2011年8月25日(木)
米アップルのスティーブ・ジョブズ最高経営責任者(CEO)がCEOの座を正式に退き、
ティム・クック最高執行責任者(COO)に譲り渡すことになった。病気治療で休養中だったジョブズ氏の退任は、
アップルにとって歴史的な転換期の訪れだ。
アップルはジョブズ氏が24日に取締役会に辞表を提出し、後任にはクック氏を任命することを
「強く推奨」したことを明らかにした。同社によると、ジョブズ氏は会長にとどまり、クック氏は取締会メンバーに加わる。
米バイオ医薬品大手ジェネンテックの会長でアップルの取締役会メンバーの一人でもあるアート・レビンソン氏は声明で、
「取締役会はティムが次期CEOに適任であると全面的に確信している」とし、ジョブズ氏は
「その無類の洞察力と創造力、発想力で引き続きアップルに貢献していく」と述べた。
クック氏(50)は、今年1月から病気療養中のジョブズ氏の最有力後継候補と広くみなされていた。
クック氏はアップルに13年勤めるベテラン社員で、ジョブズ氏が1997年に再びCEOに返り咲いた直後に入社し、
今回のジョブズ氏の不在期間中も、過去7年で2度の病気休養中もジョブズ氏に代わって日々の業務を執り行ってきた。
「私は、アップルCEOとして職務と期待が果たせなくなる日が来た場合、まず最初にあなたたちに伝えると
兼ねてから言ってきたが、残念ながらその日がやってきた」とジョブズ氏は辞任を伝える書簡で述べた。
事情に詳しい関係筋によると、ジョブズ氏は引き続きアップルで業務を続け、製品戦略に密接にかかわっていく。
アップル観測筋はクック氏のCEO就任後もその状況は変わらないとみている。
(ウォールストリートジャーナル 2011年 8月 25日 9:25
JST)
ttp://jp.wsj.com/IT/node_294489
米アップルのスティーブ・ジョブズ氏ほど会社のアイデンティティと密接に結びついたCEOはほとんどいない。
そのジョブズ氏が最高経営責任者(CEO)を退任することになった。今後も会長としてとどまるとはいえ、
アップルが今後もトレンドをけん引する製品と消費者を感心させるサービスを提供し、
市場をリードし続けられるかどうかは残された幹部スタッフの肩にかかっている。
ジョブズ氏はこれまでCEOとして、そのカリスマ的な存在感と消費者のニーズを捉える鋭い直観力を
存分に発揮してきた。だがジョブズ氏を支えてきた強力な経営チームは、これまで表舞台からはおおむね距離を置いていた。
ジョブズ氏の後継者になることがほぼ確実のティム・クック最高執行責任者(COO、50)は、過去7年で3度の
ジョブズ氏の病気休養期間中にCEO代理を務めてきた。
クック氏はジョブズ氏のような演出上手ではないが、クック氏を知る人たちは同氏を「業務の天才」と呼ぶ。
アップルの現在のサプライチェーン(流通網)システムを作り上げ、同社を今日最も効率的な電子機器メーカーの1つに
変ぼうさせる上で、クック氏は大きな責任を果たしてきた。
アラバマ州出身のクック氏は地元のオーバーン大学で生産工学を専攻し、ノースカロライナ州のデューク大学で
経営学修士(MBA)を取得。1998年、当時米コンパック・コンピューターに務め、将来の有力なCEO候補とみなされていたが、
ジョブズ氏に誘われてアップルに入社する。
「ティムは究極の意思決定者だった」。こう話すのはコンパック時代のクック氏の上司で、同社の製造部門を世界的に統括していた
グレッグ・ペッチ氏。ペッチ氏は当時のクック氏を思い出し、仕事に厳しい人物ではあるが、
激しい気性で知られるジョブズ氏とは異なり物静かだと話す。
クック氏はアップルに入社してから数年はコンピューターの製造部門を監督していた。
その後、世界的な営業部門とコンピューター「Macintosh(マッキントッシュ、通称マック)」を担当する
部門全体の指揮を任される。COO就任は05年。
クック氏を知る人たちは同氏について、礼儀正しいが自分の要求を通すことに関しては頑固でしつこいと話す。
また膨大な情報を吸収し、瞬時に問題を突き止める能力にたけているという。
