2011年8月10日(水)



2011年8月9日(火)日本経済新聞
鉄鋼大統合への道 激変する市場 上
電炉・海外勢も参戦 価格・供給力で支持拡大
(記事) 

 

 


2011年8月10日(水)日本経済新聞
鉄鋼大統合への道 激変する市場 下
内需低迷・輸入増 再編の波、国内流通にも
(記事)

 

 

 



参考になるかどうか分からない書籍

 


「現代ファイナンス論 改訂版 【意思決定のための理論と実践】」 (ピアソン・エデュケーション)
ツヴィ・ボディ、ロバート・C・マートン著 大前恵一朗訳

 

第6部 コーポレート・ファイナンス


第17章 ファイナンスと企業戦略

17.1 M&A

557ページ

 

558〜559ページ



560〜561ページ

 

 

 



【コメント】
国内市場の縮小を考えれば、製鉄会社が経営統合を行っていくのは至極当然だと思います。
これは製鉄会社に限らず、どの業種業態でもそうなのだろうなと思います。
市場全体の規模は小さくなっているのに、その業界の企業全体の規模(全生産能力等)はそのままという方が不自然かもしれません。

外部環境の変化に対応していくことが経営です。
市場規模縮小という環境変化に対し業界全体の規模を縮小することで対応していく、
という考え方もまた経営戦略の一つと言えるのではないでしょうか。

 

業界全体の規模を縮小することは恥ずかしいことじゃない。
環境の変化に対応しないことが恥ずかしいんだぞ。

 

 

 

 


というわけで、参考になるかどうか分かりませんが、コーポレート・ファイナスの教科書を紹介します。
「企業がM&Aを行う理由は何か?」という問いについて考えます。
全5ページですが、ざっと読む分にはいいかもしれません。

例題が2つついています(例題17-2はスキャンしていませんが)。
正解は教科書の記述そのままという位置付けなのでしょうが、自分で解答をまとめてみるとよいでしょう。


解答例が後の方に載っていましたので、例題と解答例を改めて書き出してみます。
例題の解答のより詳しい説明は教科書の記述を読んでください。

 

例題17-1 
M&Aを行う3つの理由について説明せよ。

解答例
M&Aを行うには次の3つの理由がある。
○シナジーによりコストを下げる。
○税金を節約する。
○市場で過小評価されている企業を購入する。

 

例題17-2
ダイバーシフィケーションを目的として企業が合併するのが適当でない理由を述べよ。

解答例
ダイバーシフィケーションのためにM&Aを行うのは適当ではない。株主は自分たち自身でポートフォリオの
ダイバーシフィケーションを行うことができるので、企業自体でダイバーシフィケーションを行う必要性はないからである。

 

 

 



ダイバーシフィケーションとは「多角化」のことですが、この教科書によると企業は多角化を行うべきではないとのこです。
その理由は、株主は複数の企業の株式を保有することができるから、とのことです。

これはファイナンスの教科書によくありがちな説明です。
他の教科書でも同じ様な記述を見ましたし、おそらく今でも大学の授業ではそのように教えているのかもしれません。


この説明は理解できなくはないのですが、でも何か釈然としません。
確かに会社は株主のものですし、会社は株主の利益のために経営が行われるべきだというのはその通りだと思います。
しかし、会社は株主だけのものだと割り切ったとしても企業は多角化を行うことはあると思います。
例えば、環境の変化が激しく手がけている事業が1つだけだと利益の変動幅が大きく経営が不安定だが、
異なる事業を手がけている2社が1つになればリスク分散に加え利益の平準化が図れるため安定した経営が行われる、
といったケースですと企業が多角化することに何の不思議もありません。
2社がばらばらのままだと両社とも倒産するかもしれません。
しかし2社が一緒になれば安定した経営が行われるということであれば、それは両社の株主の利益にもなるでしょう。
2社がばらばらのままでいて、両社とも倒産してしまうようであればそれこそ両社の株主の利益に反することになります。


教科書のこの説明が間違っている理由を考察しますと次のようになります。

確かに株主は個別の企業の株式を別々に購入することができる。
しかし、企業の側は別々のままなのでそれではリスク分散や利益の平準化を達成することは不可能である。
株主が複数の企業の株式を一緒に購入したら企業の方まで1つになると考えている点が間違いではないだろうか。


