2011年5月13日(金)



今日のタイトル 「ひとりでできるもん!」

 

 


2011年5月13日
大正製薬株式会社
単独株式移転による持株会社の設立に関するお知らせ
ttp://www.taisho.co.jp/company/release/2011/2011051301.pdf

 

 

 

 

 

 

 

 

 

率直な感想:「株式移転てひとりでできるもんなんだなあ」

 



【コメント】
株式移転が一社だけでできるとは知りませんでした。
一社だけで株式移転というのは盲点といいましょうか、コペルニクス的発想の転換といいましょうか。
頭の柔らかさには自信がある私も一社のみの株式移転とは考えもよりませんでした。
テレビ番組「ひとりでできるもん!」をウィキペディアで調べますと、

>小学生向けの料理番組という意表を突いた新しいジャンルを切り開いた番組である。

とありますが、一社だけで株式移転とはまさに意表を突かれた感じがします。
単独株式移転と聞いて「そんなことができるのか?」とびっくりしました。
株式移転と言いますと、まず間違いなく2社以上で行うものだからです。
会社法上、一社のみで株式移転が可能であるとは今日初めて知りました。
私も全ての事例を知っているわけではありませんが、
ひょっとすると、大正製薬が一社のみで株式移転を行った初めてのケースかもしれません。


私も修学旅行の時をはじめ、単独行動をよく取りますが、株式移転を単独で行う勇気はありませんでした。
ソフトボールの試合の時も、単独スチールばかりを試みて、みなさんに大迷惑をかけました。
この場を借りて謝罪したいと思います。
単独行動ばかりを取っていましたら、ついたあだ名が「タンドラー」でした。
「組織構造は戦略に従う」、それはチャンドラー。
あのアクティビスト・ファンドのスチール・パートナーズの名は、この時の私の単独スチールに由来します。
というのは冗談ですが。


まあ冗談はともかく、一社のみで株式移転というのは、何と言いますか、その、
「一人デート」みたいな感じを受けます。それはただの一人旅だろ、と突っ込みたくなるような感じです。
一人芝居とも異なり、それは二人以上いないとそもそも成立しない行為のはずだが、と思ってしまうわけです。
一人で行う株式移転、それは何か一人の軍隊「ワンマン・アーミー」という気がします。

(イメージ図)



 


まじめにコメントしましょう。
ある事業会社が組織再編の一環として持株会社を設立する場合は、株式移転ではなく、会社分割を行うことがほとんどです。
具体例を挙げてみましょう。

 

 

2011年5月13日
株式会社ゼンショー
持株会社体制への移行に伴う準備会社の設立と店舗運営事業の会社分割及び定款変更に関するお知らせ
ttp://www.zensho.co.jp/jp/news/ir/20110514-4.pdf

 

 

牛丼のすき屋でおなじみの株式会社ゼンショーが持株会社を設立するというプレスリリースです。
ゼンショーは持株会社になるために、事業部門を会社分割するわけです。
これでゼンショーには子会社株式のみが残ることになります。
プレスリリースには

>なお、本件分割は、当社100%子会社との間で行う吸収分割であるため、開示内容の一部を省略して開示しております。

とありますが、以前も別の企業について似たようなことを書きましたが、
これは吸収分割ではなく、実質的には「新設分割」だと思われます。

 


 


みなさんお馴染みのテレビ局で一社のみで持株会社(認定放送持株会社)を設立した企業を紹介します。

 


2008年11月5日
株式会社東京放送(現株式会社東京放送ホールディングス)
認定放送持株会社化に伴う会社分割および商号変更について
ttp://eir.eol.co.jp/EIR/View.aspx?cat=tdnet&sid=651097

 


2008年3月13日
株式会社フジテレビジョン(現株式会社フジ・メディア・ホールディングス)
認定放送持株会社体制への移行について
ttp://www.fujimediahd.co.jp/ir/pdf/news/2008/news0313.pdf

 


TBS(株式会社東京放送)には以前から「TBSテレビ」がありましたから「吸収分割」、
フジテレビ(株式会社フジテレビジョン)にはテレビ事業を継承する受け皿会社がありませんでしたから「新設分割」です。


日本テレビとテレビ朝日はまだ持株会社(認定放送持株会社)には移行していません。

 


 



参考までに書いておきますと、テレビ東京は持株会社(認定放送持株会社)に移行していますが、
持株会社設立の際は会社分割ではなく株式移転を行っています。
これはテレビ東京グループの複数の会社が「共同持株会社」を設立する形を取ったからです。
TBSとフジテレビの場合とは持株会社設立の流れが異なっていました。
この例でも分かるとおり、やはり一社で株式移転を行うのは違和感を覚えます。

 

 

2010年5月14日
株式会社テレビ東京
テレビ東京ブロードバンド株式会社
株式会社BS ジャパン
株式会社テレビ東京、テレビ東京ブロードバンド株式会社及び株式会社BSジャパンの
認定放送持株会社設立に関する契約締結及び株式移転計画書の作成について 
ttp://eir.eol.co.jp/EIR/View.aspx?cat=tdnet&sid=799805

 

 

 



株式移転を行う場合も会社分割を行う場合も出来上がる形は同じになります。
持株会社の下に事業会社がぶら下がる形になります。
どちらも最終的には同じ形になりますが、なぜ株式移転ではなく会社分割を行うかと言えば、
主に株式の事務取り扱いが煩雑になるからです。
大正製薬株式会社のプレスリリースに書いてありますように、株式が上場している場合、
株式移転を行って持株会社を作りますと、形式上一旦上場廃止になり改めて新規上場を行う形になります。
これは形式的な手続きであり、投資家にとっては事実上連続して上場していることと同じなのですが、
事務手続き上は、法人としての以前の会社は上場廃止、そして新たな会社が新規上場する、という流れになります。
株主構成は全く変わらないのに、株主にも以前とは異なる新たな株式を割り当てなければなりません。
会社分割に比べ、株式移転は事務手続きが煩雑になるのです。

そういうわけでして、実務上は、持株株会社を作るときは、株式移転ではなく、会社分割を行うのです。
一社のみで持株会社を作るときに、株式移転を行おうが会社分割を行おうが同じことなのですが、
実務上の事務手続きを考えますと、全ての場合と言っていいくらい会社分割を行います。

ではなぜ大正製薬は会社分割ではなく株式移転を選択したのか。
はっきり言ってしまうと分かりません。
しかし、中学の理科の授業で「対照実験」という言葉を習ったでしょう。
広辞苑をひきますと「対照実験」とは
>ある対象について一定の因子の作用を明らかにする実験を行う場合、これと別に、その因子を取り除きそれ以外は
>全く同一条件下で実験を行って両者の結果を比較検討することがある。このとき後者の実験を対照実験と呼ぶ。
>ブランク-テスト。
と書いてあります。英語では「a control experiment」とも言うようです。
このたび、大正製薬は、一社で持株会社を設立するという全く同一条件下において、他の企業とは異なり自社のみが会社分割ではなく
株式移転を行うという因子が、どのような作用を持つのか明らかにする「大正実験」を行ったのではないでしょうか。
まあ冗談ですが。

 

経営コンサルタントとしましては、大正製薬は株式移転を行うのではなく、
全事業を新しく作った会社に分割する「新設分割」を行うべきだったのではと思いました。