2011年7月11日(月)



エルピーダが新株とCB発行で約797億円を調達、設備投資などに充当へ


[東京 11日 ロイター] エルピーダメモリは11日、公募増資と転換社債型新株予約権付社債(CB)の発行による
総額約797億円の資本調達を正式発表した。半導体製造の設備投資や貫通電極(TSV)行程の新ラインの設置などに充当し、
市場環境の変動が大きいDRAM業界で競争優位性を保つための財務基盤を構築する。
 調達の内訳は、新たな普通株の発行による公募増資が約522億円とCBの発行が275億円。
主幹事は大和証券キャピタルマーケッツとモルガン・スタンレーMUFG証券。
 発行する新株は5727万株。需給を見て実施するオーバーアロットメント(273万株)を加味すると、
エルピーダの発行済み株式総数は現行(2億1751万7370株)から最大27%増加する見込み。
 募集の内訳は国内が全体の約3割に当たる1827万株に対し、欧州を中心とする海外が約7割。
新株の発行条件は7月25日から27日のいずれかの日に決め、払込期日は8月1日から3日のいずれかの日となる。
 CBの払込期日は8月3日。CB発行による発行済み株式総数に対する潜在株式の比率は47%になる見込み。
 エルピーダは調達した資金を、設備投資や借入金の返済の一部に充てる。具体的には、2013年3月までに広島工場の
30ナノ(ナノは10億分の1)メートルと25ナノメートルプロセスを用いた量産化を目的とする半導体製造の設備投資に
474億円、貫通電極(TSV)などの研究開発に150億円を投じる。また、残りを借入金の返済の一部に充当する予定。
 スマートフォンやタブレットパソコンの普及を背景に、モバイル機器向けのDRAMの需要は今後も堅調に推移するとみられ、
エルピーダは、新興国経済の成長とともに、PC向けのDRAMの需要増も見込めると予想している。
競合他社に先駆けて製造プロセスの微細化に向けた設備投資を行うことで、市場拡大の果実を最大限に享受する戦略を実施でき、
資金調達は適切なタイミングとの認識を示した。
 今回、新株とCBという2種類の有価証券の発行による調達となる理由についてエルピーダは、
成長に必要な資金調達を行う一方で、CB発行によって短期的に大規模な株式の希薄化を一定程度回避することを目的としている、
と説明。また今回のCBは既存の有利子負債に比べて低利での発行を想定しているため、有利子負債の低コスト化や
安定的な財務基盤の構築に寄与すると説明している。

 


 


 <株価は年初来安値を更新>

 エルピーダの株価は、午後零時37分に同社が公募増資などで800億円規模の資本調達を行う方向で最終調整に入った
とのロイター報道を受けて急落し、年初来安値を更新した。1株利益の希薄化懸念を背景に、900円近辺から、
3月15日に付けた直近安値(840円)を下抜け、一時768円まで下落。昨年11月以来8カ月ぶりの安値圏に突入した。
その後はやや下げ渋り、前営業日終値比13.33%安の787円で引けた。出来高は過去30日間の平均の約8倍に当たる
3756万株に膨らんだ。
 コスモ証券・投資情報部副部長の清水三津雄氏は「世界最先端の技術を持っていることから、ファイナンスを繰り返しても、
それに応じる投資家がいる。ただ、無配が続くなど資金調達が収益に十分結びついていないのも事実だ。
既存株主にとっては一株利益の希薄化につながるとの懸念が強く、売りが強まった」と指摘した。
 JPモルガン証券シニアアナリストの和泉美治氏は「PC向けの需要は軟調で、DRAM価格は当面コスト割れの水準で推移する」
とみており、「エルピーダが資金調達を急いだのは、PC向け需要が軟調なまま推移すると予想しているためかもしれない」と語った。
その上で同社はモバイル機器向けDRAMへのシフトを加速させるべきだとの見方を示した。
 一方、国内機関投資家からは「世界で半導体メーカーが集約されるなか、微細化技術などに強いエルピーダは生き残っていける
との期待感が強い」(大手投信会社のチーフファンドマネジャー)との声や、「DRAMの需給関係はどこかで改善するはずで、
台湾勢の淘汰(とうた)が進み、過当競争が終われば、エルピーダは残存者メリットを享受できる。
今はDRAM市況に株価が連動し短期のディーリング対象になっているが、エルピーダが業界再編を無難にこなせば、
長期投資家にとっても有望な投資対象になる」(大手投資顧問のシニアファンドマネージャー)との声もあった。
(ロイター 2011年 07月 11日 19:54 JST)
ttp://jp.reuters.com/article/domesticEquities/idJPnTK062926820110711