株主のポートフォリオはそれで1つなのかもしれませんが、企業は依然として別々のままなのです。
これが環境の変化に応じ企業も多角化を行わなければならない理由です。

 

 

 

 


教科書の間違い探しついでに、他にもこの教科書の記述が間違っていると思われる部分を紹介します。
第10章に「リスク管理の基礎」という章がありまして、企業はいかにリスクを管理していくべきかについて書いてあります。
ここに次のような例題があります。

例題10-4
政府が、すべての自動車所有者に保険加入を義務付けた場合、交通事故のリスクを最終的に負担するのは誰か。


私はこの例題を見て答えは即座に「保険会社」だと思ました。
なぜなら、保険に加入しているなら交通事故を起こした場合に支払う様々な費用は保険会社が負担するからです。
保険に加入している時点で交通事故時の費用の支払いのリスクは保険会社に移転しているわけです。

と思って解答を見ますと、なんと

答: すべての自動車所有者である。

と書いてありました。
これはおかしいのではないでしょうか。
交通事故を起こすか起こさないかは確かに自動車所有者(自動車運転者)にかかっています。
自動車所有者(自動車運転者)が安全運転を心がければ交通事故は起きにくいでしょうし、
自動車所有者(自動車運転者)が危険な運転ばかりするようだと交通事故だらけでしょう。
自動車所有者(自動車運転者)が交通事故を起こすか起こさないかについては保険会社は関係はありません。
しかし、今ここで議論しているのは保険料の支払いとか事故時の費用の支払いという経済的な側面についてです。
自動車所有者(自動車運転者)がどんなに危険な運転をしたとしても保険に加入している時点で
交通事故時には保険会社は一定の費用の支払いを行わなければなりません。。
自動車所有者(自動車運転者)はリスクを負担しなくてすむように保険に加入するのです。
自動車所有者(自動車運転者)が保険料を支払っている時点で交通事故のリスクは保険会社に移転します。

運転免許センターで安全運転の講習を受けているのではないのですから、
交通事故のリスクを最終的に負担するのは自動車所有者であるというのは間違いだと思います。

 

 

 

 



昨日と同じ様にこの教科書の文句ばかりを書いているようになってしまいました。
しかし、経営管理学を学ぶ上で良い教科書を用い正しい理解を行っていくことは大切なことだと思いましたので書きました。
決して他意はありません。

もし私が大学で教鞭を取るようなことがあれば、この教科書は使いません。
それくらいこの教科書にはおかしいなと感じる部分や解説が不十分でこれだけでは理解できるはずがないと感じる部分が多いのです。

 

この教科書の一番最初の「序」にこう書いてあります。


>本書ファイナンスは、学部上級生から修士課程(MBA)の1年生レベルを対象とした教科書である。

 

そして一番最後の「訳者あとがき」にはこう書いてあります。


>本書は、ハーバード大学経営大学院(ハーバード・ビジネス・スクール)のMBAプログラムにおいて、
>第1学年の必修科目”Finance”に使用された教科書の邦訳である。

 

私はこのあとがきに対してこう書き込んでいます。


>☆ハーバード大MBA1年坊のファイナンスのレベルもこの程度。なあ〜んだってね。

 

 

 

 



ハーバードのMBAの連中がこの教科書でファイナンスを学んでいるのかと思うと少し心配になってきたのを覚えています。
本当にコーポレートファイナンスを理解しているのだろうかと。
おそらくしていないだろうなと。

 


コーポレート・ファイナンスを勉強するのなら、分量はこの教科書の2倍以上になりますが、


「コーポレートファイナンスの原理」 大野薫訳 (社団法人金融財政事情研究会)

もしくは

「コーポレートファイナンス」 藤井眞理子・国枝繁樹監訳 (日経BP社)


のどちらかがお薦めです。

確かに全てを読み深く理解するには膨大な時間がかかります。
しかし、コーポレート・ファイナンスを身に付けようと思ったら基本的な学習からやっていくべきです。
遠まわりなようですが、これが一番だと私は思います。
これらの教科書に書かれているコンセプトを身に付け、それを実務に生かすには、時間をかけた勉強しかありません。