2011年9月26日(月)



2011年9月26日(月)日本経済新聞 経済教室
宮島 英昭 早稲田大学教授

企業統治――重み増す機関投資家 業績、外国人比率と連動性
M&A選択にも影響 経営権保護の仕組み課題


ポイント
○機関投資家の多い企業は統治改革に積極的
○外国人増でR&D支出減るとの見方は誤り
○時価総額下位企業では異なる規律付け必要
(記事)

 

 

 



【コメント】
株主をインサイダーとアウトサイダーと名称を付けて区分するのは目新しいなと思いました。
この種の区分ですと、「安定株主」と言ったり、「浮動株式」と言ったりすることが多いかなあという気がします。
ここでの定義を改めて書きますと、以下のようになります。


インサイダー・・・経営者と友好的な関係にあり、株価以外の関心から株式を保有する株主
(例:銀行、保険会社、経営者自身、従業員持ち株会、取引関係のある事業法人等)

アウトサイダー・・・投資収益を目的に株式を保有する株主
(例:国内機関投資家、国外機関投資家、個人株主)


ここで言っている”インサイダー株主”とは、いわゆる「安定株主」と呼ばれる株主と大体同じと考えてもよさそうですね。
1990年くらいまでは”インサイダー株主”の方が割合が大きく、”アウトサイダー株主”の方が少数派でした。
それが2000年くらいから”アウトサイダー株主”が逆転し、”インサイダー株主”の方が少数派になりました。
一般的な言い方をすると、「安定株主が減っている」、となるでしょう。
記事の結論をかいつまんで言いますと、”アウトサイダー株主”が増加したことは、コーポレート・ガバナンスの強化につながり、
収益性の向上(注:株価も上昇するとは書かれていない)にもつながっている、となるでしょうか。


記事の内容や結論などについては、それほど目新しいことが書かれているという印象は持ちませんでした。
企業と安定株主との関係に関する他の論文や記事等でも大体同じ様なことが書かれていることが多いと思います。

 

 

 



ただ一つ気になったのは、記事中の表「上場企業の株主構造」についてです。
この記事を書く上で一番大切な表だと思うのですが、これはどうやって算出したのでしょうか。
各企業のそれぞれの株主の保有割合を企業の株式時価総額で加重平均して数値を算出している、ということだと思いますが。
確かに、同じ議決権を獲得しようと思ったら、株式時価総額が大きいほうがより多くの金額が必要になりますから、
各株主がどれほど多くの金額を株式に投資しているかを見るためには、
株式時価総額で加重平均すること自体は理解できます。

ただ、それは膨大な作業量になると思います。
記事には、この表を作成するに当たっては「株式分布状況調査」を参考にしたと書いてあります。
「株式分布状況調査」とはこちらです↓。

株式分布状況調査
ttp://www.tse.or.jp/market/data/examination/distribute/index.html

このページにはたくさんの資料が載っていますが、各企業の株式時価総額については一切載っていません。
この表を作成するためには全上場企業の株式時価総額が必要になるはずですが。
上場企業は全部で何社あるかと言いますと、直近の2010年3月末時点で3,616社あります。
記事中の年度で言えば、2007年3月末時点では3,897社あります。
3,897社全ての2007年3月末時点の株式時価総額がないと記事の表は作れません。
さらに3,897社全ての各株主の議決権割合もないといけません。
3,897社全ての株式時価総額と各株主の議決権割合を手元に置いた上で、
各株主の議決権割合を全ての株式時価総額で加重平均しないといけません。


ちなみに、上場企業が全部で何社あるかはこちらの資料に載っています↓。

1-22 長期統計
ttp://www.tse.or.jp/market/data/examination/distribute/b7gje6000000508d-att/1-22.xls

(キャプチャー(昭和24年(1949年)〜平成22年(2010年の全上場企業数))

例えば1949年には全上場企業数は677社だと分かります。

 

 

 


どうなのでしょうか。
どこかに全企業の毎年3月末時点の株式時価総額の一覧表があるのでしょうか。
そして、全企業の毎年3月末時点の各株主の議決権割合の一覧表があるのでしょうか。
証券会社などの有料の法人向けサービスか何かでこのような資料が手に入ればいいのですが、
これを手作業でやるとなると、3,897冊の有価証券報告書を開かねばならず、気が遠くなるほどの作業量になると思います。

加重平均の計算自体はエクセルで簡単にできますが、3,897社全てのデータは手作業でセルに入力していかねばならないでしょう。
表の2007年の数値で言うと、「銀行・保険会社」の「12.2」という数値を算出しようと思えば、
3,897社全ての株式時価総額と、3,897社全ての銀行・保険会社の議決権割合の数字をエクセルに入力しないといけません。
エクセルの表の縦に3,897行入力していかねばなりません。
これを、「事業法人」、「外国人」、「国内機関投資家」とあと3回行わないといけません。
ここまでやってやっと2007年分が完成します。
この作業をさらに1990年分、1997年分、2002年分、とさらに3回行わないといけません。

・・・考えただけで気が遠くなりそうです。
何百時間かかるでしょうか。いやもっとでしょう。
この作業を行うだけで合計1,000時間くらいかかりそうですが。
大学教授にはいくら研究時間が豊富にあるとは言っても、数ヶ月では終わらないのではないでしょうか。
数ヶ月どころか、この作業に費やせるのは1日数時間程度でしょうから、1年くらいかかりそうです。
研究室の学生に手伝ってもらうとしても、・・・いや、学生の方が逃げ出しそうですが。

 

あまりこういうことは書きたくないのですが、記事中の表はでたらめなのではないでしょうか。
この作業をまともな人間がやるとはとても思えません。
3,897社全ての株式時価総額で加重平均したというのは嘘ではないでしょうか。
仮に嘘だとすると、この記事全体が何の説得力ももたないことになりますが。


私の無知や理解不足もしくは勘違いであることを望みますが・・・。
もしこの表が捏造なのだとすると、情けない話です。実に嘆かわしい。
同じ経営管理学の学究者として実に恥ずかしいふるまいだと思います。