クック氏のほかにアップルの近年のイノベーション(技術革新)を手助けしてきたスタッフに、
工業デザインチームを統括するジョナサン・アイブ氏がいる。アイブ氏を知る一人が同氏のことを
「スティーブと頭脳を共有する人物」と評しているように、アイブ氏とそのチームはアップルと競合他社との
差別化のカギを握る製品の外観と操作性の設計を担ってきた。
そのほか重要な人物には、スマートフォン(高機能携帯電話)「iPhone(アイフォーン)」向け
基本ソフト(OS)をはじめとするソフトウエア部門を指揮するスコット・フォーストール氏や、
インターネットサービス部門責任者であらゆる問題の調整役を務めているとされるエディー・キュー氏、
国際的なマーケティング部門を統括するフィリップ・シラー氏などが挙げられる。
彼らはいずれもジョブズ氏の側近を長年務めてきた。
ジョブズ氏はここ数年、会社の報道陣向けイベントで幹部スタッフの多くを表舞台に引っ張り出している。
そうすることで彼らにお墨付きを与えてきたようだ。
だがアップルを長年見守ってきた観測筋は、ジョブズ氏が85年にアップルを去ったあとの凋落ぶりを一度目にしており、
ジョブズ氏の圧倒的な個性とずばぬけた直観力がなければ、いずれ会社は再び衰退しかねないと懸念している。
現在の幹部スタッフの維持も困難な可能性がある。アップルの株価は近年急騰しており、
幹部社員はストックオプション(自社株購入権)で既に大金を手にしているため、会社にとどまる動機は薄れている。
その一例が小売り部門の責任者を務めていたロン・ジョンソン氏だ。ジョンソン氏はアップルストアの
成功の影の立役者だが、11月にアップルを離れ、米小売り大手JCペニーのCEOに就任する予定だ。
マックのソフトウエア設計を統括していたバートランド・サーレイ氏も3月にアップルを去っている。
だが、もし幹部社員のほとんどがとどまるのであれば、経営能力は十分だとする向きもある。
アップルにとって急成長の時期は過ぎ、今はそのビジネスの勢いを維持する
次の段階にさしかかっているというのが彼らの見方だ。
(ウォールストリートジャーナル 2011年 8月 25日 12:57
JST)
ttp://jp.wsj.com/IT/node_294614
CUPERTINO, Calif. -August 24, 2011- To the Apple Board of Directors and
the Apple Community:
I have always said if there ever came a day when I could no longer meet my
duties and expectations
as Apple's CEO, I would be the first to let you
know.
Unfortunately, that day has come.
I hereby resign as CEO of Apple. I
would like to serve, if the Board sees fit, as Chairman of the
Board,
director and Apple employee.
As far as my successor goes, I
strongly recommend that we execute our succession plan and name Tim Cook as CEO
of Apple.
I believe Apple’s brightest and most innovative days are ahead of
it. And I look forward to watching and
contributing to its success in a new
role.
I have made some of the best friends of my life at Apple, and I thank
you all for the many years of
being able to work alongside you.
