。
はっきり言えば、円建てはゼロです。
表中の数字は全部ゼロと言っていいと思います。
一体何のアンケートをとったのでしょうか。
この表は問題があり過ぎます。
記事には他にも、
>企業規模が大きいほど貿易取引に多種類の外国通貨を使っており、
と書いてありますが、これも完全にデタラメでしょう。
規模が大きかろうが小さかろうが、貿易取引にはドルを使っています。
なぜ、貿易に使用する通貨はどの国もどの企業もドルだけなのか、
この理由は一言で言えば、「どの企業も一国とだけ貿易をするわけではないから」となると思います。
例えば、ある日本企業が中国企業と貿易をすることを考えると、通貨は円か元のどちらかでよいように感じます。
しかし、その企業は中国とだけ貿易をするわけではありませんし、中国企業の方も日本とだけ貿易をするわけではありません。
日本企業側も中国企業側も、他国の企業とも貿易を行っているわけです。
仮に貿易のたびに相手国の通貨で決済するとなりますと、貿易相手国の数だけ通貨を保有していなくてはいけません。
10カ国と貿易をする場合は10通貨、20カ国と貿易する場合は20通貨を管理せねばなりません。
通貨の管理が非常に煩雑になるのです。
結局、貿易に使用する通貨は一種類のみの方がどの国にとってもどの企業にとっても便利だということになります。
では、貿易に使う通貨は一種類のみにするとして、どの通貨にするかというと、
長年の貿易慣行の中でドルに固まって行ったのでしょう。
貿易決済専用通貨を導入するという考え方もあるとは思いますが、
それには世界中の国々の足並みをそろえないといけませんので現実には無理なのでしょう。
貿易の際に使用する通貨は一種類のみでよく、それはドルでもユーロでも円でも元でも貿易決済専用通貨でもよいのです。
ただ、その通貨が世界中で安定していると見なされていることが大切になると思います。
通貨の価値があまり大きく変動したり紙くずになったりしないことが大前提だと思います。
そうしますと、超大国であり、軍事的にも世界を事実上制覇していて、言語も世界の共通語となっている
アメリカの通貨が一番現実的だということになっていったのでしょう。
あまりいい言葉ではないかもしれませんが、「みながドルを使っているから私もドルを使う」といった状態だと思います。
貿易の際に使用する通貨は本質的にはどれでもよいのですが、
「ネットワークの外部性」と同じような考え方でドルがデファクトスタンダードになっているわけです。
日本企業の為替リスク管理とインボイス通貨選択
−「平成21年度日本企業の貿易建値通貨の選択に関するアンケート調査」結果概要−
ttp://www.rieti.go.jp/jp/publications/summary/10060006.html
59ページもの大作ですが、この調査結果もおかしい気がしますが・・・。
全ては読んでいませんが、各企業の貿易取引上扱っている通貨について、
>最大では、15 種類の通貨を扱っている電気機器の企業がある。
と書いてあります(11/59ページ)。
これは、15種類の通貨を使って貿易を行っている、という意味ではないのではないでしょうか。
現地では現地の通貨を使っている、その合計が15種類だ、という意味ではないでしょうか。
どういうアンケートだったのかよく分かりませんが、
ざっと読んだだけですが、おかしなことばかりが書いてあるように感じます。
それにしても、最近の経済教室は無茶苦茶な記事が多いと思います。
ここまでくるとネタを通り越して悪質な感じすらします。
記事の執筆者は中央大学の商学部の准教授のようです。
研究者プロフィール
商学部/准教授
鯉渕 賢KOIBUCHI
Satoshi
ttp://ir.c.chuo-u.ac.jp/researcher/profile/00015009.html
また、東京大学公共政策大学院でも講義を行っているようです。
東京大学公共政策大学院
ttp://www.pp.u-tokyo.ac.jp/faculty/professors/SatoshiKoibuchi.htm
このようなデタラメな記事を書く人物が本当に大学で教鞭を取っているのでしょうか。
信じがたいという気持ちで一杯ですし、学生が気の毒な気もします。
執筆者は実務経験はないようです。
実務経験があれば、複数の通貨を使用して貿易を行うということが感覚的に何かおかしいなと感じることができると思います。
記事の内容とは関係ありませんが、やはり実務経験が一番大切だと思いました。
(だから学部出てすぐ働くべきであり、学部の続きとしてそのまま大学院に行くのはよくないと思いました。)