 

 

 


【コメント】
財務面から一言だけ。


>今回、新株とCBという2種類の有価証券の発行による調達となる理由についてエルピーダは、
>成長に必要な資金調達を行う一方で、CB発行によって短期的に大規模な株式の希薄化を一定程度回避することを目的としている、
>と説明。また今回のCBは既存の有利子負債に比べて低利での発行を想定しているため、有利子負債の低コスト化や
>安定的な財務基盤の構築に寄与すると説明している。


普通株式による増資の他に、転換社債型新株予約権付社債を発行する理由として、
”既存の有利子負債に比べて低利での発行を想定しているため、有利子負債の低コスト化”につながる、
と書かれています。
既存の有利子負債とは、普通社債などのことでしょう。
簡単に言うと、転換社債型新株予約権付社債は普通社債よりも金利が低い、というのがエルピーダの説明です。

 

 



しかし、これは細かいことを言えば間違いです。
確かに、転換社債型新株予約権付社債は「転換する権利」の分だけ普通社債よりも見かけ上の金利は低くなるでしょう。
しかしそれは同時に株式の希薄化というデメリットを併せ持つのです。
転換社債型新株予約権付社債が普通株式に転換されると株式の希薄化が起こり、
仮に1株当たり同じ額だけ配当を支払おうとすると、配当金の支払いの額が増加することになります。
増加した配当金の支払い額が社債利息の支払い額よりも少ないとは限りませんし、
社債利息の支払いは損金算入できるのに対し、配当金の支払いは損金算入できません。
税効果まで考えると、負債利用の方がキャッシュ面では有利なことも多いのです。


財務諸表で言えば、損益計算書上は転換社債型新株予約権付社債の利払いの方が普通社債の利払いの方よりも少ないのですが、
転換社債型新株予約権付社債を普通株式に転換した後のことを考えると、
転換社債型新株予約権付社債には損益計算書には表れないコストが発生しているのです。
コストが損益計算書には表れないならどこで把握するかと言えば、
配当金の支払いはキャッシュフロー計算書の「財務活動によるキャッシュフロー」の欄を見ると良いでしょう。
転換社債型新株予約権付社債は損益計算書における費用面で見かけ上有利かもしれませんが、
普通株式転換後はキャッシュフロー計算書のキャッシュ面において必ず後になって効いてきます。


コーポレート・ファイナンスの用語を使って言えば、
普通株式に転換した後のことまで考えれば、
転換社債型新株予約権付社債の資本コストの方が普通株式の資本コストよりも小さいとは限らない、
となります。

普通株式による増資だろうか、優先株式による増資だろうが、転換社債型新株予約権付社債の発行だろうが、
普通社債の発行だろうが、銀行からの借り入れだろうが、コマーシャル・ペーパーの発行だろうが、
ある資金調達方法が他の資金調達方法よりも資本コスト面で一方に有利である、ということはあり得ないのです。
どの資本調達方法も一長一短なのです。どの資金調達方法もメリットとデメリットの両方が存在するのです。
資金調達後の貸借対照表には、借方(現金)には色はありません。しかし、貸方(負債・資本)には色があるのです。
企業の手許現金量や内部留保の額や負債比率の状況等を総合的に判断して資金調達を行う方法を決定しなければなりません。