Steve
(WallSteetJournal August 24, 2011, 6:40 PM
ET)
ttp://blogs.wsj.com/digits/2011/08/24/steve-jobss-resignation-letter-to-apple/
ジョブズ・アップルCEO退任の手紙
米アップルのスティーブ・ジョブズ最高経営責任者(CEO)は24日、CEOを退任する意向を同社の取締役会に通知した。
ジョブズ氏は会長職にはとどまる予定。
以下は同社が発表したジョブズ氏の書簡。
アップル取締役会とアップル・コミュニティの皆様へ:
私は、アップルCEOとして職務と期待が果たせなくなる日が来た場合、まず最初にあなたたちに伝えるとかねてから言ってきた。
ここにアップルCEOを辞する。取締役会が適当であると判断すれば、会長、取締役、アップル社員として留任したい。
私の後継者については、我々の後継者プランを遂行し、ティム・クック氏をCEOに指名したい。
この先、アップルの最も輝かしく革新にあふれた日々が待っていることを信じている。
新たな役割を果たすなかで、アップルの成功に貢献し、それを見届けられることを楽しみにしている。
私はアップルでは人生最良の友人を何人か得ることができた。多年にわたりあなたたちと働くことができたことを感謝する。
(ウォールストリートジャーナル 2011年
8月 25日 7:59 JST)
ttp://jp.wsj.com/IT/node_294438
この訳が日本語版の記事では、
>まず最初にあなたたちに伝える
となっていますが、これは間違いではないでしょうか。
この文は first の後に person が隠れています。
I would be the first person to let you know.
となります。書き換えれば、
I would be the first person who lets you know.
となります。訳していきますと、
"I would be the first person"
で「私は一番最初の人間になるだろう」となります。どんな人間かと言うと、
"person who lets you know"
ですから、「あなたたちに伝える人間」となります。全体を通して書きますと、
「私はあなたたちに伝える一番最初の人間になるだろう」
となります。日本語版の記事の訳は誤訳だと思われます。
前後も含めて英文と日本語文の両方を書き出してみます。
>I have always said if there ever came a day when I could no longer
meet my duties and expectations
>as Apple's CEO, I would be the first to
let you know.
>私は、アップルCEOとして職務と期待が果たせなくなる日が来た場合、まず最初にあなたたちに伝えるとかねてから言ってきた。
日本語訳だけ読みますと、この日本語訳でも何となく意味が通じてしまいますね。
しかしやはり元の英文からは意味が外れた日本語訳になっていると思います。
英文に忠実に訳すならば、
”私はまず最初にあなたたちに伝えるだろう”ではなく、「私はあなたたちに伝える一番最初の人間になるだろう」が正しい訳です。
”私はまず最初にあなたたちに伝えるだろう”という日本訳だとすると、元の英文は例えば
I
would let you know at first.
などとなると思います。
ここでスティーブ・ジョブズ氏が言いたいのは、
「私がCEOを辞任することをあなたたちに伝えるのはまず何といっても私が一番最初だ」
ということなのです。
アップルの取締役会や従業員がCEO辞任のニュースを初めて聞くのは、
業界に詳しい人物からでもなければテレビやインターネットのニュースからでもなければツイッターからでもない、
まさに私スティーブ・ジョブズ本人からにする、と言いたいわけです。
他の誰かからこの話を初めて聞くなどということは決してしません、とスティーブ・ジョブズ氏が言いたいのです。
私がCEOを辞任するという発表は極めて重要です。ですから、私の口から直接皆さんに伝えます、と言いたいのです。
他の誰かから聞いたという状態は決して作りません、とスティーブ・ジョブズ氏は言いたいのです。
私がCEOを辞任するという発表を聞いたのは、私からが初めてのはずですよね(そうでないとおかしい)、
という意味合いが含まれます。
”私はまず最初にあなたたちに伝えるだろう(I would let you know at
first.)”の方は、
CEOを辞任することを決めたら、決して他の誰かに伝えることなく、私はとにかくみなさんに一番最初に伝えます、
というニュアンスでしょうか。
「私はあなたたちに伝える一番最初の人間になるだろう(I would be the first to let you
know.)」の方は、
CEOを辞任することを決めたら、この話を先に他の誰かにも伝えることはあるかもしれないが、
とにかくみなさんがこの話を聞くのは私からが一番最初になります、
というニュアンスだと思います。
どちらの日本語訳も大体同じ様な意味になりますし、アップルの取締役会や従業員にとってはほとんど同じことなのかもしれませんが、
敢えて英文に忠実に訳すなら、このような違いが出てくると思います。
文字や単語や文法といった言語構造が日本語とは根底から異なる英語を日本人が読んでいく時には、
「単語と文法」から攻めていくしかない、が私の持論ですので敢えて細かいことを書いてみました。以下、私の日本語訳です。
>I have always said if there ever came a day when I could no longer
meet my duties and expectations
>as Apple's CEO, I would be the first to
let you know.
【参謀訳】
アップルCEOとしての職務と期待にこれ以上答えることができなくなる日がいつの日にか万が一にも来た場合、
私はCEO辞任の話をあなたたちに伝える一番最初の人間になるだろう、
と私はいつも言ってきた。
>私からまず皆様にお伝えする
となっています。これも上手い訳ですね。
以下、アップルの日米のサイトから引用します。
August 24, 2011
Apple
Letter from Steve Jobs
To the Apple Board of
Directors and the Apple Community:
I have always said if there ever came a day when I could no longer meet my
duties and expectations as Apple’s CEO,
I would be the first to let you
know. Unfortunately, that day has come.
I hereby resign as CEO of Apple. I
would like to serve, if the Board sees fit, as Chairman of the
Board,
director and Apple employee.
As far as my successor goes, I
strongly recommend that we execute our succession plan and name Tim Cook as CEO
of Apple.
I believe Apple’s brightest and most innovative days are ahead of
it. And I look forward to
watching and contributing to its success in a new
role.
I have made some of the best friends of my life at Apple, and I thank
you all for the many years of being able to
work alongside you.
Steve
ttp://www.apple.com/pr/library/2011/08/24Letter-from-Steve-Jobs.html
2011年8月24日
スティーブ・ジョブズからの手紙
Apple取締役会およびAppleコミュニティーの皆様
私はこれまで常々、私がAppleのCEOとして職務と期待に応えられなくなるような日が来たときは、
私からまず皆様にお伝えすると申してきました。残念ながら、その日が来ました。
私はAppleのCEOを辞任いたします。もし取締役会が認めてくださるならば、取締役会会長、取締役そしてAppleの従業員として
今後も務めさせていただきたいと思います。
私の後任には、継承計画を実行し、ティム・クックをAppleのCEOに任命するよう、強く薦めたいと考えています。
Appleの最も輝く、最も革新的な日々はこれからだと信じています。その成功を新しい役で見守り、
また貢献したいと思っております。
私はAppleで、生涯で最高の友人と言える人たちと出会いました。長年にわたり、皆様と一緒に仕事をさせていただいことに
感謝いたします。
スティーブ
ttp://www.apple.com/jp/pr/library/2011/08/24Letter-from-Steve-Jobs.html
最後に、スティーブ・ジョブズ氏にお疲れ様と言いたいと思います。
波乱万丈、この言葉がぴったりの人生だったのではないだろうか、と思います。
まだ取締役会長としての職務はありますのでアップルから完全に離れてしまうわけではないのでしょうが、
次期CEOの選任もCEOの大切な役割の一つなのでしょう。
次期CEOのティム・クック氏はスティーブ・ジョブズ氏が入院中も立派にCEO代行を務めている経験がありますので、
順調に引継ぎが行われるものと思います。
スティーブ・ジョブズ氏がCEOを辞任すると聞いても、取締役会も従業員もアップル製品消費者も株式市場も
誰も何の心配もしていないでしょう。
それはCEOとしてのスティーブ・ジョブズ氏の職責が軽いからではなく、
アップルには優秀な取締役や従業員が大勢いるからです。
現在のアップルほど、CEOが何の不安もなく辞任できる会社はないでしょう。
ひょっとすると、CEOの役割とは、株式時価総額世界一を達成するとか、キャッシュフローの最大化などではなく、
自身がCEOを辞任する際、「安心して社を去ることができる会社を作り上げること」なのかもしれません。
「俺が今CEOを辞任しても何の問題もない。それくらい我が社は磐石だ。」
そう言ってCEOを辞任するCEOこそが最高のCEOなのでしょう。
アップルの益々のご発展を心よりお祈り申し上げます。
女子アナ総合研究所 総長 昔人生参謀今経営参謀
スティーブ・ジョブズ氏の心境
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